主人公の幼馴染が、脇役の俺にグイグイくる2
第一章 愚人は過去を、賢人は現在を、脇役は未来を語る ③
イケメンで勉強もスポーツもできて、ついでに社長の息子で金持ちという超絶ハイスペックなくせに、性格が残念すぎてついたあだ名が『がっかりプリンス』。
今日も、いつも通り雑な扱いを受けている。
「まぁ、ツキの言うことも一理あると思うけどねぇ。あたしも、同意見だし」
「私もですね」
続いて発言したのは、かつて天田のヒロインとして俺を陥れようとした、牛巻風花と射場光姫。ここ最近、月山と射場、そして牛巻が俺達の昼飯に交ざってくることがある。
だが、初期天田ヒロイン三人娘……通称『スリースターズ』最後の一人、蟹江心はいない。
引っ込み思案が原因で誤解されクラスの女子内で浮いていた蟹江だが、最近では誤解が解けてクラスメートと過ごす時間が多くなっている。
なので、これまで共に過ごしていた射場や牛巻と疎遠になったわけだ。
別に気まずい仲というわけではないが、天田という共通の目的がなくなったことで、関わる機会も減ってしまったそう。女子ってのは、俺が思っている以上にドライなものだ。
とまぁ、それはさておきだ。
「お前らは、どの面下げてここにいるんだ?」
同じクラスの月山は(ギリギリ)いいとしても、射場と牛巻は別クラス。
加えて、こいつらは天田の手先として俺を地獄へと陥れようとしたクソ女共だ。
利用されていた可哀想な存在でもあるのだが、ド腐れ外道も裸足で逃げ出しかねない、とんでもない悪行に手を染めていたので、同情心なんて欠片もない。
「石井さん、あまり過去に囚われるのはよくないです。過去は忘れて仲良くしましょうよ」
「黙れ、腹黒外道女。腹黒のくせに、しっかり騙された分際で何を偉そうにしている」
パッと見は上品で委員長な射場だが、この女は一度目の人生で俺を地獄へと陥れた極悪人だ。
天田の件が解決しようと、かつての恨みを全て許したわけじゃない。
二度目の人生でも、しっかりと俺を陥れようとしてきたわけだしな。
「ぐっ! 中々、ハッキリと言ってくれますね……」
「ははは! ヒメは確かに腹黒だし、警戒されて当然だよ! その点、あたしは──」
「お前も同レベルだ、ド痴女」
なに、自分だけはセーフみたいな顔をしているんだか。
二度目の人生では、お前が一番とんでもないことをしでかしているだろうが。
むしろ、一番まともなのはここにいない蟹江だ。……まともだからこそ、いないのか?
「ちっ! 痴女じゃない!」
テーブルに両手をつき、顔を真っ赤にして叫ぶ牛巻。
いや、痴女だろ。天田に利用されていたとはいえ、俺を盗撮犯にでっち上げるために、リアルひと肌脱ぎをかまして写真を撮らせた女が何を言っているのやら。
「そもそも、あれはヒメが……」
「計画したのは私ですが、実行したのはモーカさんでしょう? まったく、嘆かわしい……」
「なんで、こっちが悪いみたいになってんだ! てか、あの写真って消したんだよね?」
自分で撮らせておいて消去をお望みとは、意味不明な確認だ。
そもそも、俺のスマホには元から牛巻の着替え写真なんて入っていない。
そうなることを先読みして、月山とスマホを入れ替えていたんだからな。
「知らん。月山に聞け」
「安心しろ。一部の男子から、金銭での譲渡を望まれたがちゃんと断ったし、消してある」
「ほ、ほんとだよね? 金に目が眩んで実はとかは……」
「牛巻を傷つけてまで、金を稼ぎたくないさ。父さんに言えば、いくらでももらえるしな」
さすがはがっかりプリンス。後半がなければかっこよかったというのに……。
性格に残念な面が多々ある月山だが、正義感の強い奴だからな。
恐らく、本当に写真は消してあるのだろう。俺だったら、残して脅迫の材料に使うが。
「よかったぁ……」
