魔剣少女の星探し2 魔剣名鑑
序ノ一 豊穣の大賢人 ④
「り、リット──?」
「リットさん──?」
ようやく我に返ってクララと声を上げた時には遅く、礼服の一団は赤毛の少女をえっさほいさと担いで流れるように店の出口の扉を潜ってしまう。筋骨隆々の男女が少女を手際よく馬車に投げ込んで自分達も次々に車内に乗り込む。ゴーレム馬の
慌てて通りに飛び出し、土煙を上げて走り去る馬車を呆然と見送る。店内に取り残されていた真紅の魔剣「
「ま、待って! ちょっと待──!」
「ふふふ二人ともあああとのことはよよろしくおおおおお願いします──────!」
簀巻きのままのリットが激しく揺れる馬車の窓から器用に首だけを突き出して叫ぶ。その姿が角を曲がって見えなくなり、車輪と蹄の音があっという間に遠ざかる。
しばしの沈黙。
「……どうしよ」呟き、自分の言葉に目の前が真っ暗になって「どうしよ、ねえこれほんとにどうしよ! リットは連れてかれちゃったし、お金はないし仕事もないし! それに金貨ごごご五十万枚なんて──!」
「まあまあ、少し落ち着いてくださいまし」意味もなく右往左往させた手をクララの手がやんわりと受け止め「リットさんなら大丈夫。きっとご自分で何とかなさいますわよ」
「そ、そう? ほんとに? ほんとに大丈夫──?」
「もちろんですわ。でなければ、大人しく捕まってそのまま連れて行かれるはずがありませんもの」
自信たっぷりにうなずくクララの言葉に少し落ち着く。店の扉の陰でミオンがものすごく慌てた顔をしている気がするが、そっちは見なかったことにする。
「そっか……じゃあ、ボク達はリットが帰ってくるまでにちょっとでもお金を稼がないとだね!」腕組みして、うーん、と首を捻り「どうしよっか。とりあえずグラノス
ダメ元で、と小さく付け加える。二人は
と。
「……その前に、少しお付き合いいただけますこと?」クララがためらいがちに声を上げ「実を申しますと、心当たりが全然ない、というわけでもありませんの。何と申しますか……」
視線を右往左往させて
と、急に「……しっかりなさいませ、クララ・クル・クラン」と独り言のような呟き。
少女は両手で頰を押さえて、よし、と一つうなずき、
「わたくしも覚悟を決めました。こうなったら最後の手段ですわ!」
*
白一色の壁を
「ご無沙汰しておりますわ、フリッツ叔父様。……大使ご就任、お祝い申し上げます。王に仕えるはクラン家の誉れ。父祖の霊もさぞやお喜びでしょう」
「久しいな、クララ。……厄災退治の一件は聞いている。無論その後の活躍もな。
目が痛くなるような派手さはなく、権威を誇るような押しつけがましさもなく、ただ、何もかもが有り得ないほど美しい。
思わず、うわぁ、とため息。
そんなソフィアの感動を置いてけぼりに、隣の席ではクララがテーブルの向かいの男と会話を繰り広げている。
「ところで、お
「二人とも新年の祝いにも開祖様の生誕祭にも顔を見せん。誤ってお前の寝所に迷い込んだ際に不幸にも砕けてしまった両腕と両足の傷が
見事な
『じゃあさ、その人はクララを捕まえて実家に連れて帰ろうっていうんじゃないんだね?』
『そうとも言い切れないのが難しいところですの。ですので、出来ればお近づきになりたくはなかったのですけれど』
セントラルの中央にそびえる大聖堂から
『背に腹は代えられませんもの。……とはいえ、万が一ということもありますから、その時はお手伝いお願いしますわね?』
可愛らしく小首を傾げるクララの眼光を思い出すと、背中に氷の刃を押し当てられたような
「──して、貴殿がソフィア嬢か」
そんなことを考えていると、急にフリッツ大使の声。
首を傾げて何度か瞬きし、ようやく自分が呼ばれたのだと気付いて、
「え……? う、うん! じゃなくて、はい!」
「我が
優雅に一礼する男に慌てて頭を下げ、心の中で冷や汗をかく。マナーなんてまるでわからない。こんなことなら姉に昔もらった本をもっと真面目に読んでおけば良かった。
隣の席にちらっと視線を向けると、クララは背筋をぴんと伸ばしてティーカップを傾ける。
指先を
戦災孤児の流民だった自分には縁遠い世界だなと、ふとつまらないことを考える。
「それで叔父様、お仕事の依頼というお話ですけれど」
ティーカップを音も立てずに皿に戻し、クララがあらためてフリッツ大使に向き直る。うむ、とうなずいた大使がなぜか左手側の壁、高い位置に取り付けられた大きな窓を見上げ、
「依頼というのは他でもない。護衛だ」テーブルの上で両手を組んで深く息を吐き「龍日祭の観覧のために、さる高貴なお方が



