エルフの渡辺
第一章 渡辺風花は園芸部の部長である ⑤
「……………………………………………………………………………………え」
拒否の言葉が飛んでくると思った。
だが、続いた言葉は、これから少しずつお互いのことを深く知って行こうという前向きな言葉のように思えた。
「そ、それって……」
声が、震える。
心に一瞬さした闇が、急激に光に満ち、晴れ渡る。
「
その瞬間の
人生に新たな地平が開けた音がした。五感全てが研ぎ澄まされて世界全てと同化し、それでいて今正面にいる
そして、今や
それは、好きになった人に
小さくて、暖かくて、優しくて、強い手だった。
「あ、ありがとう
そして、顔を上げた。
「これからよろし…………!」
その時起こったことを、どう説明すればよいのか、
「え、誰?」
目の前にいたはずの
ジャージの胸には『
目を
声だって、ずっと
それなのに、
「「え?」」
タオルもそのままだ。
だが、顔がもう、見間違いようもなく違う。
いや、顔というかもう、首から上の何もかもが違う。
だから、一度言ったことをもう一度言った。
「え、誰?」
「お、
「いや、いやいやいや、え、え!? わ、
「な、なぁに?」
なぁにじゃない。こんなドッキリマジックがあってたまるか。
首から上、顔と髪が変わってしまっているのだ。
全く見覚えのない顔から
いや、本当に見覚えはないか?
顔そのものに見覚えはないが、この顔を構成する要素には、覚えがある。
この世の者とは思えぬ美しい面差し、アッシュゴールドの髪、エメラルドの瞳、そして最も特徴的な、長い耳。
「エルフ……だ」
長い寿命。それ故の知識と魔力。他種族から一線を画す美貌。自然を愛し人界から距離を置く、長い耳を持つ人型の異種族、
現代日本に生きる人間なら、アニメ、漫画、ゲーム、映画、小説などで一度はその概念に触れ、ビジュアルを見たことがあるであろう、架空の種族。
「もしかして私の……見えちゃった?」
好きな女の子に恋の告白をしてOKをもらえたと思ったら、不測の事態でパンツを見た男みたいなことを言われた。
この説明だけで
「いや……いやこれ、何が起こったの?
「混乱させちゃってごめんなさい。でも……私が
「いや、本当の姿も何も……
見知らぬ顔相手なのでつい敬語になってしまう。
「だから私が
「うわああああああ
足元にあった植木鉢が唐突に持ち上げられて一瞬目の前の顔が隠れ、告白の緊張で研ぎ澄まされた
だが目を開くとそこには植木鉢で隠しきれない金髪と長い耳。
「いやいやいや! いやいやいやいやいや! 信じられないって! エルフなんているわけないだろ!?
「どうしたら信じてくれるの!」
植木鉢の陰から恥ずかしげに顔を出した絶世の美女にそんな悲し気な顔と声で言われて、
だが、好きな人に告白をOKしてもらえたと思ったらエルフに変身された
好きになった女子の正体がお忍びのアイドルだったとか、幼い頃に別れた
だが好きになった女子の正体がエルフでした、は、飼っていた子猫が大きくなったらプテラノドンでしたというレベルに、言葉通り次元が違う事象なのだ。
「だ、だって、どう見たって別人だし……」
「いつも魔法で姿を変えているの! でも
「いや……でも……」
「
「っ!」
いくら外見を好きになったわけではないといっても、物には限度がある! 普通とは違う意味で!
「確かに……そうは言ったけども!」
だがそれでも
だが、ここまで見た目が別の人間(かどうかも分からない存在)になってしまうと、『大切なのは外見ではなく中身』とかいう言葉で収めることなどできはしない。
元の面影が
例えば、頭がアンパンでできている子ども達のヒーローがいたとしよう。
アンパンの頭を更新してパワーを回復し続けることで長年子ども達に愛されてきたのに、あるときから何の説明もなく頭が大トロ握りになったら、同じキャラクターとしてこれまで通り子ども達に愛されるだろうか。絶対に無理だろう。
アンパンも
「もちろんアンパンも大トロも愛しているけども!」
「えっ!? な、何? アンパンと大トロ?」
街中で男がこのエルフとすれ違えば、耳介の形状の違和感すらさて置いて十人が十人、その美貌に振り返るだろう。
だが
好きになったのは、誰もが振り返るような万人受けする美貌ではなく、それでも
「あ、あのさ。魔法で姿を変えてたって、言ってたよね、さっき」
「え、あ、うん……アンパンと大トロ……?」
「ならその魔法で元の姿に戻れないの? 俺が知ってる、
震える声で現実を受け入れようとする