俺の幼馴染がデッッッッかくなりすぎた3

2-3.旅館と卓球と混浴

「はぁぁぁぁ〜〜〜〜〜……」


 色んな意味で、刺激的だった卓球が終わる。

 りりさの乱れた浴衣ゆかたは、すぐにさんが気づいて直してくれた。

 ちなみにさんと周防すおうのバトルは、引き分けだったらしい。どっちも得意そうだもんな。

 その後、夕食を食べる。

 高級旅館の夕食は絶品だった。特にすき焼きが最高だ。

 山菜もしかったし、箱根の味を存分に楽しんだ。

 そして──。


「おお……絶景……」


 夕食でたっぷり酒を飲んださんは、早々に寝付いてしまい。

 周防すおうも彼女のフォロー。

 りりさも疲れたのか、テレビを見ていた。

 てんを楽しむには今しかない──もちろん、起きている二人にはちゃんと入浴することを伝えて。

 一人の貸し切りてんを楽しんでいた。


「最高だな──」


 湯気の向こうに、箱根の山影、そして星々が見える。

 客室までの縁石を照らす、ほのかなあんどん型ライトが、たっぷり雰囲気を出していた。

 一年の疲れが丸ごと洗い流されるようだ。

 待ち合わせからりりさが盗撮されたり、の会話が丸聞こえだったり、卓球が──とにかく、この旅行だけで色々あったものの。

 そんなのどうでもいいと思えるくらいの心地よさである。


(ああ、でも──)


 そういえば、りりさに謝ろうと思っていたのだった。

 しかし、客室も別々だし、果たしてそんなタイミングがあるだろうか。

 明日には箱根観光をする予定だし、二人っきりでゆっくり話すことが──。


「トウジ〜?」

「っ!?」


 思わぬ声に、俺はぎょっとする。

 客室から、露天に続く扉が開かれる。ここでりりさの声がするってことは、まさか──。


「私も入ってい〜い? いいよね?」

「はっ、お前──」

「大丈夫だって! ちゃんとガードしてるから!」


 そう言って登場したりりさは、きちんと備え付けのみ着を身に着けていた。

 女性用のそれは、ぶっちゃけバスタオルを巻いただけにも見えるが──。

 よくよく見れば、胸元の部分がゴムひもになっていた。

 万が一にもズリ落ちることがないよう設計されている。


「まあ──ちょっと予想はしてたよ」

「えっ!? なんで!?」

「お前、夕飯のあとに入るの好きだからな──」


 りりさの行動パターンなど読めている。

 俺も一応、りりさが一緒に入りたいと言い出すのを予想して、み着をはいていた。


「な〜んだっ♪ じゃあ全然問題ないよね〜! 失礼しま〜すっ」


 りりさは無邪気に笑いながら、露天の隣に入ってくる。

 まあ、み着があるからって、混浴してもいいってわけじゃないけどな!

 本当に無防備である、コイツは。


「俺が出た後に入れよ……」

「今すぐ入りたかったんだも〜んっ♪」


 りりさは、に入ったまま、両手を組んで腕を伸ばした。

 当然、デカすぎるりりさの胸も強調される。

 というか、よくみ着が入ったな。ゴム式なのが幸いしたのだろうか。

 タオルの胸部分は、内圧でこれでもかと押し上げられている。

 りりさが着た後、ゴムのあたりは使い物にならないんじゃなかろうか。


(……どんな顔すりゃいいんだ)


 おさなじみとはいえ、お互いに薄布しか身を隠すしかない状態で、混浴。

 気まずい──何を話せばいいのかわからない?

 昔の約束を謝罪? 今この状況で? 絶対ムリだろ。

 りりさは温泉に肩まで使って、ほう、と息を吐いている。

 デカい胸は、当たり前のように湯船に浮いていた。み着があるとはいえ、その下は下着もつけていないことを想像すると、心臓に悪い。

 りりさのほうを見ると、あっという間にのぼせそうになる。


「ってかさぁ、トウジ! 卓球の時! 浴衣ゆかた乱れてたんなら言ってよぉ!」

「自分で気づけよ……」


 頰を膨らませて怒るりりさ。


「勝負に夢中になってたんだもん!」

「俺も一緒だよ! だから──お前の浴衣ゆかたとか、全然見てねーし?」

「ふーん? 胸とかちらちら視線感じたけどー?」

「そっ……れは! お前の動きを見て、点を取るためだろっ!」


 実際はむしろ、きわどい太もものほうが──。

 いや、違う、やめろ。ヘンなことを考えると、りりさにバレる。

 うそを見抜くおさなじみの能力は、いまだ健在である。


「へえー? まあ、いいや。温泉が気持ちイイから許してあげる!」

「そりゃ、どうも」

「はぁぁ〜〜、マジで天国……♪ こんな温泉にかりながらだと、なんでも許してあげちゃう気がするな〜〜〜〜?」


 いかにも含みのある言い方をしながら。

 りりさは横目でちらちらと、俺の顔を見てきた。

 なんだこれ──俺に、なにか謝れって言ってるのか?


