俺の幼馴染がデッッッッかくなりすぎた3

プロローグ.幼馴染、告白される

 文化祭が終わり、すっかり肌寒くなったころ。

 それでも、俺たちの習慣は変わらなかった。

 授業が終わると、弁当を持って中庭のベンチへと向かう。


「わ〜い、ご飯♪ ご飯♪ も〜、おなか空いちゃったよ〜」


 ウキウキの声で、購買で買ったパンを開けるのは、おさなじみりりさ。

 もうすっかり、中庭のベンチが俺たちの定位置になっていた。

 りりさ──高校で再会したおさなじみ

 先週行われた文化祭では、メイド服を着ながらミスコンに出場して、見事1位を勝ち取った。

 この事実を踏まえれば、学校一かわいい女子ということになるのだろうが──。


「? どしたの、トウジ? じーっと見てきて」

「紙パック、胸に乗せんなっていつも言ってるだろ……」

「だって〜! これが飲むのに一番ラクなんだもん! 数少ないおっぱいの利点なんだから、積極的に活用していかないと!」

「──はあ」


 りりさの胸の谷間に紙パックのジュースを置くと、奇跡的なバランスで安定する。

 理由はもちろん、他ではありえないほどの大きさの、りりさのバストのせい。

 そのサイズ、自己申告によればSカップ──なのだが、どんどん成長しているらしい。

 このバストのせいで、りりさは日常生活にさえ困っている。

 その重量に振り回されることもさることながら、ナンパ、スカウト、痴漢などなど──そんなろくでもない連中からりりさを守るため、俺がボディガードになった。

 ミスコン1位などというはくがつけば、困りごともその分増えるだろう。


(まったく──いつまでも子どもみたいだよな)


