エルフの渡辺
終章 渡辺風花は、始めたい ①
「お邪魔します」
「どうぞ、上がって」
ナチェ・リヴィラに行った日から三日後。
学校帰りに制服姿の同級生の女子が自宅にいるという事態にすこぶる緊張している
「ここ、
「ううん。まずは
「分かった。……行っておくけど、別に変なものとかないからね」
「ええ? なあに、変なものって。何かあっても気にしないよ。それに私、親戚以外の男の子の部屋に上がるの初めてだし大丈夫だよ」
妙な予防線を張ってしまったせいで変な会話になってしまった。
何が変なものなのか、何が大丈夫なのか知らないが、突き詰めても何ら発展しない話題なので
「お邪魔します」
二度目のお邪魔しますでエルフの
「ここが
「べ、別に普通の部屋だけどね」
「ううん。そんなことないよ。何となく、
「えっ」
エルフの
今更取り返しのつかないことに
「ここ、座っていい?」
明らかに用意されているクッションを指さす。
「ど、どうぞ。その、今お茶とかお菓子持ってくるから待ってて」
「お構いなく」
エルフの
エルフの
ボンビーリャやクィアとは比べるべくもない普通のマグカップにティーバッグの紅茶。そしてスーパーで買ったクッキーとポテトチップス。
「どうぞ。普通の紅茶だけど」
「ありがとう。いただきます」
エルフの
「わあ、これアッサム?」
「う、うん。母さんが、割と紅茶好きで。ティーバッグだけど」
「そうなんだ。うちでもよく飲むよ。マテ茶に限らず、お母さんが日本に来たときには色んなお茶を買うの」
「そうなんだ。……それでさ、早速写真のことなんだけど」
エルフの
エルフの
迷いの道が破られたときのように何かが砕ける音はしたのだが、撮影した時点では
そして撮影の結果は写真の中に収められている。
現像もいつもの店には頼まず、卒業した先輩に相談しながら写真部の暗室で一人で現像作業を行ったのだ。
そのため
「そうだ、写真と言えば!」
だが現像された写真を取り出そうとした
「ちょっと
「え? 何?」
「うん。大したことじゃないんだけどね」
エルフの
それを証明するかのように、エルフの
「
「あ、ああ、そのこと?」
ナチェ・リヴィラから帰った翌日。
「
「そういう魔法だって話だけど、
「知ってたらこんなショック受けてないよ! そんな、私……だって」
「
「家の鍵を返したときにちょっとだけ。いつも通りおばさんとちょっと
「あれっていつも通りなんだ」
「母親と娘のやりとりなんて大体あんなもんじゃない? 私もしょっちゅうお母さんとあれくらいの言い合いするし」
「マジか」
「センパイはお父さんとはそういうやりとり、無かったの?」
「俺?」
父親のことに言及されるとは思わず驚くと、
「思い出を聞くことくらい、悪いことではないでしょ?」
「ん……。まぁ、そうだなぁ。基本俺には甘い親だったからなあ。よく母さんとそのことで
「ふーん。まぁ昭和型の父親の方が今時珍しいか」
「それもあるんだけどさ、父さんは自然や動物を撮るプロの写真家だったから、家にいるときは平日休日関わらずずっといたけど、いないときは撮影のために何ヶ月もいないのが当たり前の人だったからさ、その時間を埋めようとして、何だかんだ俺に甘かったのかも。最低限のしつけ的なことで怒られたことはあるけど、
「へー。
「まぁ、そうかな。それでも、生きていてほしかった」
「それは…………ごめん、今のはちょっと突っ込みすぎだった」
「いいよ別に。同情してほしいわけじゃないし、さすがにもう父親を寂しがって泣くような年齢じゃないから」
「……それで、写真は撮れたの?
「撮ったは撮ったけど、ご存知の通りフィルムカメラだし、さすがに店に出すのは不安だから、写真部の暗室でこれから現像するつもり」
「そっか。自前で現像できるんだもんね。そっか」
「あのさセンパイ。もし、きちんと
「何だよ。改まって」
「全然大したことじゃない。写真部部長なら楽勝なこと」