俺の幼馴染がデッッッッかくなりすぎた 1

2‐8.トレーニングを終えて

「なにじゃねえ。横着すんな」

「ほえ?」


 りりさは、なんと。

 ストロー付き水筒を胸の谷間にうまいこと載せて、そのまま口をつけて飲んでいた。


「え~? だめ? 楽だよこれ?」

「フツーはできねえんだよそんなこと」

「おっぱいの数少ない利点なんだし! 活かしていかないと!」


 俺は頭を抱える。

 痴漢はあれだけ警戒してたくせに、なんでこういう時は無防備なんだよ。


「なんでも乗るよ? スマホとか、リモコンとか。ちょっとなんか置くとき、めっちゃ便利なんだから」

「人前で絶対するなよ」

「するワケないじゃ~んっ、家だからだよ!」


 一応、俺といる時間も『人前』にカウントしてほしかったのだが、言っても無駄そうなのであきらめた。


「ほら、次は背中」

「ひぃぃぃ~っ……!」


 ヨガマットにうつ伏せ寝そべって、上体をそらす運動。

 ――うつぶせになると、りりさの胸がスライムのようにつぶれるが、それは見なかったことにした。小さいバランスボールを二つ挟んでいるようだ。

 背中の筋肉は良い姿勢を保つのに重要だし、水泳でも特に使う筋肉である。りりさにとっては鍛えておくに越したことはないのだが。

 マシンや器具を使わないと、鍛えにくい部位の一つでもある。


「んんんにぃぃぃ~~~~っ……!」


 りりさが変な声をあげながら、上体をそらす。

 ――胸が、ヨガマットから離れきっていない。


「りりさ、もっとそらせ」

「こ、これ以上……んあっ、無理ぃ……っ! はっ、んあっ!」

「…………」


 限界まで状態をそらし、背中の筋肉を使いきるりりさであるが。

 やはり胸がデカすぎて、筋トレにさえ影響がある。仕方がないので、俺はそのままりりさに運動を促す。


「いっち……にぃ……さーんっ……しぃ……」

「ほれほれ、がんばれ!」

「ごーお……ろぉーく……なぁーなぁ……は、はちぃ……っ!」


 りりさが上体の運動を繰り返していく。


「はあっ、はあっ……はあ……ああっ……んんっ」


 3セットの運動を終えて、りりさが汗だくのままマットに倒れこんだ。

 うつぶせになると、ちょうど胸をクッションにして上体を支えている。

 ――胸が大きくて不便だ、大変だと言うりりさではあるが、俺から見ると、りりさなりに活用しているようにも見える。

 前に言っていた、胸の大きさもポジティブに受け止めたい、と。無意識に活用しているのも、そんな気持ちの表れだろうか。


「じゃあ次、腕立て伏せだな」

「おっ! まっかせて! 腕立てはちょっと得意だよ!」

「……そうなのか?」


 スクワットや背筋ではあれだけ苦労していたのに、腕立てだけ?


「もちろん! 見ててね……んしょっと……!」


 りりさは腕立て伏せの姿勢とると。


「いーちぃ……にーいっ……」


 腕を使って、全身を沈み込ませていく――。

 デカすぎる胸が地面に当たって、むにゅっとその形を変えた。その反動を使って、りりさが腕立て伏せの動作を反復する。りりさは余裕の顔だ。

 そりゃそうだろう。つまるところデカい胸のせいで、ちゃんと負荷がかかっていない。


「ふーっ……どう、トウジ? 腕立てはなかなかのもんでしょ?」


 十回の腕立てを終えて、りりさが汗をかく。やり切った感だすな。


「……りりさ」

「ん? どしたのトウジ?」

「セット数増やせ」

「ええ~ッ⁉ なんでぇ⁉」

「なんでじゃない、胸でインチキしてるからだ!」

「嘘ぉ⁉」


 活用するのとズルするのは違う。

 いや、りりさにその自覚はないのかもしれないが――どのみち、筋トレの効果が薄れていることに変わりはない。

 俺はふてくされるりりさをどうにかなだめつつ、筋トレを続けさせるのであった。


「ふー……」


 筋トレが一通り終わって。

 俺は、りりさの家で風呂を借りていた。やっぱり筋トレでかいた汗を、風呂でしっかり流すのは心地よい。

 りりさは文句ばかりではあったが。

 やはり後々の自分に帰ってくることはわかっているのか、筋トレには真面目に取り組んでいた。

 遠慮なく愚痴を言ってくるのは、相手が俺だからだろう。幼馴染ならではの雑さはあるが、同時に信頼も感じる。

 まあ風呂に入る前に。


『私も早く汗流したいから! さっさとお風呂あがってよね、トウジ!』


 などと言われたのは、やや不満だが。

 客人に対して、さすがに雑過ぎるだろ。筋トレも見てやったのに。


(……せめてゆっくり入ってよう)


 意趣返しとまでは言わないが、ま、それくらいしても許されるだろ。

 人の家の風呂は落ち着かないのが普通だが、りりさの家の風呂は子どものころと変わっていなかったので、不思議ななつかしささえ感じる。

 りりさには悪いが、もう少しだけ――。


「トウジー⁉ いるー⁉ いるよね?」


 ――どうやら、ゆっくりはできないようだった。

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