(昔のこと、を……? いや、でも……?)


 なんでこのタイミングで?

 確かに謝ろうと思ってはいたが、りりさも同じことを考えていたのか?

 そこま察していたのだろうか? そんなりは全然なかったが──まさか胸を見てたことを謝れと言われているのか。

 一緒に混浴しておいて、今更な気もするのだが──。


「…………?」

「──ねえ、トウジさぁ」


 俺が悩んでいると。

 りりさのほうが、れたように。


「なんだよ」


 なるべく景色を見ながら、りりさに応答する。


「彼女って、ほしい?」

「はぁ?」


 思わぬ方向からの問いに、つい間抜けな声がでた。


「いや、はあ? じゃなくて、彼女欲しいかって聞いてんの」

「なんでそんなこと聞くんだよ?」

「質問に質問しないの! なんかさ? 最近、トウジが人気になってる、らしくて……!」


 人気? 俺が?

 どこの惑星の話をしてるんだ、りりさは?


「ミスターコンがきっかけでさ、意外と女子に人気があるとか、気になる子が増えてるとかさぁ、そういう話を聞いちゃって」

「???」


 確かに、文化祭の後に告白はされたが、一回だけ。

 その一回も、そもそも彼女になるとかならない以前の話だったし、人気と言われてもピンとこない。


「もし──もしもだよ?」


 りりさは、なにか後ろめたいことがあるように。

 体を丸くして、さらに湯船に沈んでいく。


「もしトウジに彼女ができたら、私って、邪魔だよね──だから……」


 だから──の先を、りりさは言わなかった。

 ただ、言わなくても十分伝わってくる。

 だから、ボディガードをやめたほうがいい──とりりさは言いたいのだ。


(ああ、もう……そういうことかよ!)


 やっとてんがいった。

 告白されてから、りりさの様子がおかしかったこと。

 やたらと人の恋愛事情や、ミスコンでの態度を尋問してくること。

 不機嫌なように見えて、それでも俺に怒っているわけではないと断言したこと。


(全部、俺に彼女ができるかもしれないと、心配してたわけか)


 それなら、りりさの訳わからん行動にも、説明がつくように思えた。


「彼女なんて作る気ねえよ」


 自分でも意外なほど、するっとそう答えることができた。


「……本当?」

「ああ。ボディガードより優先しなきゃいけないなら、彼女なんて要らん」


 うそでないことは、りりさには伝わっているはずだ。

 りりさはしばらくなにも言わず、口元まで温泉に沈めて、泡を出していた。

 はしたないからやめろ。

 そんな、返事を考えているようなしぐさのあと、りりさはこちらをじいっと見て。


「……本当にいいのね? 彼女と仲良くして、デートとかおしゃべりとかして、キスしたり、エッチなこともしなくていいってのね?」

「話が随分飛躍してるなぁ、オイ!」


 なんの確認なんだ。


「元々、口下手なほうだし、デートとか言われても、なにしたらいいかわからんし……りりさのボディガードをしてるほうが、気が楽でさえあるよ」

「……エッチなことは?」

「うるせえ」


 思春期男子になに聞いてんだ、コイツは!


「とにかく! 彼女とか興味ねえから!」

「ふーん……?」


 りりさは、デカい胸のせいで、色んなことを諦めていた。

 その習慣は、いつの間にか、りりさの中に根づいている。

 今度もまた無意識に、自分のせいで、俺というボディガードを諦めようとしていたのかもしれない。

 気兼ねなくボディガードを頼めると言ったのは、りりさのほうだ。

 じゃあ、俺も、気兼ねないおさなじみのままでいたい。

 りりさが可哀かわいそうだから──とかじゃなくて。

 りりさが、なんの遠慮もなく、ボディガードを頼んでくれる。

 そんなポジションのままでいたいと、俺も望んでいる。


「……いいの?」

「いいよ」

「〜〜〜〜〜〜〜〜っ♪」


 また、温泉に沈んで泡をだす。

 はしたないには違いないが、そんなりりさはどこかうれしそうだった。

 というか、効能ある温泉のせいで、顔が真っ赤だ。のぼせたりしないだろうな。


「だから、自分が邪魔かも、とか言うなよ。少なくとも俺はそんな風に思ってないから」

「……うん、ありがとねっ、トウジ」


 りりさの顔は、晴れやかだった。

 どうにか彼女の不安をふつしよくすることができたらしい。

 はっきり宣言してしまった以上、ボディガードでいるうちは恋愛は無理そうだが──。


(ま、元々そんなつもりはなかったから、どうでもいいか)


 今はボディガードに集中したい。

 二人っきりで、静かに温泉をたんのうする。

 なんだか照れ臭くなって、俺も頰が赤くなってしまう。


(……そういや、謝るタイミングって、今か?)


