錆喰いビスコ2 血迫!超仙力ケルシンハ
1 ⑤
ビスコの鋭い聴覚でなければ聞き取れないような、弱くか細い
「……る……すなう……きゅるもん……ける……」
ビスコは
己の身体を抱きしめるようにして、ただ延々と、
「ける……きゅるもん……ける……」
その身体はすっかり骨と皮ばかりにやせ細ってはいるのだが、今にも折れそうな頼りない身体に、
(なんだ、この、ジジイは……?)
ビスコは一瞬その異様さに
「おい、
「ける……ける……きゅるもん……くぐのつ……」
「こりゃ駄目だな。ひとまずミロに診せねえと……」
ビスコはもはや意思疎通もままならないその老人の、軽い身体をひょいと背負って、得体の知れないその凄惨な場所を足早に後にするのだった。
「……。残念だけど。ビスコ、この人はもうだめだよ、
「俺の血を使っても、だめか?」
「うん。
眠る老人の身体を触診し、透過スコープでひととおりの内臓機能を確認して、ミロが首を振った。医者として人の死はいくつも経験してきたが、それを救えない無力感は、ミロにとってはいつまでも慣れないものらしい。
「そうか。なら、それはそれでいいさ。少なくとも、死ぬ前に拾えてよかった」
「えっ、でも……もう、この人は、」
「くたばるのは仕方ねえ。誰でも死ぬようにできてんだからな。ただ、死に目に会いたい
「それは……うん、そうかもしれないね……。でも、どうやって探そう? もう、ほとんど時間がない。当てずっぽうじゃ、間に合わないよ」
ミロの言葉に、ビスコはごそごそと自分の
「これって……手形だ!
「そのジジイ、他には何も持ってなかったけど、それだけ大事そうに抱えてた。そんなモン持ってるってことは、出身がそこだってことだろ」
ビスコは言いながら、歩くアクタガワに、先の宿場で大量に
「……ねえ、ビスコ、まさか。この札で、
「丁度よかったじゃねえかよ。俺達だって、
「僕の話、ひとっっつも、聞いてなかったのかよっっ!」
ビスコの首根っこを
「さっきの、山賊の死骸を見なかったの!? どう考えても、宗教組織の仕業だった! ただでさえ治安が悪いそんな連中の
「いまさら正気もクソもあるかよっ、第一、お前の大好きな、人助けのためでもあるじゃねえか! ジジイ一人、家族の元で死なせてやりたくないのかよ!?」
「それはっ、……そうだけど、でもっ……」
「あのなあ。俺だって何も、考えなしで言ってるんじゃない」ビスコはミロの声に痛む右耳を
「そこまで解ってて、どうして!」
「お前がいるからだろ」ビスコはこともなげに、横目でミロと視線を合わせ、答えた。
「俺一人なら行かない。でも、背中にお前が居て、あの街に
「……ええっっ!?」
ビスコがさらりと言ってのけた信頼の一言で、ミロの表情は不意の喜びに真っ赤に燃え上がり、用意していた千の反論を一発で沈黙させてしまった。
「それでも、ここまで言って、どうしてもお前が反対するなら、やめる。どうする、行くか、行かねえのか。俺よりお前のが賢い。お前の決断を信じる」
「……。び、ビスコが……。」
ミロは
「そこまで、言うなら。わかったよ。あ、相棒、なんだから……」
「まあ、ジャビが居りゃ、ジャビでもいいけどな」
「
二人がやかましく騒ぐ間、揺れるアクタガワの
「りん……しゅるき……かるな……」
「りん……しゅるき……かるろ……」
うわごとのように、経を唱え続けていたのだった。