エルフの渡辺
第四章 渡辺風花は教えてくれる ⑦
「すぐ戻るから。
「え、ええと、
「三ヶ月ぶりくらい。中三の後半は受験とかで忙しかったし。それが何?」
「あ、いや、そうなんだ」
短すぎる会話が終わって、まだエルフの
少なくとも、室内に『エルフ』を想起させるような要素は全く見当たらなかった。
学習机は小学生の頃からそのまま使われていそうなライトブラウンの合板製。学習椅子には少し毛玉の浮いた
二人で囲んでいるちゃぶ台は新しめのもので、和柄のカーペットの上に
本棚にあるのはどれも
教科書や参考書。草花や園芸に関する本や図鑑が多く見られ、背表紙のタイトルは全て日本語で書かれている。
ざっと見、漫画や娯楽本の類は見つけられなかった。
「
そして、壁にはいくつもの写真が飾られていた。
大きいのは中学の修学旅行だろう、京都の寺か神社らしき場所での集合写真に、小学校の入学式の一幕らしいランドセルを背負った幼少の頃の写真。
そしてある意味でこの事態の原因となった菊祭りの写真。
誰が撮影した者かは分からないが、あの
敢闘賞の表彰状と一緒に玄関前で撮影した写真。
写真に写っているのはどれも黒髪の、それでも確かに笑顔を浮かべた
そして学習机の本棚に小さな写真立てが乗っていた。
飾られているのは
「センパイ、
「いや、そんなこと言われても」
「
「あ、ああ、そりゃ、まあ……飾られてるし」
「本当にそれだけ?」
「え? それだけ、って……」
「ちなみにセンパイ、コレ、どう見える?」
差し出してくるのは彼女のスマホ。画面には真が表示されている。
そこにはイズミと『
二人が大写しになっているので背景がよく分からないが、二人とも高校のジャージを着ているので恐らくは学校内のどこかだろう。
「どうって……」
「
「黒髪に見えるけど」
「あっそ。ところでさ、そこの本棚」
「え?」
「
「それが何?」
「何って、こういうときって女子不在のときに気になるものこっそり見たり開けたりして、きゃー何やってるのよー! ってのが
「何の定石だよ」
「男子とか女子とか関係なく、初めて上がった友達の部屋の物、持ち主の許可なく触ったり開けたりするわけないだろ」
「つまんないの。まあ私は何度も見たから勝手に見るけど」
「何だよそれ」
言いながら
「俺は見ないよ」
「そんなこと言って
そのとき、やや勢いよく入り口の
「
「おっと」
エルフの
その手には、独特なくびれを持つ木製の、湯気がくゆる取っ手の無いカップが三つ載ったお盆を持っていた。
その姿を見て、
ゆったりしたニットを着ると、学校で見るよりも色々なものが少し大きく見えた。
そのよこしまな思いは時間にして一秒にも満たなかった。まだ何の話もしていないこの状況で妙な下心の気配を出せば、また
「
少し乱暴にトレーをちゃぶ台に置いて、カップをそれぞれの前に配った。
「ありがとう……ん?」
見慣れない形状のカップに、これまた見慣れないものが付属しているのを見て、
湯気がくゆるくらいの温度の、嗅ぎなれないフルーティーな香りのお茶のようだが、金属製のストローのようなものがカップに入れられていて、カップの底では茶葉らしきもやもやがそこそこの量、沈殿している。
「温かい?」
軽く持ち上げて金属のストローを
「
「紅茶っぽい匂いだけど、ホットをストローで飲むの?」
「そうなの。こういう形なんだけど」
エルフの
細かい細工が施された金属のストローで、先端がスプーン状に広がっていて、そこに同じ材質の金属フィルターで蓋がされている。
「ああ、これストローが
緑茶や紅茶などを茶葉から
だがこのお茶は、カップに茶葉とお湯を直接入れて茶を抽出し、この金属ストローの先端で茶葉を
「
それに
第一印象に
「へぇ、初めて飲んだけど、これ
「本当? 気に入ってもらえてよかった」
「この食器類も初めて見るよ。不思議な形だな」
「うん。カップはクィア。ストローはボンビーリャとかボンビージャって言ったりするの」
全く解説になっていないが、見たことのない食器は聞いたこともないものだと分かった。
見たことも聞いたこともない文化の食器ということは、もしかしてこのお茶も食器も、エルフや魔法に関連する、今日の話の核心に迫るものなのだろう。
使い込まれている様子の木のカップや、銀細工の美しいストローで爽やかな香りのするお茶を飲むエルフの