錆喰いビスコ2 血迫!超仙力ケルシンハ
0 ②
躍りかかる
体勢を立て直した僧侶のフードが脱げ、中から絹糸のように柔らかな空色の髪が、ふわりと躍った。肌は透き通るように白く、女性と
「あ、あなた……だれなの……!?」
「通りすがりの、お医者さんだよ。通りすがって、よかった!」
一度、にこり! と
「ビスコーッ! やりすぎ! エリンギで逃げるよ!」
「この像の胸から咲かす! 3カウントでいくぞ、3、」
「2、」
ミロは娘を抱えて神像の腕を跳ね飛び、相棒のもとへ着地する。
そして背中合わせに一言、
「「1!」」
と叫んで、ビスコが突き刺した紫色の矢を、二人して思い切り踏み抜いた。
ぼぐん!
神像の胸から斜めに伸び上がったエリンギは、三人の身体を神殿からはるか
もう、それっきり、何も起こらなかった。散々に破壊された神像から、ぼん、ぼん、と断続的にキノコの咲く以外は、まるで今の一幕が幻であったかのような静けさである。
「
「…………。」
逃げ惑う信者に
そこへ……
「天啓、と、言えましょう」
きらびやかな装飾を施した白色のローブを
「……
「お前も見たでしょう。神体の打ち砕かれる様はまさしく、
「滅多な事を申されますな。馬鹿者、お前達がついていながら……!」
教祖の
「ご心配めされますな、たかが、偶像を破壊されただけのこと……さあ、こちらへ」
手を引く教祖に
「……きれい──」
神像を食い破って咲くキノコが、夜に淡く光る様を見て、紫色の瞳を輝かせたのだった。
「きゃあ────っっ!」
娘の悲鳴が放物線を描いて夜の闇に歌う。三人は神殿を見下ろす小高い丘の、そのまっさらな地面に
「……ぷはっ! ありがとう、アクタガワ!」
ミロは言って、自分たちを守った巨大な
「あーあ。ビスコ、派手にやりすぎだよ! 神像まるごと、ぶっ飛ばしちゃうなんて……」
「けぇッ。子供の腹、
ミロの隣に立って、ビスコが苦々しげに神殿を見下ろす。
「
「……でも、確かに潮時だったかもしれないね。もうあの宗派は抜け殻だよ。不死僧正の手がかりは、残ってないみたいだった」
ミロは言いながら振り返り、アクタガワの足元で気を失っている、少女のもとへ歩み寄る。未熟な身体を自ら抱きしめるその顔には、真新しい涙の跡が伝っている。
「こいつの身体には、例の
「あっ、こら! 見ちゃだめだよ、けがれなき乙女の身体なんだから!」
「なあにが、ガキの裸ごとき……あっ、てめえはいいのかよ!」
「医者ですから。ほらあっち向いて! しっしっ」
むくれるビスコを背後に、ミロは少女に数本のアンプルを投与していく。恐怖に震えるようだった少女の寝息はやがて穏やかになり、こわばった表情も平穏を取り戻してゆく。
「外傷はないけど、精神的な原因で、萎縮がひどい。よっぽど強力な信仰を植え付けられたんだね。自分の
「魂まで染まりきったわけじゃねえだろう。嫌だ、って言ったからな。助けてとも言った。だからそうしただけだぜ。言われなきゃ放っといた」
「よく言うよ! どっちみち助けたくせに」
「黙ってろ、てめーは!」
アクタガワに飛び乗るビスコを追って、ミロも少女を抱いて
「自分を
「自分を信じりゃいい」
ビスコのこともなげな一言に、ミロはその横顔を見つめる。
「すべからく神は己の内にいる。キノコ守りも、弓の神に祈るけど……念仏を唱えるから、弓が当たるんじゃない。弓を当てるようになることが、神に祈るっていうことだ」
ビスコはそこでふと、
「ビスコってさあ、漢字読めないくせに、そういう哲学はちゃんとしてるんだねえ」
「学は関係ねえだろ! てめえはどう思うんだ、オウ!」
「あっはは! 僕に哲学はいらないよ。ビスコを信じてればいいんだから!」
相棒の無邪気な笑顔にビスコは黙り込み、「けッ」と一言吐き捨てると、勢いこんでアクタガワを一層速く駆り立てた。
夜は終わりを告げ、遠く朝日が