エルフの渡辺
第四章 渡辺風花は教えてくれる ④
その瞬間、日頃あまり思い出すことのなかった父の言葉が部室の闇の中から
まるでうたた寝から目覚めたときのようにびくりと身を震わせた。
そうだ。
エルフの
親が子に世を忍ばせる真剣な理由とは。
「全く想像もできないし、ここで考えても仕方がないか」
何も知らないのだ。
彼女が普通の人間ではなく空想上の存在だったはずのエルフという種族の姿こそが正体であり、
知っていることは、本当にこれだけ。
エルフとは何か、魔法とは何かとかそんな超常的なことどころか、どこに住んでいるのか、家族が何人いるのかすら知らない。
園芸が好きで、学校の成績は文武ともに大きく目立つことはない。
ごく一部男子にカルト的な人気を誇っているという知りたくない事実は今日知った。
一年のときには挨拶すらできない日も普通にあった。
それが、今や世界でも
「これから毎日、きちんと知って行かないとな」
とりあえず、今日撮った写真は帰りにいつもの大手カメラ店にフィルムを現像に出しておこうと決めた
「あ」
うっすら積っていた
「まぁ、
放課後、
その中に入っているのは長い柄の
昨年は、先輩達とこれらを使って毎日必ず簡単な掃除をしたものだ。
「一人を言い訳にしちゃだめだよな」
全部に手は回らないが、それでも机と床の
「何だよ、一人かよ」
そのとき、意外な声がして
「
「どうしたって、あー、えっと」
部活上がりらしい
「まああれだ。お前が心配で見に来たって感じかな」
「ええ? 何だよそれ」
「女子慣れしてないお前が、一年の超絶美少女を部員に勧誘できるのかと思ってよ」
そう言えば、エルフの
「それが何で
「ああなんだ。知ってるのかその辺のこと。てことはあれか」
「勧誘失敗か?」
「その通りだけど、何で
「そりゃお前、
「マジで心からの言葉だな。顔見れば分かる」
「まあなー」
運動部は
「でも結果的に正解だったと思うぜ? あの子、園芸部にも仮入部してたんだろ? 一人部活同士、新入部員を奪い合いなんてしたら、撮りたいもんも撮れなくなるんじゃねえの?」
「ありがとな」
「何がだよ」
「掃除手伝ってくれたことだよ」
「あー腹減った。
「悪いな。ここんとこ写真現像しまくってて金カツカツなの」
「現像かぁ。フィルムカメラにこだわってんだっけ? デジカメならプリンター使えるのに、それじゃだめなのか?」
「別にダメじゃないけど、俺のペースでやってたらプリンターでもそんなに安くは上がらないんだよ。コンテスト応募用となると、紙もいいもの使わなきゃだしさ」
「あとはまぁ、今日は俺が晩飯当番だからさ」
「ああ、そうか。じゃあ悪いけど俺はここで。食わないともう倒れそう」
「運動部の腹ってすげぇよな。それで家帰ってまたメシ食うんだろ?」
「お互い様だよ。こっちにしてみりゃ物食う金削ってまで打ち込めるものがあるの、普通にすげぇって思うもん。じゃあな」
学校からの帰り道。
時間が時間だけに確かに牛丼屋の誘惑は魅力的だったが、今日中に現像することを考えると寄り道していたらいつものカメラ店が閉まってしまう。
何とか今日の閉店
「牛乳がもうすぐなくなるのと、卵も買わなきゃで、あと明日の朝飯どうしようかな。夜の内に米多めに炊くかパンにするか」
同じ通りの商店街にあるスーパーマーケットを、スマホに記録したメモと冷蔵庫の中の様子を思い出しながら、更に先の予定と財布の都合を考え悩みながら食材をカゴに放り込む。
そうしているうちに、ちょうど現像が出来る時間になって、カメラ店から写真とネガを受け取り、少し重くなった足取りとともに十五分かけて帰宅した。
「ただいまー」
川越街道を
スマホを何となく見ると、母から、
『多分九時前には帰れるわ』
とだけ連絡が入っていた。
「じゃ、ゆるゆるやるか」
親の帰宅はいつも通り遅いということが分かったので、特に
スーパーの買い物をキッチンと冷蔵庫に片付けてから、一旦自室に戻って荷物整理と写真の出来を確認することにする。
カメラの入っている
「結構良く撮れてるな。
そこには夕刻の光に虹色に反射する汗を流しながら、
コンテスト的な意識で見ると、撮影時間と場所のせいで光量が足りていないのが評価に影響しそうだが、単純に人一人の魅力を伝えるならば十分な出来だ。
「でも……
机の上のカメラのケースを見やって