俺の幼馴染がデッッッッかくなりすぎた3

1-1.告白と女子会と遠い約束


 信じられないことが起きた。

 ビックリすぎて心臓が止まるかと思った。

 りりさ、高校生になって初めてのエマージェンシーコール。

 あのトウジが、頭が固くてちょっとどんくさいおさなじみが──告白された!


うそでしょ〜〜〜〜〜ッ!?)


 信じらんない!

 なんなら顔はちょっと怖いまであるのに、なんで告白されてんの!? いつの間にそんなに女子人気が生まれてたの!?

 私は、トウジの前では平静をよそおいつつ。

 内心では、もう慌てに慌てていた。

 だってトウジだよ!? どう考えても、つぐるくんみたいにモテモテになるタイプじゃないでしょう!?


(あ〜〜〜もう〜〜〜どうなってんのよぉ!)


 お昼休みにトウジが告白されてから、私は軽くパニック気味。

 午後の授業は、全然集中できなかった。

 こんなに私が慌ててるかというと──。


(トウジに恋人ができたら……もう私のボディガードできないじゃん! そんなの絶対マズいってぇ! トウジ以外のボディガードとか、無し無し絶対無し〜〜〜ッ!)


 私のおっぱいは、Sカップのビッグサイズ。

 このおっぱいに変な気を起こさず、かといって私が申し訳なくない範囲で、あれこれ無茶ぶりをできる親しい男子。

 そんなの、おさなじみしろトウジしかいないのだ。


(それなのに、なにを告白なんてされてるのよ! トウジ〜〜〜〜ッ!)


 考えたこともなかった。

 トウジに恋人ができたら、ボディガードはもう頼めない。

 モテたりしないだろうから大丈夫だと、勝手に思っていたのだ。

 ま、まあ? お世話になってるし? トウジがどうしてもって言うなら、私が彼女になってあげてもいい──くらいには思っていたけど。

 まさか他の女子に告白されるなんて。


(これは──緊急会議だね!)


 とにもかくにも、トウジのことを相談しなきゃ。

 私の信頼できる、クラスメイトの女子たちに。

 すなわち──りりさ主催の、女子会である。

 放課後──。

 いつものように「りりさ、帰るぞ」と声をかけてきたトウジへ、「今日は女子会だから!」と断りをいれて、私たちはファミレスにやってきた。

 いきなりのことに、トウジは困惑していたけど、帰りはつぐるくんに送ってもらう──と告げたら、あっさり了承した。

 女子たちはファミレスまで移動して、注文を済ませる。

 早速、会議開始──今日の参加者は、全部で5人。


「それで、どーしたのさ、りりさ。急な話って」


 まずはクラス委員のかさしよう──みーちゃんが聞いてくる。

 こういうときでもリーダーシップを感じさせた。


「それがさぁ──トウジが、お昼休みに告白されたの! 信じられない!」

「へーマジか」

「あら」

「ふーん」

「ちょっと! リアクション! 冷たくない!?」


 私が会議開くレベルの大問題のはずなのに。

 親友たちの反応は冷たかった。それでも友達なの!?


「相手は誰なのー?」


 ドリンクバーで色々まぜた謎ドリンクを飲んでいるのは、ざききり──通称えびちゃん。

 文化祭で衣装を作ってくれたり、頼りになる子なんだけど、なんか視線がずっと胸に向いている気がする。身長差のせい──だよね?