月山の言葉を聞いて、ホッと安堵の息をつく牛巻。
今のこいつらは無害な存在ではあるが、いついかなる時に牙を剝くか分からないからな。
ハッキリ言ってかなり警戒をしている。俺に絡んでくる意味も分からないし。
「てか、何でお前らってここにいるわけ?」
疑問をそのまま口にする。射場も牛巻も美少女で、クラスの人気者だ。
天田の悪事を俺が看破したことによって、そんな悪事に手を貸していた射場や牛巻も一時期は校内で立場を失っていたが、今は以前よりも信頼は回復したはずだ。
「俺なんかのところに来ないで、クラスメートと──」
「貴方のせいですよ」「あんたのせいだよ」
「は?」
牛巻と射場の声が、見事に重なった。
「石井さん。貴方は私が孤立していた際、王子君に私を助けるよう唆したでしょう? おかげで、孤立していた環境からは脱出できましたが、がっかりプリンスと定評のある王子君と仲良くしていることが原因で、結局私は周囲から敬遠されてしまっているのです。迷宮を抜け出したら、その先も迷宮だったというわけですね」
「それは、月山のせいだろうが!」
「ふっ……。石井よ、お前が俺を侮りすぎたのさ」
なんでこいつらは揃いも揃って、誇らしげなわけ?
もういいや。何を言っても無駄な気しかしないし。
「で、牛巻は? お前は関係ないだろ」
「あんた、分かってないねぇ」
呆れ顔で、やれやれと言わんばかりに首を横に振っている。少し前まで、ラブコメを目論む男におもっくそ騙されて脱いだ女が、よくそんな態度が取れたものだ。
「あたしが学校で針の筵だった時、あんたが悪役を買って出てくれたおかげで、クラスメートのみんなとまた仲良く過ごせるようになった。正直、凄く感謝した。……感謝だけね!」
氷高からの恐ろしすぎる視線に気がつき、牛巻が慌てて感謝を強調した。
「石井にそういうのとか、ないから! ほんと、路傍に転がる馬糞としか思ってないから!」
ならば、貴様は馬糞に群がる蠅か?
「路傍に馬糞が転がるのは珍しいと思うけど……。ぶーん」
率先して蠅になり、身を寄せてくる美少女が一匹。
できることなら、馬糞扱いしたことを怒ってほしかった。
「あの時はすごく嬉しくて、あたしもテ……こほん。天田のことを引きずってないで、新しい一歩を踏み出そうって決めたんだ。けど、そしたら……」
「そしたら?」
「男子から、めっちゃ言い寄られるようになったんだよ! しかも、恋愛的じゃなくて、性的な意味で! あんたに分かる!? 裏で男子から『ワンチャンやれ子』って呼ばれてるあたしの気持ちが! 『優しくしたし、いいよな?』とか言われて、上裸の男に迫られたんだぞ!」
「さすが、ド痴女だな」
「私は、ド処女だ!」
とんでもなく恥ずかしいことを大声で叫んでいるが、大丈夫なのだろうか?
「だったら、女子と過ごせばいいだろ」
「そうしたよ! けど、女の子とばっかりいたら、『助けてやったのに、恩知らずだ』とか文句を言われて、男子を怖がった女の子達からも避けられて……おかげで、人間不信だよ!」
どうやら、うちの学校は想定以上にクズが多かったらしい。
いや、想定内だな。一度目の人生では、俺もひどい目にあいまくったし。
「事情は分かった。けど、射場に関しても牛巻に関しても、俺は関係ないと思うのだが?」
確かに悲惨な状況ではあると思うが、元はと言えばこいつらが招いた事態だ。
蟹江はうちのクラスの女子と上手くやれているわけだし、俺が知らないところで、何かしらの問題があるんじゃないのか?
「「助けるなら、もっと上手に助けるべきです(だろ)」」
こいつら、しばいても許されるよね?
「氷高、お前はいいのか? こいつらと一緒にいるのは……」
「前まではすごく嫌だった。でも……」
少し気まずそうに俺から目を逸らした。なぜだ?



