主人公の幼馴染が、脇役の俺にグイグイくる2

第一章 愚人は過去を、賢人は現在を、脇役は未来を語る ⑥

 かつての天田ヒロインに対して、ユズが好感を持つというのはハッキリ言って不愉快だし、何かあった時にユズが巻き込まれてしまうのではと不安でしかない。

 でだ、羊谷美和がうちの学校に転校してきたのは、ストーカーから逃げるため。

 ただし、ストーカーの撃退を無事に済ましても事件はそれで終わりではなく、他クラス……D組の女子生徒がストーカーに羊谷の情報を流しているから、そこまで突き止めないとダメ。

 そのトラブルをちょちょいのちょいっと解決してくれ。そこまで言えるか。


「噓くさ。あんた、先週の時点であたしらに言ってたじゃん。転校生が来たらトラブルを抱えてるから、助けてやれって。あんたって、未来でも見えるわけ?」

「残念ながら、そういった特殊能力はないな」


 別の特殊能力なら発動したが、今でもできるか試す勇気はない。

 今の環境を失うなんて、絶対にごめんだからな。


「だったら、なんで──」

「天田だよ」

「は?」

「ほら、天田って異常なほど恋愛絡みのイベントに出会う奴だったろ? だから、あいつの特性的に考えたら、そろそろ転校生が来るかなって思ったんだ。で、そういう転校生はトラブルを抱えているのがお約束。まさか、当たるなんて俺も驚いてるよ」

「それなら、まぁ……」


 かつては自分も該当者であったからか、牛巻が少し気まずそうに納得を示した。

 射場はまだ僅かに俺を疑っているようだが、追及する言葉が見つからなかったようで、やむを得ず引き下がってくれた。


「なら、石井も羊谷がどんなトラブルを抱えているか分からないのか?」

「ああ。その辺は月山が聞き出してくれると助かる。あるかないかも、分からんが」

「ん〜」


 月山が難色を示した。女子のトラブルを解決なんて、人気者になれる最大のチャンスだぞ。


「そもそも、俺は羊谷に悩みなんてないと思うんだよな。ほら、あんなにサバサバしている子なわけだし、もしも困っていたら素直に言うんじゃないか?」


 瞬間、四つの突風の如きため息が放たれた。


「がっかり。驚異的ながっかり」

「いや、さすがツキだわ……。ひくわぁ……」

「もはや、救いようはないですね。絶望的に終わっています」

「けど、そんな月山だからいいと思うんだ。金持ちで運動も勉強もできてイケメンだし、利用して捨てるにはこれ以上に相応しい人間は中々いないと思うんだ」

「「確かに」」「確かに!」

「お前ら、なんなの!? 貶してるのか褒めてるのかどっちだよ!」


 褒めているに決まっているじゃないか。お前ほど騙しやすい奴は中々いないぞ。


「月山よ、きっと羊谷が正直に悩みを言える相手というのは、自分が信頼できる相手だけだ。そして、お前ならそんな男になれるはずだ。ということで、早く声をかけてこい」

「嫌だよ。変に声をかけて、これ以上クラスで浮きたくないし、なにより……」

「なにより?」

「石井がそこまで言うのが不気味だ。逆に声をかけたくなくなった」


 くっくっく……。こういう時のがっかりプリンスは、本当に期待に応えてくれるな。

 お前は知らないだろうが、俺は一度目の人生で知っているんだよ。

 羊谷イベントに巻き込まれる条件は、転校してきた羊谷に話しかけないことなんだ。

 つまり、月山が絡みに行かなければ、必然的に月山が羊谷イベントに巻き込まれる。

 もしも、俺の目論見が外れて羊谷のトラブルを誰も解決しなくても、それはそれでいい。

 別に俺は、みんなが幸せになれる道を望んでいるわけじゃないからな。

 俺と俺の家族、それにもう一人が幸せでいれば、それで充分に満足だ。

 まぁ、大丈夫だよ、羊谷。ストーカーも、そんなに大したことはしないだろうさ。

 大人しく、ポリスメンの力に頼るなり、利用できそうな男子を頼ってくれ。

◇ ◇ ◇

 日曜日、比良坂高校が休みということもあり、俺は長時間のコンビニバイトを入れていた。

 もちろん(と言っていいのか分からないが)、氷高も一緒。

 すでに、バイトも手慣れたものでいつも通り仕事をこなしていたのだが……


「やっほ、石井君! 遊びに来ちゃったよん!」


 何か知らんが、羊谷美和が客としてやってきた。


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主人公の幼馴染が、脇役の俺にグイグイくる3の書影
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