「あのね、私も風花ちゃんと写真撮りたいの。私にとって、物心ついたときから風花ちゃんはエルフだった。でも、一緒に写真を撮っても映るのはいつも私の目には映らない風花ちゃん。写真に写る日本人版風花ちゃんが可愛くないとか言うつもりはないけど……さ」
小学生の頃からエルフに見えていた親友は、写真を撮るといつも全く違う姿に写る。
それは渡辺涼香と風花の親子とは逆に、真の姿しか知らないからこそ親子ですら見慣れていた日本人の姿に、この世でただ一人馴染めなかったのが泉美なのだ。
そのことは大好きな親友との思い出作りに、大きな障害になっていたに違いない。
「最初さ、センパイが風花ちゃんをコンテスト用の写真のモデルにするって聞いて、本当に嫌だったの」
「今は違うみたいな言い方だな」
「よく分かってんじゃん。今もそこそこ嫌だよ」
泉美は悪戯っぽく笑った。
「でも、さ。まさか風花ちゃん本人も自分の姿が見えてなかったなんて思わなかった。つまり風花ちゃんは鏡を見ても自撮りしても、日本人の姿しか見えてないってことだよね。その場合って、日本人とエルフ、どっちが風花ちゃんにとっての本当の姿なのかな」
「確かに……どっちなんだろうな」
「あとそれとは別に、私達の目に映ってる姿が本当の姿って認識はあるわけじゃん。だとしたら普段の身だしなみとかどういう扱いになってるのかな。日本人の髪結ぶと、エルフの髪も良い感じに魔法で見えるようになるのかな。風花ちゃんよく耳が長いこと話のネタにするんだけど、自分じゃそれ、見えてはいないわけでしょ?」
「そればっかりは、本人に聞いてみないことにはな」
「そう言うことも含めてさ、私、これまで風花ちゃんのこと分かってるようで分かってないんだなって。で、ここからがお願いなんだけど」
「一緒に写真を撮るってのがお願いじゃなかったの?」
「別にそんなのシャッター一回切るだけの話でしょ。聞いた感じじゃ、もし今回ので上手く行ってたら、センパイのあのカメラに魔力を二人分込めればいいだけなんだから、どっちかって言うとそこはセンパイより風花ちゃんやおばさんに魔力の負担お願いするところだし」
それはそうかもしれないが、この話の流れでそれはないだろうという気はする。
泉美相手に今更そんなことを突っ込んだところで何の意味もないが。
「言ったでしょ。これは写真部の部長にしか頼めないこと。……私を、写真部に入部させてほしいの」
「え!? なんで!?」
これは確かに写真部部長にしか頼めないことかもしれないが、一体どういう風の吹き回しなのか流石に予想ができず、行人は大声を上げてしまう。
「写真部は伝統的に、先輩が後輩に写真やカメラのレクチャーを丁寧にするんでしょ」
確かに仮入部の騒ぎのときに、その話を泉美にもした。
「これでも仮入部とか言って期待させてダマしたことは悪いとは思ってるの」
「はあ」
「それにセンパイだけ部活にかこつけて風花ちゃんの写真を好き放題撮れるの、癪だし」
本音は恐らくこちらだろう。
「日本人とエルフ、どっちが風花ちゃんの『本当の姿』にせよ、その姿を私だって見ていたい。今は魔法のカメラを持ってるのはセンパイだけだけど、風花ちゃんとセンパイのそばにいれば、私だっていつか魔法のカメラを手に入れて、風花ちゃんと写真を撮ったり撮られたりができるかもしれない」
「別にそれは園芸部にいてもできるんじゃないの? 無理に兼部なんかしなくても」
「何? センパイは私が部活に入るの嫌なの」
「割と嫌」
「そこは『そんなことないよ』って言っとくとこじゃないの!?」
「だってここまではっきり自分を敵視してる後輩とか普通に嫌だしそれに……」
これからまた改めて『渡辺風花を好きになる』ための過程において、事あるごとに邪魔してくるに決まっている。
もちろんそれを口に出すほど行人もバカではないが、泉美は極めて空気を読む力に長けた人間であった。
「決めた。絶対入部するから。そんで絶対に! 間違っても! 万が一にも! センパイと風花ちゃんのカップルが成立しないように全力で邪魔してやる」
「勘弁してくれよ」
「だったら私に写真を教えて。一応、普通の女子よりはカメラに詳しいつもりだよ。古いカメラのことならおじいちゃんに色々教わったし」
「おじいさんの影響で興味あるのは本当だったのかよ」
「こう見えてめちゃくちゃおじいちゃんっ子だから」
艶然と微笑むと、泉美は満足して立ち上がり、
「正式な入部は風花ちゃんに兼部の許可もらってからだけども」
行人の腕を指で突いた。
「これからよろしくね、センパイ」
「あー、何と言うか、小滝さんは渡辺さんのいい写真を撮りたいから? あと一緒に写真を撮りたいから? 学校生活で日常的に写真やカメラに触れられる環境が欲しいらしいよ」
「大木くん。泉美ちゃんがそんな素直な理由で大木くんの部活に入ったなんて、私が信じると思う?」
「思いません、はい」
泉美が写真部に入部しにきた経緯を波風立たないように搔い摘んで良いように話したところ、エルフの渡辺には一秒で見破られた。
「私が泉美ちゃんと何年付き合ってると思ってるの」
「だよね。まぁ、俺が渡辺さんの写真を部活にかこつけて撮るのは結局気に入らない、みたいなこと言われたよ」
「ふーん。それだけ?」
「あー、その……後は……間違っても俺と渡辺さんが付き合うことがないよう全力で邪魔する、と言われました」
「ふ、ふーん……そ、そうなんだ……」
さすがにこれには、お互い顔を赤らめてしまう。
「でも、ちょっと待って。それってまさか……泉美ちゃんまさかそのためだけに自分が大木くんと……? 考えすぎ? いやでも……」
「渡辺さん? どうしたの?」
「……大木くん」
「え?」
「部長が兼部って駄目かな」
「は?」
「私も写真部に入りたい」
「いやさすがに部長の兼部は聞いたことないよ?」
「じゃあ大木くんが園芸部に入って」
「いやだから俺も部長……」
「泉美ちゃんばっかりズルい!」
「ええ?」
釈然としない押し問答がしばらく続くが、とりあえずさすがに部長が兼部しあうのはおかしすぎるという結論に落ち着いた。
「でも私は諦めないよ」
「う、うん? 何を?」
「そうだ! 写真部と園芸部を合併させて写芸部にしない? それとも園真部!」
「何する部なのか耳で聞いても全然分かんないよ! それはいいから、とりあえず、写真見てみない?」
「うん。でも私、諦めないから」
「分かったって」
放っておくとそのうち二つの部活を合体させて園芸写真部を発足させかねないので、行人は強引に話題を切り替え、机の上にある写真を手に取った。
「はい。出来上がり、確認して」
「うん。ありがとう。拝見します」
およそ写真を見る緊張感ではないが、エルフの渡辺は姿勢を正すと、三十六枚ある写真の束を一枚一枚めくり始める。
「そう言えば、今のところ、どう? コンクールに使えそうなものは撮れたの?」
「どうだろうな。渡辺さんも納得できるものを応募したいし……あ、今の」
「え? これ?」