錆喰いビスコ4 業花の帝冠、花束の剣
1 ③
「じっとしてて。今、麻酔が効いてる。僕は
「でもっ、そっ、それどころじゃ……!」
「大丈夫。この円の中にいれば、絶対に、きみには傷ひとつつかない」
蜂の巣をつついたようなその
シシにとってしてみれば生きた心地のしない光景だったが、次第にその目は、看守を相手取って暴れまわる、炎の戦士の戦いっぷりに魅せられていく。
強くしなやかな筋肉から繰り出される、大迫力の体術。一瞬遅れれば首が飛ぶ斬撃をこともなげにいなす、
(……この、赤い人は……何だ!? 強い! 強くて……
「胸が裂けてる……ひどい傷だ。縫うよ、痛かったら言って」
「…………。」
痛みも忘れるほど、相棒の戦いぶりに見入る少女を見てミロは
「ビスコ! 応急処置おわり、もう大丈夫……」
言いながら振り返るミロの眼前に、すっ飛ばされた勢いで外れた看守の仮面が、くるくると回りながら飛んできた。
ミロの手が、それを振り払おうとする寸前、
ばすんっっ!
「わお」
「おい! 今、触ったか!?」
「えっ? なにが!?」
「それに触ったのか。円の中に、何か入ったか聞いてんだ!!」
群がる看守を蹴散らしながら、くそ真面目にそんなことを聞いてくる相棒にミロは笑い、自身も背中からエメラルドの弓を引き抜いた。
「だいじょぶ触ってない! 任務クリア、ビスコの勝ち」
「……? 俺の勝ち? ……ふうん。それならいい」
あまり事情を理解しないまま、満足げに
「やりすぎ~。あのさ、注文しといて悪いけど、もう少し手加減できないの?」
「一人も殺してねえ。平和的にやりてえなら、ハナからそのガキを渡しゃいい」
「
「今、関係あるかそれが、コラァッ!」
下らない
「き、きししし……あれだけの手駒を、まるで子供あつかいだ。聞きしにまさる大悪党。まだ、ガキのくせに、どうやったらあんな、バカ力……」
「言ってる場合か、
「お前のせいだ、バカ! とっくに増援は呼んでる。五倍の数で囲めば、
メパオシャの言葉通り、もはやその収容施設の周りを埋め尽くすように、黒ローブの看守達が押し寄せてきていた。
「もう、捕らえようと思うな。殺せ、殺しちゃえ!」
メパオシャの指図に合わせ、看守達は刀を振りかざしてビスコたちに襲いかかってくる。
「いよいよ、本腰を入れてきたね」
「これぐらいで丁度いい。おい、もっかい円を描け。さっきのは簡単すぎた」
「バカ言ってないで、逃げるよ!」
ミロはきらめくような空色の髪を揺らし、床に敷いた白いコートを蹴って宙に放ると、
ばふん、ばふん!
瞬時に咲き誇った黄土色のキノコから、何やら刺激臭のする黄色い胞子が爆発するように飛び散り、看守達を覆った。
「うわあ──っ、
全身を襲う、クスグリダケの猛烈な
「この子を安全なところまで連れていく。行こう、ビスコ!」
「お前さっき、キノコ禁止とか言ってなかったか!?」
「僕はいいの。加減がわかってるから」
ミロが天井に向けて
「あーっ。逃がすな、
「はッ! 数をたのんで、キノコ守りが捕まえられるかよ」
背後に響くゴピスの怒声に、ビスコが笑う。二人のキノコ守りの
「しかし、妙な邪魔が入ったぜ。あそこに、福岡のキノコ守りがいたかもしれねえのに」
「仕方ないよ。この子、すごい
今は麻酔がすっかり効き、眼を閉じて眠る少女の寝息を背中に受けて、ミロが
「あの女看守、
「ひどい
「えっ? あ、まあ。そうだな」
「んっ。何か他のこと言おうとしてた?」
「いや、単に……そのガキ根性あるな、と思って」
キノコ守り二人は、そのままぴょんぴょんと屋根から屋根へ跳ね、黒い海のように大挙していた