「えっとね、B組のはしやまさん」

「えっはしやま? 中学一緒だったぞ!」


 みーちゃんが驚いたように。


「どっちかというと地味なタイプだよな。そんないきなり、告白とかしそうなタイプじゃないっていうか……ちーは? 話したことある?」

「ちょっとからんだことがあるくらい。人柄までは詳しくは」


 さらっと言うのは、みーちゃんの中学からの友達──いわふゆ

 通称ふゆち。

 黒髪ロングのクールな見た目で、割と男子からも人気があるらしい。

 でも実際はクールとかではなく、自分から話すのが苦手なだけで、みんなの輪に入って話を聞いてるタイプ。

 でも、どんな話もちゃーんと聞いてくれるから、私は大好き。


「ただ、りりさがいるところに声をかけるなんて、大胆ね。それだけ気持ちが抑えられなかったのかしら」


 ふゆちがアイスコーヒーを飲みながら言う。

 確かに──はしやまさんの表情は、すっごく真剣だったと思う。


「まあ、りりさとしろくんは、いつも一緒にいるからね」


 さわやかな笑顔で笑うのは、イケメン偽装女子、周防すおうつぐるくん。


「タイミングが見つけられなかったのは、あると思う」


 ユニセックスの制服はいつも通りだけど、文化祭で賭けに負けたから、大きな胸は制服の上からでもよくわかる。

 でも、モテるのは相変わらずらしい。胸を隠さずモテるほうがいいと思う。

 文化祭が終わってからは、演劇部に入部したって。きっとこれからも、理想の王子様を演じていくんだろーなー。

 この四人に、私を加えたメンバーが、今日の女子会のメンツである。


「と! に! か! く! トウジが告白されたんだって! もうヤバすぎでしょ!」

「別に良くね? 高校生活してたら告白の一つや二つあるだろ」


 みーちゃんが両手を広げて。


「りりさだって、しょっちゅう告白されてんじゃん」

「胸をガン見しながら『好きです!』とか、告白って言わないの! せめて顔を見ろ! 目を合わせろ! まったくもう!」

「巨乳って大変なんだな……」


 みーちゃんが同情の視線を向けてくる。

 たしかに告白されたけど、あんなものノーカンだノーカン。

 文化祭が終わってから、知らない男子に告白されることも何度かあったけど、全員、胸目当てなのが手に取るようにわかった。

 一瞬も目を合わせず、おっぱいを見ながらした告白を、オッケーするわけがない。


しろくん──ね。人気あるみたいよ」


 アイスコーヒーを飲みながら、ふゆちは言う。


「文化祭からかしら。ミスターコンがきっかけで、気になる女子も増えたみたい」

「うっそ、マジで!? トウジのどこがいの!?」

「りりさ、おさなじみなのよね? ──えっと、顔は少し怖いし、ぶっきらぼうだけど、誠実だし、りりさのボディガードも真剣にやっているし、いところもわかりやすいと思うわ」


 淡々と告げるふゆち。


「私は……まだちょっと、しろくん、怖いけど」

「わかるー。でも料理男子なの意外だったし、好きな女子いるかもねー」


 ふゆちの言葉を引き継いで、えびちゃんが言う。


「絶対うわしなそうなのは、ポイント高いよねー」

「だーれかさんは、女と見ればすぐうわしそうだもんなー」


 みーちゃんが、つぐるくんを見てニヤニヤと笑う。

 みーちゃんは元々、かっこいいつぐるくんが大好きだったけど、文化祭からちょっと時間もたってるから、関係は少しずつ変わってきた気がする。

 お互いに遠慮がないっていうか? 端的に言えば、仲良しである。


「ボクは、どんな女の子も大好きだから。それをうわ性と言われたら否定はできないかな」

「おいおい! いちですって言えよ!」

「みんな愛してるから、いちだよ」

「かぁーっ! そこそこ! しろくんとの違いはそこですぅ〜!」


 うわ性と言われても、つぐるくんはニコニコしたまま。

 つぐるくんもつぐるくんで、少しずつメンタルが強くなってきたかも?


「じゃーなくてー! トウジに彼女ができたらどうしようって話だよ〜っ! もうボディガードお願いできないじゃ〜んっ!」

しろくん、彼女くらいで、りりさを放り出すようなはしなそうだけどな」

「私が申し訳なくなるじゃん! 彼女がいたら、ボディガードなんてお願いできないよぉ〜っ!」


 私が半泣きになっていると、ふゆちがじっと私を見てる。

 うーん、言いたいことがありそう。


「どしたの、ふゆち」

「あ、ええと、聞いていいことか、わからないのだけど──」

「いいよ、なんでも聞いて! 私たちの仲じゃん」

「そう、なら、聞かせてもらうわね」


 ふゆちは私の目をまっすぐ見て。


「あの──りりさは、しろくんが好きなの?」

「え? いや……えーと、うーん……?」


 好きか、と聞かれたら。

 きっと好きなのだ──もちろんおさなじみとして。

 男女関係なく、一番大好きな友達。でも、恋愛としては──?


「いやぁ〜、トウジがどうしてもって言うなら付き合ってあげてもいいけどさ? 私からみたら、まだまだガキンチョっていうかぁ? 恋愛対象にするには──さ?」

「そうなの」


 ふゆちは私の言葉を、肯定も否定もしなかった。


「自分から告白するほどではない、ってことなのね」

「うーん、そうなるかな?」

「答えてくれてありがとう──でもね、りりさ、しろくんのファンって、多いわけじゃないけど増えてるみたいだし、この調子だといつか彼女もできるかもね」

「うえぇぇ!?」

「今回は、形にはならなかったみたいだけど……告白されたというのは、そういうことなんじゃないかしら」


 ふゆちは、いつも熱心に人の話を聞いてくれる。

 そういうとこ、めっちゃ好き。

 自分の意見をあまり言わないタイプだけど──だからこそ、色んな人から色んな話を聞くだけで見えてくる、彼女なりの未来があるんだと思う。

 つまり、ふゆちがこう言うなら──。


「いつか、マジでトウジに彼女ができるってことぉ!? そんなのヤだぁ!」

「あはは、彼女でもないのに泣いてる〜! かわい〜っ!」


 えびちゃんが無責任な笑顔で笑い飛ばした。

 一番頼りになるボディガードが、他の女子のモノになる。

 そんなの、絶対ムリ! 許せない!


