エルフの渡辺

第二章 渡辺風花はそわそわしている ⑤

 だがゆく自身に人を集める才覚と努力が足りなかったため、二年生が始まってもうすぐゴールデンウィークも近づいてくるというのに、今のところ写真部を誰かが訪れることも、訪れた形跡もない。

 それだけに同じ一人部活の園芸部に新入部員が入ったのは、ごとではあるが単純にうれしくもあり、少しうらやましくもあった。


「もちろんそういうことなら遠慮するよ。どう考えたって初日にカメラ構えた俺がいたら邪魔だもんな」

「べ、別におおくんが邪魔ってわけじゃないよ!?」

「分かってる。ありがとう。でもやっぱり一年生には最初にその部が何をする部活なのか、きちんと丁寧に見せてあげないといけないしさ」

「うん。そうなんだけどね」


 それでも少し申し訳なさそうにしているエルフのわたなべに、ゆくは言葉を重ねる。


「それは、俺が写真部で先輩にしてもらったことでもあるんだ。コンテストは写真部の事情でわたなべさん……というか園芸部に無理言ってお願いしてることだし、園芸部の大切なことはお願いしてるこっちが大切にしないと」

「うん。ありがとう。もうその子にも、私がおおくんの……つまり写真部の活動に協力してることだけは話してるんだ。だからその、えっと」


 少しだけ言いにくそうに、それでもエルフのわたなべは勇気を込めて言った。


おおくんがまだ私をモデルにしてくれるなら、すぐにまた撮影に入ってもらえると思う」

「……うん」


 ゆくは少し間を置いてうなずき、先程撮影した食事中のわたなべふうの写真を見る。


「スマホが魔法の対象ってことはコンパクトデジタルカメラとかデジタルミラーレスとかフィルムカメラでも、写真を撮ると今のエルフの姿じゃなく、日本人の姿で写るの?」

「うん。そうじゃないと、学校の卒業アルバムとかでも、エルフの姿になっちゃうでしょ?」

「まあ、それもそうか」

「日本人の姿で写るなら、コンテストも大丈夫?」

「それは大丈夫だけど、俺が今使ってるカメラは撮る瞬間までは俺自身の目で対象をファインダーから捉えてるから、目で見た印象と現像した写真のイメージをすり合わせる練習はしなきゃいけないと思う」

「やっぱり混乱しちゃう?」

「多分、する。撮影の瞬間目で見てる姿形と実際現像される写真の姿形が変わっちゃうわけだから、実際それがどれくらい結果に影響するかは、回数を重ねて試してみないと分からない。だから……多分、振り出しに戻ったくらいの気分でいないとダメなんだと思う」

「でも、そう言ってくれるってことは、私がモデルのままでいいの?」

「俺としてはお願いしたい。わたなべさんが良ければ、だけど」


 ゆくがそう告げると、エルフのわたなべほほんだ。


わたなべさん?」


 その笑顔が、か見たことのないような笑顔だったので、ゆくは一瞬確認するように尋ねた。

 エルフの顔を見慣れないものとは違う、泣きはらした目の影響でもない、何か不思議な感情の色のようなものがあった気がした。

 父のフィルム一眼があれば、もしかしたら『輝く被写体』だったりしたのだろうか。


「私こそ、おおくんがいなら、続けさせてください」


 だがエルフのわたなべはその微かな心の香りをすぐにかき消し、いたずらっぽく笑って見せた。


「でももし私をモデルにするのが難しいって感じたら、そのときは遠慮しないで言ってね。おおくんは園芸部の一年生を大事にしてくれたけど、おおくんのコンテストだって大事なんだもの。私に無理にこだわって納得いく写真が撮れなかったら、本末転倒でしょ?」

「ああ。まぁそれは……でも、前にも言ったけど、わたなべさん以外に引き受けてくれる当てもないし、俺がわたなべさんを撮りたいってのも本音だしさ」

「隠れわたなべファンだから?」

「うえっ!?」


 突然急角度からブチこんできたエルフのわたなべに、ゆくは奇声を上げてしまう。


「き、き、聞こえてたの!? てつとの話!」

「エルフなので、耳はいんです。ふふ」


 そう言うと、泣きはらした目の下の頰を少しだけ上気させる。


「ただ……ときどきクラスの男子から見られてることには気づいてたんだけど、やま君の言い方だと、私、結構あちこちから見られたって感じなのかな。何だか、恥ずかしいな」

「だ、大丈夫だよ! エルフの姿を知ってるのは俺だけだし……!」


 ゆくのフォローになっているかなっていないかと言われたら確実にフォローになっていない一言に、エルフのわたなべはまた小さくほほんだ。


「そのせいで今、おおくんは困っちゃってるじゃない」

「いや、まぁ、そりゃ困ってないとは言わないけど、でも……」

「ふふ。それはともかく、もし本当に私をモデルにし続けるのが難しいと思ったなら、私が新しいモデルを紹介できるかもしれないから、そのときはちゃんと言ってね」

わたなべさんが紹介?」

「うん。さっき話した一年生の新入部員のこと」

「いいの? 勝手にそんな約束して」

「事情を話せば協力してくれると思う。礼儀正しい真面目なわいい子だよ」

「新入部員って女子なんだ。その言い方だと、もしかして元から知り合いな感じ?」

「同じ中学の後輩なの。また来てもらえるようになったらそのとき紹介するね」


 ふと、わたなべふうは思案顔で続けた。