エルフの渡辺
第一章 渡辺風花は園芸部の部長である ⑥
「それは私には無理なの。私もまさか
「そんな……」
「……でも、
「え?」
「私ね、実は去年の菊祭りでの後に仲良くなるよりも前、一年生で同じクラスになったときからずっと
「えっ?」
「大きな木で
「顔赤らめて何をワケの分かんないこと言ってるの」
「言われたこと……ない?」
「空前絶後だよ。もじもじしながら
ユグドラシルという名詞はもちろんエルフと同じ程度には知っているが、原典でどういう存在なのかきちんと調べたことはなかったし、自分の名前と関連づけたこともない。
「それじゃあ
このときばかりは、真剣に言葉に詰まった。
だが……。
「本当にエルフだって言うなら、分かってほしい。正体がエルフだなんて信じるか信じないかって言われたらやっぱり信じられないし、信じたとしても訳が分からな過ぎて……」
「
「ごめん。自分から告白しておいて申し訳ないけど、落ち着く時間が欲しいんだ……」
普通ならば、告白した側が保留を要求するなど非難されてしかるべき言動だが、仕方がないではないか。
「そう……だよね」
その悲し気な声に、
「今日の写真……現像、するから」
そしてそのまま、返事も聞かずに駆けだした。逃げたのだ。
仕方がないじゃないか。エルフだぞ。好きな人の顔が、何の心の準備も無く全く違う顔になったのに、平静でいられる方がおかしいじゃないか。
あれ以上、何が出来たのか、何を言えたのか。
考えても考えても何も分かるはずがない。
告白は大成功だったはずなのに、どうしてこんな訳の分からない気持ちになるんだ。
手に握ったままのカメラを見下ろすと、フィルムを撮り切っていないがそのまま現像に出した。
一時間ほどして仕上がった写真の中では、
夢は見なかった。これでもし
◇
まるで泥の中にいるような目覚めだった。
昨日の出来事は全て悪い夢だったのではないだろうか。スマートフォンを見ても、
記憶の通り制服のまま寝てしまっていたので、昨日のことは現実だったのだ。
だが、よくよく考えるとやはりエルフは無い。あり得ない。無い。無い。無い。
そんなことを思いながらシャワーを浴びて予備の制服に着替えたものの、重い気持ちが食欲を失わせ朝食も喉を通らず、日頃から自分で作っている昼食用の弁当も今日は作る気力が湧かず手ぶらで家を出てしまった。
昨日現像した写真を丁寧にOPP袋に入れると、亡霊のように生気の無い足取りで家を出て、いつの間にか学校に到着する。
「あ、おい
すると昇降口のところで、同じ中学から入学した友人でクラスメイトの
「おお……ああ、
「何だ、体調悪いのか? 顔色白いぞ?」
顔色が悪いことは自覚しているが、とはいえその理由を説明する気にはならなかった。
クラスメイトの女子に告白したことも、その女子がエルフに変身したことも、他人に話をすればただただ面倒を巻き起こすとしか思えない。
「風邪
「え?」
「
「い、いや、そんなことはないと思うけど……」
「風邪うつされるような手伝いしてんのか? ああ?」
「風邪うつされる手伝いってどんなだよ! それより
「は? いや、だから何だか顔色が悪そうだったって」
「顔色とかそういうことじゃなくて! いや顔色もこの場合重要なんだけど!」
「何なんだよ」
「
「そんなこと言われてもな。本当に遠くからちらっと見ただけだし、ちょっと見ただけで変か変じゃないか分かるほどの付き合いないから……どうした、何でそんな急に明るいんだ?」
「い、いや。やっぱり昨日は、俺がどうかしてたんだなって」
「はあ? え? 何だ?
昨日の
だから
昨日のあれは、過剰な緊張が引き起こした白昼夢だ。幻覚なのだ。
「いや、何でもないんだ! ちょっとな、昨日写真が
「ふーん。まあ、いいけど」
不思議そうに眉根を寄せる
昨日のことは無かったことにして、もう一度告白を繰り返してもいいくらいの気持ちで、教室の扉に入った
「お、おはよう、
美貌のエルフが
「エルフじゃんっ!!」
『エルフの