錆喰いビスコ4 業花の帝冠、花束の剣

2 ②

 聞きとるのも一苦労な老婆の涙声に、パウーが「ううん?」とうなった。


「どうにも要領を得ないな。無理もないか……ひどく混乱している」

「うん。でも、連れていかれたってことは、殺されなかったってことだよな。おい、ばあさん、深呼吸だ……1、2、そう。落ち着いて思い出してくれ。わかしゆうどもが、どこへ連れていかれたか、知りたい。あんた、何かわかるか?」


 老婆はビスコの腕の中で言う通りに息をつき、ゆっくりと呼吸を落ち着けて……時折、恐ろしい記憶にびくりとすくがりながら、なんとか言葉を吐き出した。


「り、りくどうりくどうだあ。青鬼が言ってた。りくどうりんへぶちこむって、そう言ってたよう」

「おい! そりゃ結局、殺されたってことじゃ……」

「ビスコ」パウーがビスコの肩をたたき、首を振る。「心当たりがある。おそらく、りくどうしゆうごくのことを言っているのだと思う。南は県にある、巨大なろうごく施設のことだ」

「監獄ぅ?」

「うむ。ならず者のキノコ守りをまとめて連れていくとすれば、の監獄以外にありえんだろう。どこかの秘密警察が何らかの新兵器を用いて、キノコ守りを一斉検挙した……などという筋書きも、不自然な話ではないぞ」

「……ふうん。なるほど?」


 ビスコは少し考えて、パウーの言葉にうなずき、老婆を背中に背負しよって立ち上がった。


「だとすりゃあ、立て続けに別の集落が襲われる可能性があるな。アクタガワにひとっ走りしてきてもらおう。このばあさんを運びがてら……四国のキノコ守りに警告する」

「我々は、へ向かうのだな。いちごうのことはいいのか?」

「同族を助けるのが先だ。ミロ! 行くぞ!」


 二人からやや離れて、じっと桜の様子を見守っていたミロは、相棒の声に振り返って「いまいく──っ!」と返事を返す。

 そしてその場に見切りをつけてきびすを返そうとし、ふと……

 先ほど老婆が地面に咲かせたシメジ達に、次々と桜の花びらが群がっていくのを目撃した。ものの数十秒とたたずにシメジからは木の枝が生え、小さな桜の木へと形を変えてゆく。


「…………っ。」


 眉をしかめるミロの背筋に、わずかに寒いものが走る。


『キノコを、食っちまうのよォォ』


 老婆のえつが、思考の中で反響する。ミロはその中から、何かヒントを拾い上げようとして……ひとつ息をついてその場は諦め、相棒と姉を追って走ってゆくのだった。



刊行シリーズ

錆喰いビスコ10 約束の書影
錆喰いビスコ9 我の星、梵の星の書影
錆喰いビスコ8 神子煌誕!うなれ斉天大菌姫の書影
錆喰いビスコ7 瞬火剣・猫の爪の書影
錆喰いビスコ6 奇跡のファイナルカットの書影
錆喰いビスコ5 大海獣北海道、食陸すの書影
錆喰いビスコ4 業花の帝冠、花束の剣の書影
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