錆喰いビスコ3 都市生命体「東京」
1 ③
「痛い、痛いいっ!! ミロ、ビスコっ! 助けてぇ───っ!!」
「チロル────ッッ!!」
「野郎ッ!!」
寝転びながらもビスコが放った
「転送、準備、完了。東京まで、5、4、……」
「てめえ! チロルに、何をしやがったァッ!」
「急いで……抗体を作らなければ……。『胞子』だ。原因は『胞子』にあった……」
アポロは歩きながらその
後には、散々に都市に食い破られた集落、キノコ守りや、
そして、荒い息をつくチロルだけが残った。
「チロルッッ!! あ、ああっ、そんなっ!!」
ビスコは相棒の悲痛な声を聞いてそちらへ駆け寄り、ミロの肩越しに、チロルのその
アポロの
「チロル、どうして! 隠れててって、言ったのに!」
「あははは……ほんとだよ。あんたらの毒が……
「
「もう打ってるっっ! でもだめだ、侵食が止まらない……!」
「あはは、これ、で……おしまいかあ。しょーもない、人生……げほぉっ、げほっ!」
チロルがミロの胸に
「げほっ。でも、あ、あたし。た、楽し、かった。最後に、あんたたちに、会えて……」
「諦めちゃだめだよっっ! 絶対、僕が助けるから!」
「じ、地獄、で……待ってる、から。ちゃんと、来てよ? ミロ、
「そんな……嫌だよ、死なないで、チロルッッ!!」
涙の粒を散らして叫ぶミロの声に、呼応するように。
突如ミロの全身から、緑色の胞子が、ぶわり! と噴き上がった。
(チロルを、助けて!)
宿主の強力な一念に焼き焦がされるように、胞子は沸き立ち、その色を炎のように変え。
硬く眼を閉じたミロの眼前に凝固し、小さな太陽を形作ってゆく。
「……な、何の光だ、こりゃ……!? ミロ、おいミロ、起きろ!」
「ビスコ! チロルが、チロルが……」
「バカ野郎、しっかりしろ! 目の前のそれ、
ミロが、相棒の言葉にわずかに落ち着きを取り戻し、ゆっくり眼を開けば……
普段の真言のものとは違う、眩い真紅のキューブが、そこに
「な……なに、これっっ??」
その輝きに、思わずミロが眼を細める。発現させた本人にも覚えのない真紅のキューブは、チロルの様子を伺うようにふわりと周囲を旋回し、やおらその半開きの唇に触れると……
しゅぽんっ! と間抜けな音を立てて、その体内に入り込んでしまった。
「!? んんおおお!?」
「うわ───っ! な、何してんの!? 言うこときいて!」
真紅のキューブは宿主であるはずのミロの制止も聞かず、喉を押さえて暴れるチロルの全身を駆け巡って、
「あッ、ちょッ、いやッ、そんなこと……そ、そこは、肺!? ちょっ! こいつ、お、乙女の内臓を……ぎゃはははは! くすぐったい~~~っっ!!」
「
「ちょっと待て。見てみろ、チロルの
緑色の光はチロルの半身を覆っていたミニチュアの都市を
「見てビスコ、チロルの
「……釣りあげた魚みてえだ。それだけ元気なら、まだ死なねえだろ」
「この状況で、よくそんなこと言えるね!!」
チロルはしばらくその
「シティ・メイカー、94%イレース完了。正常動作範囲内。本デバイスの生命活動維持のため、シティ・メイカー管理者の削除まで本デバイスに残留する」
チロルが無表情でいきなり訳のわからないことを
「……まだミロから出る予定はなかったのだが、あれほど強く念じられれば
「……おい。どうした、チロル。どっか、まだおかしいのか?」
「いや、すっかり平気だとも。いつも通りだ」
「いつも通り、って、お前……」
すっかり元の白い肌を取り戻したくらげ髪の少女からはしかし、いつもの
さらにその眉間の少し上、額の中央には、何か
「……変わったところがあるかい? だとしても、多感な時期の女子の容姿なんて、そんなものだよ。ちょっと目を離した間に、別人に見えたりするものさ」
「一瞬も離してねえけど」
「長い付き合いなのに。信用できないのか、ビスコ」チロルは真っ赤な両目を見開いてビスコと向かい合い、
「うわァッ、わかったわかった! そこまで言わなくていいっ!」
「ね、ねえチロル、本当にあの侵食は止まったの? もうどこも、痛くない?」
「もちろんだ! まだ内部に多少の因子を残しているが体表上の都市はすべてイレースしたからね。ここも無事だし、ここも……」
チロルは少年たちの前で服をぽいぽい脱ぎ出し、しまいには下着に手をかけたあたりで、突然右手で思い切り自らの顔面を張った。吹っ飛んだチロルは地面にすっ転び、
「こ、この子、内側からぼくを動かして……すごい意志力だ。……えっ? 脱ぐときはお金を取れって? そ、それは、どういう」
「チロル!! 誰と話してるの!? 本当にどうしちゃったんだよ!」
「見たとこ、
タイミングを見計らったように、ずどん! と空から飛び下りて大地を揺らすアクタガワに、少年たちが飛び乗る。ビスコが手を貸すまでもなく、赤い目のチロルはぴょんぴょん跳ねてミロの背中にしがみつく。
「よし。ビスコ、行こう! チロルを治さなきゃ」
「……チロル。さっきの話はほんとか? 昔の男へのあてつけで、その髪型にしてるって」
「そうだよ。記憶領域に、そう書いて……」
チロルはそこまで言って、またもや突然自分の手で自分の頰をはたき、鼻血を伝わせながら、いかにも痛そうにビスコへ答えた。
「……い、いや。さっきのは、聞かなかったことにしてくれ……髪がくらげなのは、くらげ商店の覚えがいいから、だそうだ……」
「もともと、そういう話だったよね??」
「いよいよ変だぜこいつ。アクタガワ、長老んとこへ急ごう!」
アクタガワは、仕留めた一体の白人形の