錆喰いビスコ5 大海獣北海道、食陸す
1 ③
「やっぱり、チロルのドローンがなくなったのは痛いよ。この猛吹雪の
「……いや、ミロ。どうやら、こっち側から探す必要はないらしい」
「ええっ?」
「向こうのほうが、お待ちかねだったようだぜ」
ビスコはそこまで言って
その、視線の先から……
ざっ、ざっ、ざっ。と、厚い雪をかきわけて、数人の人影がビスコたちの前に姿を現す。
その先頭には、紫の鮮やかな髪と豪華なガウンを吹雪に躍らせて、ビスコとミロを見つめる少女の姿があった。
「「シシッッ!!」」
少女……今や
その様子はミロをして、
(これが……あの、シシなのか……!)
そう思わせるような、冷たさと威厳を併せ持っていた。
「迎えに来たぜ、シシ。俺にトドメを刺さなかったのは、失敗だったな!」
ビスコはミロの背中からぴょんと跳び上がり、雪上にすとんと降り立って、背中の弓を引き抜いた。その
「てめえをブチのめして、もとの
吹雪の
シシの唇が僅かに開いて白い息を吐き出せば、その片手に瞬時に深緑のツタが寄り集まり、一振りの剣となって太陽の色に輝いた。
(ま、まさか、ここで始める気!? だめだ、今のビスコじゃかないっこない!)
ミロがビスコを守ろうとその前に出た瞬間、一方のシシ側からも、巨大な人影がシシをかばうように前面に歩み出た。
その巨大な人影の姿形を認めて、ミロと、戦意に燃え立っていたビスコからも、同時に叫び声が出る。
「あ、あの人は……」
「サタハバキっ!!?」
トレードマークの青い
ただ、決定的に違うのは、砕けた
「おい、コラァッ、法務官! 後ろのそいつは大罪人だぞ。何を肩入れしてんだァッ!」
「ビスコ、だめだ! 法務官は操られてる……今は、シシの手駒なんだ!」
サタハバキはビスコの言葉など届かぬ風で、何事かシシの耳に
「シシ! てめえ、逃げる気か!!」
「ぬぅんッッ」
シシを追い掛けようと駆け出すビスコの前に、サタハバキの巨体が立ちはだかる。サタハバキはその丸太のような両腕を振りかぶると、雪原へ向けて思い切り振り下ろした。
「げぇっ。こいつ!」
「ビスコ、下がって!」
「ぬぅおおおおあッッ」
ばっ、がぁぁぁんっっ!!
大地をへし割る
「地割れを……足止めのつもりかっ!」
「ビスコ、落ちるよ! 僕に
近くに生えていた木にアンカー矢を巻きつけてこらえるミロの一方で、ビスコは
「眼中にねえとでも、言いてえのか……この、俺をッッ! 畜生、
「ビスコ! シシに加えて法務官が相手じゃ、どっちにしろ子供の
「
ミロはビスコのその、どうあっても萎えない戦意にあてられて、思わず
「まだこれぐらいの地割れなら、跳び越えられる。後を追うぞ、ミロ!」
「ええっっ!?」
「もたもたしてっと、置いてくからな!」
雪崩がおさまってきたのを見計らって、ビスコはミロの手をすりぬけて素早く駆けだすと、美しいフォームで弓を引き絞り、ぼぐんっっ! とエリンギの勢いで跳び上がった。
(そうだ。ビスコは、いついかなる状況からでも、キノコみたいに伸び上がってきた……今回だって、きっとビスコは乗り越える!)
ミロは臆病になっていた自分の思考を切り替えてビスコを追い、
ビスコは
「 ミ ロ ~ 」
「ええっ、ビスコ!?」
「 届 か ね え え ~ ~ っ 」
そのまま、地割れの対岸の手前で、はるか地底の暗黒へ吸い込まれていってしまった。
ビスコは完全にいつもの手癖でエリンギを撃ったのだが、子供の
少しの間、ぽかん、と、谷底に吸い込まれてゆく相棒を見つめて……
「……ち、ちょっと───っっ!! 信じたそばから───っっ!!」
ミロは途端に血相を変えて地割れを
「うーむ。しくじったな。大丈夫だミロ、もうわかった。次は跳べる!」
「もうないよ! 次なんかぁぁ──っっ!!」
ミロは落下しながら自分とビスコの周りに