錆喰いビスコ4 業花の帝冠、花束の剣
3 ③
「ミロ。今更なようだが、シシは人間ではないな」
「うん」ミロは
『
今ほど日本が形を整えていなかった、まさに復興
その気性はおとなしく調整されており、本能的に人間に服従を義務づけられた作りになっている。体内に植物の遺伝子を持ち、光合成によって少ない食事で働けることから、人足不足の日本中に広く流通し、かつては多くの県で奴隷として重用された。
しかし復興が進み、だんだんと工事用の重機などが充実してくると、筋骨隆々だが思考能力に劣る
「そこから
「ミロ。シシが戻ってくる」
「っあ、ご、ごめん……」
「ミロ、パウー! これ見て!」シシの喜色にあふれた声が、
「ほら、骨付きの肉がこんなに。兄上が
「また、ビスコが善良な市民に脅しをかけたなー。駄目だって言ってんじゃん!」
「
「ビスコのその眼で、相手を見つめるってこと自体が……!」
「やっぱり、兄上は、すごい」
シシの
「王の器を持つ者は、言葉なしで相手を動かす。父上の言葉です。ひいてはそれが、無用な剣を抜かせないことに
「こいつの
(無用な剣を抜いているのは、ビスコの方だよ!)
ミロはビスコが投げ渡すその羊肉を受け取ると、得意げなビスコの目の前で、不服満面にそれをむしゃりと
「それで、シシ。お前、この後はどうするつもりだ? 何か、あてがあるのか」
「この後……?」
「お前の家族や、世話人がいれば、そこへ届ける。……家族が、いればの話だが」
「……家族は、いるよ。一人だけ……」
「ほう」意外そうな顔で、パウーは
「……あそこ」
シシが指差したのは、窓の向こう……殺風景な街並みの中に黒々とそびえ立つ、巨大な地獄の門であった。
「あそこ……って、シシ、あれは……!」
「
シシはやや硬い羊肉をぺろりと平らげて、その黒い門を
「おれ一人がおめおめ生き残ったところで、意味はない。他の
「
「シシ。お前の振る舞いを見る限りだが」
ミロの言葉を遮って、パウーがシシに尋ねる。
「お前のお父上というのは、ひょっとしたら、名のある人物なのではないか?」
「おれたち
シシは少し得意げになって、その表情をゆるめた。
「
シシは耳の
「おれの、大事な父上。偉大な王、
「シシのお父さんが、
「そんな気はした。奴隷として造られた
パウーの言葉の先を予見して、シシの表情が曇る。
「つい先日、死刑執行予定のリストに名前が挙がったばかりだ。獄中生活で乱心し、周囲の看守を斬り殺し……処刑場に
「……それは、あの、ゴピスがでっちあげた、デタラメだ!」
ぎり、と奥歯を
「外道の女め。あいつは、父上があいつに屈しないから、罪をでっちあげて、殺そうとしてる。
怒りに震えるシシの声に、ミロもパウーも声をかけかね、黙り込んでしまう。
「……おれは、父上の処刑を取り消してもらうように、あいつに必死で頼み込んだ。そして、何度も
「死体焼却炉から奇跡の脱獄を果たし、今に至る、というわけか」
パウーは絞り出すようなシシの言葉に顎を押さえ、思考を巡らせている。
「パウー。何か手はある?」
「ふむ。ホウセンほど注目されている囚人を政治力で釈放しようとするのは、悪手だ。
パウーはシシを安心させるように、一度笑ってみせた。
「副獄長ゴピスは、
シシの目を見据え、その手を握るパウー。シシの緊張が、わずかに
「サタハバキ氏は日本中から引っ張りだこの
「おれと一緒に、父上を助けてくれるの!?」
「なァにを勝手に、話を進めてんだ、てめえらは」
店主から追加で
「情にほだされて、脇道に
ビスコの言葉に、シシが悲しそうに目を伏せる。
「でも、ビスコ! いずれにしろ、サタハバキさんに会えれば……」
「どーしてもこのガキを助けたきゃ、勝手にしろよな。俺は一人で動く」
「もう! 最後まで、話を聞けよっ!」
相棒をなんとか言いくるめる算段をつけはじめるミロの眼に、思わず前のめりになるような映像が飛び込んできた。
「……ビスコ。ビスコ、あれ見て、テレビ!」
「興味ねえよ! 相撲なんか。どうせまた
「もうニュースに変わってる! いいからテレビ見て!」
ミロの慌てぶりにビスコがしぶしぶ振り返り、食堂に備え付けのテレビに視線を移すと……
『大相撲の途中ですが、緊急速報です。長らく全国を出張で回っていた