エルフの渡辺

第六章 渡辺風花は見えていない ⑦

「食べずに魔力が尽きると、魔法が解けるんじゃなく魔法が体から力を奪い続けて死ぬわ」

わたなべ家には大事なことを軽く流さなきゃいけないルールでもあるんですか!?」


 とんでもない事実をあっさり明かすわたなべりように、思わずゆくは突っ込んだ。


「だって、重々しく扱ったからって軽くなるわけじゃないもの」

「そりゃそうですけど!」

「姿隠しの魔法はサン・アルフにかけられた呪いのようなもので、自分達で解くことはできないの。解く方法も伝わっていない。ただ時々あなたやいずちゃんのように、魔法を破って私達の本当の姿を見てくれる人が現れる。ふうは幸運だわ。二人も、そんな人がいるんだから。私には一人だけだったから……」


 寂しげにそう言いながら、わたなべりようゆくのカメラを抱えると、ファインダーをのぞいてもいないのに、エルフのわたなべの魔力を吸収した時と同じ乾いた音がして、淡い輝きがわたなべりようからカメラに吸い込まれるように移動する。


「試してみて、もらえないかしら」


 おずおずと差し出されるカメラを、まるで自分のものではないかのように丁重に受け取ったゆくは、両手でカメラを構えつつ、エルフのわたなべに問いかける。


「撮っても、いい?」

「私はずっと前からおおくんのモデルだよ」


 エルフのわたなべの笑顔は、明るかった。

 その笑顔に、自分には見えておらず、彼女には見えている『わたなべふう』の笑顔が重なる。

 先ほどまで殺し合いでもしかねない勢いで言い合っていた母娘おやこは、今やしようぜんと寄り添いゆくがシャッターを切るのを待っていた。


「本当にこのカメラにそんな力があるかどうか分かりませんけど」


 ゆくはゆっくりとファインダーをのぞきこんだ。

 ファインダーの中には、幻想的に光るテラスの地面と大樹と星一杯の夜空。

 そして、恥ずかし気に寄り添う小さな影の母娘おやこがいた。

 その全てが、光り輝いていた。


「二人とも、笑って」


 それはカメラマンとしての要請ではなく、半ば祈りであった。

 地球の人間には想像もつかない力を持つ種族の持つ、悲しすぎる呪いを少しでも和らげたい。

 本当にこのカメラに魔法を打ち破る力があるのなら、この呪いを打ち消すことができるように。



 写真に写った人々が、笑顔になるような、そんな写真を。

 祈りの果てにかけられた声は、


「はい、チーズ」


 日本ではあまりにも使い古された、そんな言葉だった。