 ふと気づく。

 昔の話をするなら、今かもしれない。だが──。


(──また今度でいいか)


 どことなくうれしそうなりりさ。

 せっかく温泉でい気分なのに、水を差すのはもったいない。

 後ろめたくて、先延ばしにしている自覚はある。

 それでも、りりさ相手なら、いつかちゃんと謝れるはずだという確信はあった。

 今は、りりさの笑顔を、崩したくないのだった。



「ボディガードより優先しなきゃいけないなら、彼女なんて要らん」


 温泉で。

 トウジは私の顔を見て、はっきりそう言った。

 もう。

 もう!


(もう〜〜〜〜〜♪ トウジってば〜〜〜〜〜♪)


 思わずニヤけてしまう。

 そうか、そういうことだったのか。やっと気づいた。

 いや? もちろん、そうかも? と思う時はあったけど。

 確信した。


(トウジってぇ……私のこと、好きだったんだぁ〜〜〜〜〜♪)


 だって、だってだって。

 彼女よりボディガードを優先──って、それって!

 私を彼女にしたい! って言ってるのと、ほとんど一緒じゃ〜ん!


(まあ、それも当然よね! 小さいころから仲が良くて、しかもモデルもやってる! 性格もい、魅力的なおさなじみ! 好きになっちゃうよね〜〜〜〜っ♪)


 いつからだろ?

 子どもの時は、そういうのはなかったはず。

 だからきっと、高校で再会してから。ボディガードを始めてからだろう。

 隣で私を見てるうちに。

 カワイイりりさちゃんの魅力を再確認して、好きになってしまったに違いない。


(そっかそっか、うんうん。仕方ないよトウジ、だってカワイイもんね!)


 自己肯定感アガる〜〜〜〜。

 ちゃんと好きになってもらうのって、こんなにうれしいんだ。


(トウジはおっぱい目当てじゃないのわかってるしね……)


 胸にしか『好きです』と言わない、アホな男子たちと違うのは明白だ。

 ヤバい。ちょっと浮かれてる。

 私は表情を悟られないように、顔を半分、温泉に沈めた。

 ちょっと好きになってもらっただけで、こんなに浮かれてたら、い女が台無しである。


(彼女ができるかもとか、心配しなくて良かったんだね)


 冗談で、トウジが告白したら付き合ってあげる、なんて言ってたけど。

 これからは冗談じゃなくなるのだ。

 トウジの好きな気持ちに、応えてあげるのも──まあ、やぶさかではないっていうか。

 トウジ相手なら、OKしてあげなくなくなくなくもない。

 それで?

 いつトウジは告白してくれるのかしら。

 今? もしかして今なの?

 二人っきりの──今なの?


「──────」

「………………」


 私たちはしばらく、ぼけっとてんから、星空を見上げていた。

 トウジからのアクションはない。

 照れてんの? トウジのくせに〜!

 しょうがない。デキる女の私が、ちょっと後押ししてあげるかぁ。


「ねえ、トウジ?」

「んん? なんだよ。ってか、まだ入ってるのか」

「もうちょっとだ〜けっ♪ ねえ、トウジさぁ、私になにか言うことはない?」


 トウジはぐ、と押し黙った。

 もうこの反応だけでわかる。トウジは私に言いたいことがある。

 なにって──そんなの決まってるよね。さあ、いつでも言いなさい!

 アンタの気持ち、私がデッッッッかい胸で受け止めてあげるから!


「今は……ないかな」

「あー……あっそ」


 今は!

 今はって!

 じゃあいつかは言うってことじゃん!

 もう、トウジってば〜! 見た目によらず恥ずかしがり屋さんなんだから!


「じゃ、その気になったらいつでもどうぞ?」

「おう」


 ちゃんと私の意図、伝わってんのかなー。

 トウジは鈍感だからなー。私が受け入れ態勢を整えてても、伝わらないかもしれないなー。

 しばらく、私たちは無言でおに入っていた。

 会話がなくても、一緒に温泉に入るだけで心地いい。

 トウジに彼女ができるかも、という悩みもれいさっぱり消えた──やっぱり温泉旅行、来てよかった!

 もう他の女子への威嚇も必要ない。


(これって──完璧に、決まりだよね)


 おさなじみしろトウジは。

 私、りりさのことが好き。

 きっと誰にも渡したくないくらい。ボディガードをなによりも優先してしまうくらい。

 私のことが、大・大・大好き。


(も〜♪ しょうがないなあ、トウジってば。じゃあ私が、告白される側として、最高のシチュエーションを用意してあげないとね!)


 一緒に温泉に入りながら。

 私はニヤニヤが止まらない。

 小生意気なトウジが、私に付き合ってほしいと言うシチュエーションを想像すると、つい笑みが漏れそうになる。

 温泉に、しいご飯に、私のこと好きなおさなじみ

 極上の温泉タイムを、私はもう少しだけ、たんのうするのであった。

刊行シリーズ

俺の幼馴染がデッッッッかくなりすぎた3の書影
俺の幼馴染がデッッッッかくなりすぎた2の書影
俺の幼馴染がデッッッッかくなりすぎたの書影