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「続きまして、写真部部長、大木行人君」
「はい」
既に夏の気配が近づきつつある六月上旬の全校集会で、行人は名を呼ばれ、壇上に上がる。
「南板橋高校二年、大木行人君。あなたは第一回東京学生ユージュアルライフフォトコンテストに於いて準優秀賞の成績を収めたことを讃え、ここに表彰します」
中学校の卒業証書以来となる賞状受け取りの作法に則り校長から賞状を受け取った行人は、硬い動きで一礼する。
「皆さん、大きな拍手をお願いします」
生徒会役員のやる気のない司会に合わせ、全校生徒からあまり興味の無さそうな拍手を受けながら、行人は硬い動きのまま壇上を降り、自分のクラスの位置に戻る。
「お疲れ、おめでとさん」
戻る途中、列の前の方にいた哲也が肩を軽く叩き、グーを作って祝福してくれる。
「おう、さんきゅ」
友人の思いがけずストレートな祝福は思いのほか照れくさく、全校生徒の拍手の何倍も心に来るものがあった。だからだろうか、
「私も列の前の方がよかったな。そうすれば小宮山君より先におめでとうって言えたのに」
自分の一つ前の出席番号である風花は、少し不満げな顔で賞状を抱きしめた行人を迎えたのだった。
「渡辺さんには、受賞の報せがあったときに最初に言ってもらったじゃん」
「私も最初そう思ったけど小宮山君を見て、それはそれ、これはこれだなって思っちゃいました。だって集会の表彰なんだもの。菊祭りのお返しをしたいじゃない」
可愛らしい理由で拗ねてから、校長の話が続いている集会でくるりと行人に向き直って、小さな声で、はっきりと言った。
「おめでとう、大木くん」
「ありがとう、渡辺さんのおかげだよ」
行人もそう答え、二人は笑い合う。
◇
部長が『東京学生ユージュアルライフフォトコンテスト』の準優秀賞を獲得してもなお、写真部に新たな部員が入る気配はなかった。
それは全校集会の気のない拍手からも予想はできていたことだが、現状唯一の写真部一年生部員となった小滝泉美にはそれが少し不満だった。
行人のことは相変わらず嫌いだが、それでも受賞した写真自体は良いものだと泉美も認めざるを得なかった。最優秀賞でないことに納得はいっていないくらいには。
日陰がちな写真部部室の前にその写真は焼き増しして飾られているのだが、引き延ばしたりせずにL判のまま小さな額に飾っているのが、人の目につかない大きな理由なのかもしれない。
「写真はともかく飾り方のセンス最悪。こんなんじゃ人目につかないじゃん」
祖父から譲り受けたカメラの重みがかかるスクールバッグを担ぎ直しながら、泉美は肩をすくめた。
「センパイもう来てるー? あれ、まだ来てない。もー、そんなだから新入部員が私しか来ないんじゃないの」
その場にいない部長に文句を言いながら、泉美は開けたドアを乱暴に閉めて部室で行人を待つ。
その衝撃で、廊下に飾られた写真が小さく揺れる。
それは、花壇の整備を終え、泥で汚れたジャージの腕をまくった風花が、花壇の縁に腰かけペットボトルの麦茶を美味しそうに飲む写真。
『モデルとの信頼関係が築かれていることが窺える。こんなに麦茶を飲みたくなる写真は他にない』と審査員に選評された、渡辺風花の学校での日常を切り取った写真だった。