主人公の幼馴染が、脇役の俺にグイグイくる 1

第三章 追い続ける勇気さえあれば、俺に悲劇が起こります ①

『俺は、幼馴染だけを一途に愛する』


 主人公:天田照人

 メインヒロイン:氷高命

 サブヒロイン:いっぱい

 親友:月山王子

 盛り上げ用の悪役雑魚脇役:石井和希


 一度目の人生、各自の配役を簡単に紹介するとこんな感じだろう。

 悪役雑魚脇役の俺は、役目を終えたら文字通りお役御免。まるで、世界から排除されることが望まれているかのような地獄を味わい、人生という舞台から降ろされることになった。

 もしも、これが物語だったら俺の顚末は一行で済まされるだろうな。

 女子生徒を脅していた石井は、家族を失い自ら命を絶った。

 視聴者も、「あいつはどうでもいい」と特に興味を向けることなく、いかに天田が氷高と結ばれるかを期待して物語の行方を見続けるのだろう。

 だからこそ、俺は二度目の人生では自らの配役を変更することにした。

 ラブコメは好きにやっていい。物語も自由に展開すればいい。だけど、俺を巻き込むな。

 一年と半年後に待ち受けている理不尽な断罪イベントを避けるために、完全に役割を与えられない、顔すら描かれないレベルの空気脇役になろうとしたんだ。

 完全なる空気脇役に必要な条件は、主要人物と交流をしないこと。

 理想を言えば、天田とは一言たりとも会話をせずに比良坂高校を卒業できればいいのだが、世の不条理か、俺と天田は出席番号の都合上、強制的に関わらざるを得ない羽目になる。

 加えて、二度のクラス替えを経ても俺は常に天田と同じクラス。

 まるで、神が俺に天田を引き立て続ける役割を与えたかの如く。なので、天田に認知はされても、能動的に交流をしたいと思われないポジションを目指すことにした。

 そのために打ち立てた、三本の柱。

・天田とは、必要以上に仲良くならない。

・クラスの連中とは、極力関わらない。

・アルバイトを始めて、ラブコメイベントに巻き込まれないよう常に予定を埋めておく。

 ここまですれば、何とかなるだろう。多少ノリの悪い奴だと思われるだろうが、その程度で一人の人間が目立つようにならないことは分かっている。

 ほら、クラスに一人はいただろ? なんかいるけど、自主的に関わろうとは思わない奴。

 そんなポジションに納まろうと思っていたのだが…………アクシデントが発生した。

 ラブコメから逃げた先で、別のラブコメが俺を待ち受けていたんだ。

 なんと、『俺は、幼馴染だけを一途に愛する』のメインヒロインであるはずの氷高命が、脇役であるはずの俺に告白をした。

 しかも、氷高はかなり重度のストー……げふん。アグレッシブな努力家だった。

 なぜ、そのような危険な初期装備を俺は手にしてしまっている?

 二度目の人生へ辿り着く前に、DLCで何か余計な物を購入してしまったのか?

 ともあれ、これは非常に危機的な状況だ。

 氷高命という比良坂高校を代表する美少女に恋をされて、あまつさえ告白までされるというのは、全男子高校生にとっては最上級の奇跡のような出来事だが、それが俺を最下級の悲劇へと導く可能性が非常に高い。どう考えても、空気脇役の役割ではないからだ。

 しかも、氷高はとにかくモテる。

 天田は言わずもがな、イケメンの月山。その他諸々の男子諸君。

 もし、氷高が俺に対して恋心を抱いていると知られたら、かなりの高確率で俺は迫害の対象となってしまう。一度目の人生で、比良坂高校にいる連中のドブ川にも劣る下種な本性を見てきた俺にはよく分かる。あいつらは、嫉妬で何でもやるということを。