 今年も終わりが近づいてきた。

 きっと来年以降も、この生活は続くのだろう。

 学校一の美少女も、おさなじみの俺にとっては──ずっと変わらない、どこか子どもっぽいままの女子でしかない。

 かわいいかと聞かれれば同意はするが、学校一と言われたら『さすがにちょっとりすぎじゃないか?』と言いたくなる。

 俺とりりさは、ミスコンを経ても、そんな距離感のままだった。


「ていうか、寒くないのか? りりさ」


 俺が聞くと、りりさは首を振る。


「まだ全然へーきー。おっぱいが脂肪の塊だからかな? なんか、ずっとじんわり温かいんだよね〜。さっきまで教室にいたしさ」

「そう、か。それなら……」

「あと胸ポケットに、ちっちゃいカイロ入れてるから」

「…………っ」


 思わず、りりさの張りだした胸を見てしまう。

 りりさはその巨乳のせいで、ブレザーのボタンが留められない。

 必然的に、シャツの胸元は前に突きだして、胸ポケットをとんでもなく強調してしまう。

 話題に出れば、どうしても目線がそちらに向かった。


「ま、まあ、防寒してるなら、いいが──」

「トウジってば心配性! ほら、食べよ食べよ。お昼休み終わっちゃう」


 りりさはとっくにパンを食べ始めていた。

 俺もりりさの胸ポケットのことはいったん忘れ、俺も箸を取り出そうとすると──。


「?」


 中庭にある渡り廊下から、一人の女子生徒が小走りにやってきた。


「あっ、あのっ!」


 女子生徒が、走った息を整える間もなく、赤い顔で声をかけてくる──俺に。


「て、しろくん。ゴメン。ちょっとだけ時間、いいかな……?」

「あー……えーと……俺か?」


 顔は見たことある。隣のクラスの生徒だったはず。だが知っているのはそれだけ。

 というかそもそも、名前を聞いた覚えもない。


「B組のはしやまさん」


 困惑する俺を察したのか、りりさがそっと耳打ちしてくれた。助かる。


「ホント、ゴメン、すぐ済むから! お願い!」

「あ、ああ。ちょっとなら──」


 正直、昼休みはなるべく、りりさから離れたくない。

 俺がボディガードになる前は、上級生がりりさをからかいに来たり、デカい胸目当ての告白が何度かあったらしいからな。


「あー、私のことは気にしなくていいからね! ごゆっくり〜!」


 りりさがそう言って片手をあげた。

 当のりりさがそう言うなら仕方ない。


「ゴメンねさん、しろくん借りるね!」

「はいはい〜。トウジでよければいくらでもぉ!」


 所有権などないくせに、りりさはそんなことを言う。

 この隙にりりさが告白されないか心配だ。なにしろ学校一の美少女である。

 だが──はしやまの態度や空気を見る限り、これはまさか──。


(いや、まさか、な……)

しろくん、好きですっ!」

「────は?」


 そのまさかであった。

 りりさの告白を心配していたら、なんと俺のほうが告白されてしまった。


「そ、その、文化祭のミスターコンを見て、カッコいいな……頼りがいがあって、誠実で……素敵な人だなって、思ったの」

「いやいや待て待て」


 俺はちらりと、中庭のベンチを見る。

 ここはギリギリ、昼食を食べているりりさが見える位置。それでいて、会話は聞かれないであろう距離だ。

 りりさはのんきに白米をほおばっていた。こちらの話など絶対聞こえていない。

 まさか本当に、告白なんて繊細な話題だとは思わなかった。


「あー……スマン、はしやま──だよな? 俺たち、話したことなかったよな」

「うん、初めて……」


 なのに告白を?

 一目ぼれ、ということでいいのだろうか。

 改めて、ミスターコンの影響を思い知る。周防すおうならともかく、俺に告白してくれる女子が現れるとは思いもしなかった。


「もうどうしようもなくて、気持ちが抑えられなくて……好きです、しろくん!」

「あ、ああ、ありがとよ──」


 さて。

 俺はここからどうやって断るべきだろうか。

 なにしろ告白なんて初めての経験である。断り方もわからない。だが、一つだけ言えることがあるとしたら。


(彼女にするのは──無理だよな)


 俺には今、りりさのボディガードとしての役目がある。

 文字通り、りりさとはずっと一緒に行動している。

 そんな役目をこなしながら、彼女とデート? 物理的に無理だろう。

 ましてや、りりさとずっと一緒にいるのを許してくれる彼女がいるとは思えない。

 俺は頭をきながら、なるべく彼女を傷つけないために、言葉を探していた。


「あー、えっと、なんていうか……」

「あ、返事はいらないから」

「──へ?」


 あっさり言われて、こちらがめんらう。


「そもそも気持ちを伝えかっただけで、付き合うつもりとかはないの」

「そ、そうなのか」

「う、うん、だって──」


 はしやまは顔を赤くしながら、両手を胸に当てた。


「私、その……さんみたいな、すごいおっぱいじゃないから」

「…………は?」


 絶句する。

 彼女はなんの話をしているんだ?


「い、いや、そのね! 私も……ね? その、全然無いわけじゃないんだけどぉ……やっぱりさんにはかなわないっていうか……その、しろくんの好みじゃないと思うから……」

「???」


 混乱して言葉が出てこなかった。

 なんだ? 俺は一体、なにを聞かされてんだ?


「だから、その……きっとしろくんの満足するサイズじゃないから! だから付き合うつもりとかは、本当にないの! ただ、気持ちを伝えたかっただけで──」

「お、おう」

「聞いてくれてありがとう、しろくん! それじゃあね!」


 混乱でろくにしやべれない俺を置き去りにして。

 はしやまはさっさと行ってしまった。

 れられていたのは間違いないのだが──なんだか、盛大な勘違いもされたような。


(──マジか)


 俺は頭を抱える。

 りりさと四六時中、一緒にいるからなのか?


(巨乳好きだと思われてんのかよ、俺が!)


