錆喰いビスコ3 都市生命体「東京」

3 ②

 ミロの言葉の終わりを待たず、二人の弓がひらめいて、無数の矢をアクタガワの後ろ、通り過ぎた橋の床板に放った。ぼん、ぼん、ぼん! と、黄色いすなぼこりを巻き上げて、ビスコの砂エノキと、何やら黒色の粘ついたキノコが咲いてゆく。

はしい》は、ビスコの矢による迎撃がなくなったことでいよいよ勢いを増し、自らが放ったクルマウオさえくだきながら、すさまじい勢いでアクタガワへ肉薄してきた。

 二人が全力で弓を放ちはじめ、づなをとるものがいなくなったアクタガワは、《はしい》の放る障害物をけきれずに、とうとうれきに正面からぶつかって前方に撥ね転び、くらの上の三人を地面に投げ出してしまう。


「うわああっっ! ば、万事休すだ……!」


 地表すれすれでミロに受け止められた赤チロルは、今まさに自分たちをくだこうとする《はしい》の威容を頭上に見て、思わず目をつむった。


「……?? ん? あれっ?」

「なるほどな。食い意地の張ったやつが相手なら、その口を閉じちまおうってことか」

「こいつが機械じかけだから思いついたけど、くいったね。砂エノキとタールマッシュを混ぜ合わせたら、どんな歯車も動かなくなる」


 少年二人の落ち着き払った声に、赤チロルはおそるおそる目を開いて、《はしい》を見上げる。見れば《はしい》の巨大な粉砕機は、今や真っ黒なきようねんせいのものでべっとりと覆われ、ぎぢぎぢぎぢ、と悲鳴のような音を上げてきしみ続けている。


「こ……これは! 粘性のキノコで、こいつを止めたのか!」

「ヒレで殴ってくるぞ! アクタガワ、急げ!」


 最大の武器を封じられた《はしい》は、自らの巨大なヒレを振り上げて、眼前の三人と一匹へ襲い掛かる。すんでのところでアクタガワに飛び乗り、それをかわした一行の後ろで、橋桁が盛大に砕け、そこらにれきらした。


「「しィッ!」」


 少年二人の、背中合わせに放ったカエンタケの矢が《はしい》の身体からだに突き刺さる。ぼん! と炎をまとって咲いたカエンタケは砂混じりの黒い粘液に次々に延焼し、巨大な《はしい》の身体からだまたたれんほのおで包み込んだ。


『ぎゅううおおおおおお』


 断末魔の声を上げる《はしい》は、『通行止』の表示を激しく点滅させて激しくもがいた。クルマウオ達も同じく炎に包まれ、激しくのたうちながら次々と橋を飛び下りてゆく。


「ビスコ、ミロ! 火勢が強すぎる、橋も燃え落ちるぞ!」

「やべえ」

「やべえ、じゃないでしょ。ほんと加減きかないよね、ビスコってえ」


 勢いを増して走るアクタガワの後ろで巨大な橋は炎に包まれて崩落してゆき、そこでとうとう、巨大な《はしい》の身体からだも海中にたたとされて、付近一帯に水の飛沫しぶきを振りまいた。


「やあ。見事だったな、ビスコ! とつの機転で、あんな怪物を仕留めてのけるなんて……やはりきみは人類最高の戦士、いや、人間の明日といってもいい!」

「……お前、かれてから素直になったな。おい、もっと言え」

「何にやにやしてんだよお。作戦を思いついたのは、僕だよ!」


 ミロの不満げな声にかぶせるようにして、アクタガワが がうん、がうん! とおおばさみを振る。


「うわっ! ご、ごめん、走ったのは、アクタガワだよね……!」


 やかましく騒ぐ一行は、先のの危機などもうすっかり思い出にしてしまって、一路いみはまへ向け急ぐのであった。

刊行シリーズ

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