 俺だけなら、まだいい。けど、父さんや母さん、それにユズが巻き込まれるのはダメだ。

 何が何でも、家族のみんなを守ってみせる。


◇ ◇ ◇


 朝。俺が、HR開始ギリギリに登校して、誰とも会話をすることなく自分の席へと腰を下ろすと、僅か一〇秒程遅れて氷高命が教室に入ってくる。

 内心で、絶対に声をかけないでくれと祈っていると、その祈りが届いたのか、氷高は俺のことなど一切見もせずにツカツカと自分の席へと腰を下ろした。

 直後、担任教師がやってきてHRが始まる。

 木曜日に入学式、金曜日に健康診断と部活紹介を終え、月曜日の今日からいよいよ授業開始。

 一度目の人生では、クラス親睦会を経て結成されたツゴ連の奴らとつるみながら、休み時間には「どこの部活入るか決めた?」「そもそも部活とかダルくね?」なんて話をしていた。

 無駄な尖りを見せていた俺達は、部活に入らない自分をかっこいいとか思っていたのだ。

 だが、今回の人生では俺はツゴ連に入っていない。

 なので、天田は俺以外の二人とツゴ連を結成していると思っていたのだが、


「テル、お前はどこの部活に入るかって決めてる?」

「まだだよ。ツキは?」

「俺は水泳部だな。スクール水着を愛してやまないから」

「それを言って許されるのは、ツキだけだからな……」


 HRを終えた後、クラスのイケメンリーダー月山が、天田と気さくに話している。

 おかしい……。一度目の人生で天田と月山が親友になるのは、この後に控えるラブコメイベント、中間テストの勉強会を経てからだったはずだ。

 にもかかわらず、どうして今回の人生ではすでに二人はここまで仲良くなっている?


「なぁ、石井は?」


 事態に困惑していると、天田が振り返り尋ねてきた。


「いや、俺は部活には入らないよ。バイトがあるし……」

「あ〜、そういえばそうだったな。ちなみに、バイトはどんな感じだった?」

「まぁ、ボチボチ。あのさ……」

「ん?」


 必要以上に天田と仲良くなりたくはない。だが、変化した情報を得ないほうが危険だ。


「どうして、二人はそんなに仲良くなったんだ?」


 俺がそう尋ねると、天田と月山はキョトンとした顔で目を合わせた後に、お互いにどこか照れくさそうな笑顔を浮かべた。青春の一ページ過ぎて、軽くイラっとする。


「一昨日の親睦会だよ。そこでツキと話したら、なんか気が合っちゃって」

「なっ! なんかテルって、同じタイプの人間って感じがして話してて楽なんだ」


 それはおかしいぞ。前回の親睦会では、天田と月山が交流することなんてなかったはずだ。

 大人数で行ったから部屋を二つに分けざるを得なくなり、俺と天田は他の脇役男子と四人の小部屋でアニソンなんかを歌っていたはずで……。


「えっと、結構大人数でカラオケに行ったと思うんだけど、部屋が分かれたりとか?」

「あれ? 石井って、親睦会がカラオケってなんで知ってるんだ?」


 まずい。今のは失言だった。天田め、さらっと痛いところを突いてくる。


「ほ、ほら! 親睦会と言えばカラオケかボウリングだろ? それに、他の奴が歌の話をしてたから、カラオケかなって」

「へぇ〜。石井って、結構鋭いんだな」


 いいえ、鈍感です。とある女子生徒の重すぎる恋心に気づかなかった程に。

 ひとまず、どうにかごまかせたようだな。あっぶねぇ〜……。

 そのまま、天田は俺に説明を続けた。


「ただ、別に部屋は分かれてないぞ。少し詰めれば全員で入れる部屋があったんだ。結構ギリギリで、あと一人多かったら部屋を分けてただろうけど」

「ああっ!」


 そういうことか。前回の人生では、クラス全員が参加した親睦会も今回は欠席者がいる。

 俺と氷高だ。

 その結果、一度目の人生とは異なり部屋を二つに分ける必要がなくなって、全員が一つの部屋に入ることになった。おまけで、氷高がいないのであれば月山もアプローチをする相手がいなくなって、手持ち無沙汰。

 結果として、天田と月山が仲良くなって、ツゴ連が結成されなくなったのか。


「ぐぬぬぬ……っ! これは、どうなんだ? いや、別に害はないが……」

「テル、こいつ何言ってるんだ?」


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