エルフの渡辺
第二章 渡辺風花はそわそわしている ④
「何がよし! なの! も〜……恥ずかしいなぁ……あ!」
腹の音だ。
「でも、今みたいな『無理』をしないで、その姿、維持できるの?」
「え? あ……!」
一度は額と指の接触で『
そして積み上げたドミノブロックが崩れるように
「あぅ……あの、これは、ね」
一瞬で魔法が解けてしまったことにエルフの
金髪のエルフは顔を真っ赤にして、長い髪をかき集めて顔を隠そうとする。
「ど、どうして解けちゃったんだろ。魔力同調のためにいっぱい食べたはずなのに、あの、ごめんね
言葉が少しずつ尻すぼみになり、エルフの
その姿を見て、
重箱の向こうからは髪と長い耳の端しか見えない。
顔が見えないから、分かることがある。
「
「……なぁに。
消え入りそうな返事が、それでも返ってくる。
「俺の中学の音楽の先生がさ、コーラス部の顧問で人間の喉、声帯に詳しかったんだよ」
唐突に変わった話題に、エルフの
「だからなんかやたら歌のテストとかやりたがってさ。俺、歌が苦手なのと、その頃声変わりが始まって声がなんか変になって、人前で声出すの嫌な時期だったんだ」
「そうなんだ」
話の着地点がどこにあるのか分からないエルフの
「実際音楽で習ったことなんかほとんど覚えてないんだけどさ、一個だけ、すごく印象に残ってる雑学みたいな知識があってさ。いやまぁ、あれもきっと音楽的に重要なんだろうけど」
そう言うと、
「歌を歌うとき、高音は鍛えると伸びるけど、低音の限界は決まってるんだって」
「どういうこと?」
「精密に限界まで声帯を絞れれば、高音は理論上鍛え方次第でいくらでも伸びる。でも、低音は持って生まれた声帯以上に低くはならないんだって。だからさ」
「俺、
「ふぇっ!?」
机の向こうでうずくまっていたエルフの
「さっき言ったでしょ。
「う、あ、うん」
「まださ、
「
「で、さ。多分だけど、
これは確認するまでもないことだが、フードファイターでもなければ一人で三段重箱なんて量を食べるはずがない。
「この量、どうやって用意したの?」
「それは普通に、早起きして自分で作ったの。から揚げは前の晩から仕込んでね」
普通に手料理だという事実に思わず心がときめいてしまった。
だがそれこそ魔法とやらでなんとかならなかったものなのだろうかとも思う。
エルフの外見から受ける印象を裏切るちぐはぐさに、
「まぁとにかく、魔法なんてものが本当にあるとして、昨日の花壇と教室とそれとここでも、
「う、うん」
「でも、声は変わってない。ていうことは」
「今俺に見えている
「…………はい」
エルフの
正面から握手をする形になった二人。
そこで
「エルフが本当にいるのかとか、地球上にいるのかとか、魔法なんて本当にあるのかとか、あるならあるで正体隠して生活してるのはなんでかとか、今すぐ知りたいことは確かにいくつもあるけど、今見えてるのが
「おお……き、くん……」
「え。えっ?」
「ご、ごめん、俺、俺なんか良くないこと言った!?」
「あ、う、ううん、違うの。ごめんね。おかしいな。でもね、
「え。え!?」
「だ、だって、自分でもおかしいと思うもの。それに、エルフとまではいかなくても、友達が本当の姿を隠してるなんて、普通は不誠実でしょう。だから……多分、
急にぽろぽろと涙をこぼして顔を覆うエルフ女子を紳士的に落ち着かせるスキルなど、高二のカメラ小僧には搭載されていなかった。
おまけに『本当の姿を隠してる友達』はそこまで普通の存在ではないので、どう反応していいのか分からずあたふたしてしまう。
「ぐすっ……ぐすっ」
それでも感情を抑えきれないこの声が
「ごめんね。もう、お昼休み、終わっちゃうね……ズビー」
しばらくして目じりを赤くしながらも泣きやんだエルフの
「全然、大事なお話できなくて、ごめんなさい」
「いや、俺は……」
確かにこれからどのように
だが、コンテストの締め切りまでにはまだ時間があるし、今日が無理なら放課後の部活にでも話す時間はあるだろう。
そう思ったことを告げると、エルフの
「ごめんなさい。今日の部活は、ちょっとダメかもで」
「本当に何かいつもと違うことやるの? いや、もちろん無理にとは言わないけど」
「うん、実は今年、一人だけだけど、園芸部に一年生が入ってくれたの。今日はその子が初めて部活に来る日で、撮影しながらだと、色々教えにくいから……」
「え! 新入部員!」
これには
高校の部活動は、結局のところ一世代でも人が入ってこないとあっという間に廃部の危機に陥る。
部に昇格したての園芸部はともかく、
現実に