主人公の幼馴染が、脇役の俺にグイグイくる 1

第五章 復讐をする時は、上機嫌でやれ ⑤

「もちろんだ。ユズの未来のためにも、明日は必ず二人で出かけよう」

「はいはい。未来とか……ほんと、カズって大袈裟……」


 呆れた声と共に閉じられるドア。同時に、浮ついていた気持ちに蓋をする。


「ひとまず、来週の月曜は待ちに待った席替えだ」


 できることならば天田と離れた席になりたいのだが、一度目の人生ではどうだっただろう?

 残念ながら、そこまで覚えていない。そもそも、これだけ様々な変化が起きている二度目の人生だ。席替えの結果も一度目の人生とは異なる可能性があるし、俺は不幸に愛され過ぎているので、再び天田と前後になる覚悟も決めておいたほうが良いと思う。

 なら、そこについては加味せずに今後のことを考えるか。

 月山を無事に封じた結果なのか、今日のところは天田やヒロイン達に動きはなし。

 だけど、間違いなく月山の件は情報共有がされているだろうし、何かするつもりがなくなったのではなく、むしろ作戦を考えて準備していると思ったほうがいいだろう。

 少しだけ状況は良くなったが、月山を封じたところで天田の戦力はさほど落ちていない。

 なにせ、本当に恐ろしいのは射場を筆頭とした、天田に恋するヒロイン達なのだから。

 射場や牛巻は、外見もさることながら、しっかり者の性格や、勝気な性格も相まって、それぞれがクラスのリーダー的なポジション。特に倫理観ぶっ壊れ鬼畜頭脳派の射場に対しては最大限の警戒心をもって対処するつもりだが……現時点で最も厄介なのはこの二人ではない。

 蟹江心だ。

 あいつは、男子の庇護欲をそそる外見と性格をしている。

 これは俺の個人的な考えだが、世の中で最も味方を作りやすい人間というのは、「かわいそうな人間」だと思っている。人間はかわいそうな奴を助けることで、自分の承認欲求を満たす側面があるからな。だからこそ、今朝の月山に対する手法は蟹江には決して通用しない。

 あんなことをしようものなら、あっという間に俺が悪者になるだろうからな。

 もちろん、俺にだってアドバンテージはある。未来で得たヒロイン達の情報だ。

 一度目の人生で、俺は天田から天田のラブコメ話を嫌って程聞かされていた。

 そして、当時は羨望の念を抱いていた俺は、あいつから聞かされた話を全て覚えている。

 その中には、ちゃんとあったんだよ。それぞれのヒロインの弱点がな……。


「一人ずつ確実に潰してやる。可愛いからって、何でも許されると思うなよ……」


 お前らの下らないラブコメに巻き込まれて、俺の家族はぶっ壊されたんだ。

 今度は、俺がお前らのラブコメをぶっ壊してやる。

 覚悟しとけよ、天田。たんまりと、教え込んでやるからな。

 お前がラブコメ主人公の皮を被った、ただの小悪党だってことを。


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