魔剣少女の星探し 十七【セプテンデキム】 1
序ノ一 十七 ②
「あまり無茶はせんようにの」老年の衛兵は豊かなあご鬚を撫で「困ったらいつでも戻ってきなされ。力になれるかはわからんが、話くらいは聞いてやれるからの」
ありがとうございますと深く頭を下げ、顔を上げて歩き出す。ゆっくりと開かれていく門の向こう、石畳の街道の先に連なるようにして、大理石の壮麗な参道が次第にその姿を現す。
夜明け前の瑠璃色の世界に光が差したような錯覚。
息を
地鳴りのような人々の
緩やかな上り勾配を描く参道の両脇には宿や酒場、仕立屋に魔術道具屋とありとあらゆる種類の店が軒を連ね、呼び込みの子ども達が旅人の気を引こうと声を張り上げている。色鮮やかな屋根のさらに向こうには石造りの建物を敷き詰めた街並みが見渡す限りにどこまでも広がり、小さな点のような無数の人波が慌ただしく動き回っている。
「ほらどいたどいた! お嬢さん、ちょっとどいとくれ!」
「ご、ごめんなさい!」
慌てて
無数の話し声と、花や果物の香り。酒場から立ち上る焼きたてのパンや肉の
そんなお祭り騒ぎのような街の中にあって、やはり
大小様々、色とりどりの魔剣を腰に佩き、あるいはリットと同じように背に浮かべて、幾人もの魔剣使いが街路のそこかしこを当たり前のように通り過ぎていく。誰も彼もがリットよりずっと年上の大人で、誰も彼もが歴戦の勇士という
ここが聖門教の聖地、セントラル。今や世界でただ一つ、魔剣使いが自由に生きられる街。
……母様、見ていて下さい……
目を閉じ、胸に手を当てて、一度だけ深く息を吐く。
背中の
……リットは必ず、母様の願いを
行く手には、朝日に
輝かしい未来に向かって、リット・グラントは記念すべき第一歩を踏み出し──
そうして、今。
最初の一歩からわずか
*
「なぜです──!」
力の限りリットは叫ぶ。往来を行き交う人々が何事かと立ち止まって振り返るが構ってはいられない。酒場の窓の陰で子ども達がひそひそとこっちを指さしている気もするがそれも無視。事はリットの人生その物に関わるのだ。
「なぜも何もあるか!」
目の前に立つ
「こんな街中で決闘などと正気か貴様は! 教導騎士団に見つかれば
「なにも命のやり取りをと言っているのではありません! 同じ魔剣使い同士、剣を戦わせ、互いの技を競い合おうと……!」
「どこの田舎貴族だ貴様は!」男はリットが羽織った家紋入りの外套を心底うんざりした顔で見下ろし「まだ貴様のような手合いが残っていようとはな。大方、廃嫡が決まった家の跡取りがこのセントラルの噂を聞きつけ一旗揚げんと上ってきたのだろうが……」
深いため息。
禿頭の男は大理石の参道の真ん中にどっかりと腰を下ろし、リットを見上げる格好で、
「
見ろ、という男の言葉にリットは周囲に視線を向ける。参道にはいつの間にか自分達を取り囲むように形作られた何重もの人垣。誰も彼もがこっちに奇異の目を向け、幾人かが教導騎士団に通報すべきかどうかを真剣な顔で話し合っている。
人垣の中には魔剣使いの姿も幾つか見られるが、彼らはリットと目が合うと苦笑混じりに肩をすくめて立ち去ってしまう。
「そ……それでは、どうあっても立ち合ってはいただけないと?」
「先ほどからそう言っておる」
「ではせめて三太刀、いえ一太刀! それもダメなら軽く
「見世物小屋の押し売りか!」
またしても深いため息。
禿頭の男はリットの肩に手を置き、どこか哀れむような顔で、
「娘、貴様の気持ちは分からなくもないが、世界は変わったのだ。もはや魔剣一本で功成り名を遂げ、家を再興するような時代ではない。それがわかったなら、大人しく故郷に帰れ」
後に残るのは魔剣使いの小娘が一人だけ。
「……そ……」
リットは参道の真ん中にぺたんと座り込み。
冷たい大理石に両手をついて、
「……そんなぁ……」
*
空を巡る太陽が雲に隠れ、石畳の路地に影が落ちた。
参道の喧噪から離れた裏通り、民家に交ざって小さな宿が点々と並ぶ寂れた道を、リットは一人とぼとぼと歩いた。
『決闘? よせよせ、今時
『
あれから何人の魔剣使いに声を掛けたか分からない。反応はそれぞれ違っても、彼らの答はみな同じだった。決闘などもっての外。往来でみだりに魔剣を抜けばたちまち教導騎士団が飛んでくる。もはや腕比べなどという時代ではない。魔剣戦争は終わったのだ、と……
もちろん、そんなことで諦めるリットではない。魔剣使いとの決闘が望めないとしても、名を上げる手段は他にもある。母も「人の役に立て」と言っていた。つまりは仕事だ。
幸い、というのもおかしな話だが、セントラルの街の治安はそれほど良くないと聞いている。多くの人が集まる街には多くの揉め事が起こる。そういった問題の対応を請け負うための窓口としてこの街には「