エルフの渡辺

第五章 渡辺風花は日本人の苗字に詳しい ⑤

 その上、この見通しの良い草原。浮遊監獄島なる場所にどんな生き物がいるのか全く想像できないが、直前に見せられた虹色ムカデがゆくの想像にかなり悪い方向への拍車をかける。

 この草原は明らかに人の文明の外としか思えず、どんな野生動物がいるか分からない以上、気絶した人間を抱えてここで立ち往生していても全くい未来はないだろう。


「ど、どどっど、どうすれば……」

「何か野生動物でも出たら写真に撮ればいいんじゃない?」

「そ、そんな悠長な! っていうか!」


 ゆくろうばいぶりを、余裕がないながらもどこか楽し気に見ているいずの表情に、ゆくはある推測を立てる。


「俺ほど慌ててないけど、もしかしてたきさん、何か打てる手があるんじゃないのか?」

「まぁね。正直、あんまり気が進まないんだけど」


 あっさりと認めたいずは、気絶したままのエルフのわたなべと、ゆくを何度か見比べる。


「あそこに見える森、あるでしょ。あそこにサン・アルフの村があるの。私も何度か行ったことがあるから、あそこに行けば助けてもらえると思う」


 いずが指さすのは、先程ゆくも視界に収めた地平線近くにある木立のことだろう。


「な、何だ。このあたりの地理を知ってるならそんな慌てることないじゃないか。何で気が進まないんだよ」

「センパイのカメラの存在。ふうちゃんがどうしてこうなったか説明しなきゃならない以上、そのカメラがサン・アルフにいじくりまわされる可能性あるし、最悪の場合傷害犯みたいな扱い受けるかもしれないよ」

「それは仕方ないよ。こうなった以上俺もこのカメラが何なのか知りたいし、エルフの人達に調べられるなら調べてほしい。多少怒られるくらいもまぁ、仕方ないよ」

「あともう一つ。あそこまで行けば間違いなく日本というか、ふうちゃんの家に帰してはもらえると思うんだけど……その助けてくれる人が、ね」


 ここに来ていずの顔がはっきりと曇る。


「私、昔からあんまり好かれてない気がするんだよね。今回のことのせいでふうちゃんが日本での学生生活から引き離されちゃうかもしれないって、正直不安」

「どういうこと? エルフの……サン・アルフの偉い人とかなの?」

「偉いとかじゃなく、私やセンパイにとってはもっと重要なことがある」


 いずは憂鬱そうに言った。


「あの森の村で私達が助けを求める相手、ふうちゃんのお母さんなの。名前はわたなべりよう。もちろんお母さんの方もエルフ。サン・アルフだよ」