 とんだ不名誉である。

 いや好きか嫌いかで言えば──俺も嫌いではないのだが、とにかく問題はそこではない。


「トウジ〜? お話終わった〜?」


 はしやまが去ったのを見て、りりさが声をかけてくる。

 あまりに奇妙な告白に、しばらく俺は動けなかった。


「はあぁ」


 もういい。とりあえずメシだメシ。

 俺は中庭のベンチに戻って、手を付けていない弁当を開けた。


「──で、なんの話だったの? 告白された?」


 隣のりりさが、ニヤニヤしながら聞いてくる。

 まあ、はしやまが発していた雰囲気は、完全に告白だった。りりさが聞いてくるのも無理はないが──。


「……いや、まあ、好きだとは言われたけど」


 からあげを口に詰め込みながら、俺は答える。


「うっそ、ホントに告白されたの!? トウジのくせに!」

「どういう意味だよ──」

「付き合うの?」


 すっげえグイグイ来るなコイツ。なんなんだ。


「いや、付き合いたいとかは、言われなかった」

「は? どゆこと?」

「気持ちを伝えるだけで満足なんだとさ」


 りりさには、おさなじみゆえの勘で、うそをついてもすぐにバレる。

 ゆえに、俺はりりさと話すときは、うそをつかないよう気を遣っている。

 とはいえ、うそではないが、あえて言う必要ないこともある。


(まあ、端的に言えば──りりさがいるから、はしやまは俺と付き合うのを諦めたってことになるんだろうが……)


 まさかそれを、正直にりりさに話すわけにはいかない。


(りりさと一緒にいるから、勝手に巨乳好きだと思われて、付き合う話になる前にフラれた……なんて言えるか!)


 りりさとて、好きで巨乳になったわけではないのだ。

 自分の身体からだのせいで、他人の人間関係にまで影響を与えてしまった──そんな事実を知れば、りりさはどれだけ気にするだろう。

 わざわざコンプレックスを刺激するようなことは言わなくていい。

 俺もりりさのせいだなんてこれっぽっちも思っていないのだから、これでいいのだ。

 まあ──巨乳好きと思われている点は、不本意ではあるが。


「ふ……ふぅぅ〜〜ん、そうなんだぁ……」


 りりさは俺をちらちらと見ながら、意味深に髪をいじり始めた。

 どういう感情なのか、いまいちわからない。


「なんだよ」

「いや、トウジも告白されるくらいになったんだな〜って。やっぱミスターコンの影響?」

「そうらしいな。俺は優勝しなかったのに」

「恋愛っていうか、ファン的なヤツかもね。つぐるくんみたいに」


 俺はりりさのボディガード。

 ボディガードをしているうちは、他の女子と付き合うことなんて考えられない。

 俺も、恋愛のためにボディガードをやめるつもりは毛頭ない。

 結果論ではあるが──どのみち付き合う話になるわけではなかったと考えれば、向こうから断ってくれたのはむしろありがたいとさえ言える。


「ま、まあ、トウジもちょっとはね? イイ男になったってことじゃないの? 褒めてやろうじゃない!」

「お前はどの立場から言ってるんだ」

「あんな美人に! 好きになってもらえて良かったねぇ」


 そもそも──告白だったのだろうか?

 俺の感情を置いて、告白からお断りまで一瞬だったせいで、実感がまったくない。

 それはそうと、俺はきっとこれからもりりさのボディガードで手一杯で、恋愛なんてする余地はないのだろう。

 きっと、来年も、再来年も。

 そうなるに決まっていると──。

 この時はまだ、そんな風に思っていたのだ。

 これは高校一年の冬──強固だったはずのおさなじみの関係が、少しだけ、変わり始めた季節の話である。

刊行シリーズ

俺の幼馴染がデッッッッかくなりすぎた3の書影
俺の幼馴染がデッッッッかくなりすぎた2の書影
俺の幼馴染がデッッッッかくなりすぎたの書影