「まあまあ、りりさ、そんなに泣かないで」


 隣のつぐるくんが、自然と私の肩を抱き寄せてくる。


しろくんがお役御免になったら、ボクがりりさのボディガードをするから……ね?」

「いやぁだぁ〜〜〜っ! トウジがい〜〜〜い〜〜〜ッ!」

「そ、そんなにかい……!?」


 つぐるくんが絶望の顔をしている。

 でもつぐるくん、ポンコツなんだもん! トウジのほうが頼れるもん!


「あはは、フラれてやーんのっ」


 みーちゃんが茶化すと、つぐるくんはすぐイケメンの顔になって。


「結構つらいな……しようくん、慰めてくれるかい?」

「すぐうわするイケメンに、かける言葉はありませーんっ♪」


 あはは、とみんなで笑いあう。

 ううう、こっちの悩みも知らない感じで、みんな楽しそうだぁ。ズルい。

 私が開いた女子会なのに! 私が相談してるのに、なんで私がの外なのよぉ!


「なあ、りりさ、真面目な話──」


 みんなでふざけていたのに。

 次の瞬間、みーちゃんの顔つきが変わった。

 こういう時のみーちゃんは、正直めっちゃカッコいい。

 今だってクラスのリーダーで、そしてきっと、未来のバレー部キャプテンになるだろう──そんな表情を見せてくれる。


「アンタ、このままじゃヤバいよ?」

「へ?」

「私ら、もう高校生なんだし、告白も、恋愛もフツーのことだろ。彼女できたって、おかしくないって。そんなに心配なら、今のうちにアンタが、しろくん、捕まえとかないと」


 ──そんなこと言われても。


「捕まえとくって……だってさ、トウジはずっと、私のおさなじみで──」

「そこがヤバいって言ってんのさ。高校生なのに、いつまでもおさなじみじゃいられないだろ? 変わらない関係なんてないんだよ」


 みーちゃんの言葉が、ずきりと、私の中に刺さった。


『トウジはずっと、私と遊ぶんだよ』


 子どものころに約束した言葉が、リフレインする。

 当たり前だと思ってた。トウジがそばにいてくれることも、ボディガードをしてくれるのも。

 だって、ずっと遊ぶって約束したんだから。


(ううん──違うよね。このままじゃ無理なんてこと、わかってた)


 いま、トウジと一緒にいたら、すぐに恋愛に結び付けられる。

 子どもの頃はそんなことなかったのに。

 でも、私たちはもう高校生。並んで歩いてるならカップルだね、って思われるのが普通になってしまったのだ。

 幼稚園のころの関係性でいられないのは、ホントはわかってた。

 そもそも、トウジだって胸ばっか見てくるし! アイツ〜〜〜っ!

 ちゃんと『男の子』になってるのは、こっちだってわかってるんだからね!


(成長してんのよね、お互いに)


 私たち、高校生だもん。昔のまんま。なんにも考えず、毎日プールに行くような関係性ではいられないって。

 結局、トウジに甘えていたのだろうか。

 お互い、体がどんなにが大きくなっても、おさなじみとして接してくれるから──私もその距離感が、居心地よかったのだ。

 ただ、そうは言っても──。


「でも……そんなぁ……どうしたらいいか、わかんないよ。おさなじみ以外のトウジなんて、知らないんだもん」


 トウジと彼氏彼女になる?

 それがイヤというわけじゃないけど──ボディガードのために、そうなるのって、なんか違う気がしない?

 無理矢理に作った関係っていうかさぁ。

 でも、トウジに彼女ができるのも困るし──放置したらそうなっちゃうなら──。

 ううう、ダメだダメダメ! 思考がぐるぐるし始めた!


「あー、ヤバいわこれ。思った以上に重症だわ」


 みーちゃんが、あきれたとばかりに両手をあげた。


「そうね──しろくんも大変かも」


 ふゆちも静かに同意した。


「なあに、それぇ! どゆことぉ!」


 私が泣き叫んでも、みんなはほほみを浮かべるだけで、答えてくれない。


しろくんなら、りりさが大人になるまで、辛抱強く待っててくれそーじゃなーい?」

「うっわ! イイ男! どうしよ、私がこくろっかな!」

「深く考えずにそういうこと言うのやめなさいしよう。さらにこじれるでしょ」


 やっぱり私をの外で、三人が好き勝手に言い合ってる。

 結局どういうことなの!

 私にはまだ恋愛が早いとか、そういうことなのぉ!?


「ボクはそのままのりりさも好きだよ」

つぐるくんは全部好きっていうじゃ〜〜んっ!」

「もちろん、全部好きだからね。しろくんがボディガードをやめたら、いつでもボクを頼ってね」


 つぐるくんの発言も、要するに、私がお子ちゃまだと言ってるようなものだ。

 ちくしょー、みんなしてなんなの!

 私はイライラに任せて、フライドポテトをかじる。太るかもとか言ってらんない。

 青春には! カロリーが必要なのだ!


「いいもん! こうなったら、私が! 彼女ができないようにトウジを守るから!」

「いや、そういうトコだぞ、りりさ」

「ええっ!?」


 みーちゃんがあきれたようにつぶやいた。

 なにが『そういうトコ』なのか、私にはさっぱりわからないのだった。

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