錆喰いビスコ3 都市生命体「東京」

2 ③

『しょうがないよ。チロル、ちょくちょく自分で自分をひっぱたいてるし。かわいそうで見てられない……はやく治してあげないと』


 ぶつぶつ言う少年達の間で、チロルは(助かったよ!)の意をアムリィにウインクで示す。


『ぼくからは以上だ! すぐにそちらへ行く。そろそろ衛星にはじかれそうだ、これで……』

「か、開祖様、ひとつ、おねがいが!」

『あと一分ない、急いで言ってくれ!』

「そ、その……いま、開祖様が、お入りになっておりましゅのは」


 綿毛のもこもこだいそうじようは、上目でうかがうようにチロルを見て、続ける。


「わちの……ひひ孫の、身体からだでございましゅ。不信心の不良娘ながら、心根は、大変に優しい娘でございましゅ。なにとぞ、おてやわらかに……お優しく、扱っていただきましゅよう、お願いをいたしましゅ」

『うん、知っている、心配無用だ。おおちやがまくん、次のそうじようはこの子がいいよ。なにしろすごい意志力だ、ぼくの支配を破って……った!』べしん! と自分をはたいて、チロルは顔をゆがめる。『たまにこうやって抗議してくる。あっ、もう切れる。パウー! あとは頼』


 ぶつん、と突然映像が途切れて、後には砂嵐が延々と流れるのみとなった。会談室は騒然となり、今の一幕に対してそこらじゅうで議論が紛糾している。


「……どう思われます、ジャビ殿?」

「いろいろ疑問はあるが、ビスコが日本一つええ生きモンなのは確かじゃ。あやつがいみはまに着くまでこたえろというのも、なるほど道理かもしれんの」ジャビは砂嵐を見つめながら、それでも楽しそうにひげを摘んだ。「しかし、それを、このくせものどもに納得させるのは……ヒョホホ! ちぃっと骨がおれそうじゃのォ」

「……後は頼む、だって? 全く、無茶苦茶言ってくれる!」


 パウーは、眼前で議論に沸き立つ会談室をどう収めたものかとあれこれ思案しながら、くろかわの持っていた頭痛薬を一錠口に放り、前知事の苦労に少しだけ思いをせたりした。



刊行シリーズ

錆喰いビスコ10 約束の書影
錆喰いビスコ9 我の星、梵の星の書影
錆喰いビスコ8 神子煌誕!うなれ斉天大菌姫の書影
錆喰いビスコ7 瞬火剣・猫の爪の書影
錆喰いビスコ6 奇跡のファイナルカットの書影
錆喰いビスコ5 大海獣北海道、食陸すの書影
錆喰いビスコ4 業花の帝冠、花束の剣の書影
錆喰いビスコ3 都市生命体「東京」の書影
錆喰いビスコ2 血迫!超仙力ケルシンハの書影
錆喰いビスコの書影