魔剣少女の星探し2 魔剣名鑑
序ノ一 豊穣の大賢人 ⑧
そもそも、大陸中央に位置するセントラルは東西南北の四つの大国全てと接する街道の結節点に当たる。特に、
かつては聖門教の信徒が壁に守られて細々と暮らすだけだった街の人口は、わずか一年で百倍以上に膨れあがった。街の治安を
昼でも薄暗い路地は罪人が身を潜めるのにうってつけ。複雑に枝分かれしながら崩れかかった階段で上り下りを繰り返す道には幾つもの扉が隠れていて、その先は何千年も前の遺構に
大使には出来るだけ機嫌を損ねないようにと頼まれているが、もう知ったことではない。
こうなったら実力行使。とにかく無理やりにでも捕まえて、安全な道に出なければ──
「うわっ……!」
急に、先を行くエカテリーナの悲鳴。小さな体が勢いよく尻餅をつく。向かいには同じく尻餅をついている男の子。薄汚れた身なりの男の子は立ち上がるなり女の子を睨み付け、
「
「な……なんじゃと貴様! 妾を誰と!」
慌てて駆け寄り、助け起こしてローブの
その手に揺れる、小さな巾着袋。
あ、と声を上げたエカテリーナがすぐに目を見開き、
「ソフィア! 妾はよい! それよりあやつを、妾のまけ──!」
慌てた様子で自分の口を両手で塞ぐ女の子。何だか知らないが大切な物らしい。なんてことを考えている間に
とはいえ、相手が悪い。
一息に呼吸を整え、一手で本気の跳躍。石畳の地面を蹴った爪先が瞬きのうちに男の子の真後ろ、手をのばせば届く場所に追いつき、
「ほら、鬼ごっこは終わ──」
終わり、と言うより早く、何故か男の子の悲鳴。
巾着袋を取り落とした男の子が、手を押さえてその場にうずくまる。
「こ、この愚か者め!」後ろの遠くでエカテリーナの慌てた声。「
あーもう、と思わずため息。男の子の傍に片膝をつき、腕を摑んで
「君! ダメだよ。盗む時は危なくない相手か、捕まったらどうするか最初に考えないと!」
男の子の目を真っ直ぐ見てひとしきり言い終え、今のお説教はちょっとおかしいかもとふと考える。男の子はこっちの顔と胸の辺りを順番に見詰めてなぜか耳たぶまで真っ赤になり、すぐに我に返った様子で何とか手から逃れようと暴れ始める。
「あ、こら! 危ない! 危ないから大人しく──」
言いかけた声を寸前で飲み込み、
目の前には、拳ほどの大きさの石。
男の子の頭越しに飛来する
路地の先、分かれ道の陰からわーわーとなんだかよく分からない
石は次から次へと際限なく飛んでくる。難しくないし当たってもどうということは無いがとにかく面倒くさい。と、後ろから何とも情けない悲鳴。振り返った路地の少し離れた場所、エカテリーナは曲がり角の陰に身を潜め、半分だけ突き出した頭をぶるぶると震わせている。
「ちょっと君! なにやってるのさ!」大きな石を後ろ手に
「出来ぬ!」
返るのは切羽詰まった声。
は? と目を丸くするソフィアの見詰める先でエカテリーナは視線を右往左往させ、
「じゃから! 妾は軍事魔術はさっぱりなのじゃ!」
泣きそうな顔で叫んだ女の子が、流れ弾のように飛んできた石をいかにも頼りない小さな魔力結界の盾でかろうじて弾く。これ以上ため息を吐くと幸せが逃げそう。掏摸の男の子の襟首を問答無用で摑み、左右の壁を無造作に蹴って二階くらいの高さに飛び上がる。
正面から投げつけられる石の上を飛び渡り、降り立った先は子ども達の目の前。
「もー、あったま来た!」ぽかんと口を開ける何十人かの子供達の前に男の子を落とし、両手を腰に当て「こんな狭いところで石なんか投げたら危ないだろ! 君達いい加減に──」
一息。振り返りざま
甲高い金属音。
跳ね返った深緑色の刀身が、薄闇に鈍い弧を描いた。
考えるより早く、体が動いた。
ソフィアは子ども達をまとめて遠くに押しやりつつ爪先を軸に一転。続けて飛来する突きの一撃を指三つ分の隙間でかいくぐり、右の蹴り足で滑るように地を
なに、と驚きを含んだ声。正確に足首を狙った一撃を寸前で跳躍してかわし、正体不明の何者かがソフィアの頭上を飛び越える。空中で大きく一回転しつつ、上下逆さまの姿勢で振り抜かれる深緑色の刃。刃渡り
とっさに
石壁に切り取られた細い空から陽光が差し込み、敵の姿を
胸の辺りに金糸で刺繡された貴族の物らしき家紋が、十字に斬り裂かれて粗末な糸で乱雑に縫い直されている。
「ラスティ! 早くやっつけて!」
「ラスティ助けて! 殺される──!」
青年の背後、路地の奥の角まで逃れた子ども達が口々に叫ぶ。とっさに何か言い返してやろうとした瞬間に
ブーツの爪先で拾い上げた小さな袋の中には魔力電池とほとんど同じ大きさの、細かな金細工が施された黒い石。
何だこれ、と首を傾げ、後ろ手にぽいっと放り投げる。
「ば、馬鹿者! 何という扱いを……!」
悲鳴を上げたエカテリーナがどうにか巾着袋を受け止める気配。肩越しに振り返って様子を



