錆喰いビスコ5 大海獣北海道、食陸す

2 ③

「まずい」舌から口の中を見渡して、ビスコが舌打ちした。「唾液がどんどん上がってくるな。骨も残らねえで、海獣の栄養になるのは御免だぞ」


 ミロはビスコの言葉と現在の状況を合わせて思案し、背後を振り向いた。倒れた舌の奥には、はるか遠方まで続く、長大な肉のトンネルが口を開けている。

 ミロは意を決したようにうなずき、ビスコに向かって声をかけた。


「よし。行こう、ビスコ!」

「行くって、お前、どこへ行こうってんだ!?」

「食道だよ。あるいは、もっと奥のほう」


 ミロはしれっとそう言って、ビスコの手を引き、舌の付け根へ向けてぴょんぴょんと跳ね跳んでいく。ビスコは目をぱちくりさせて後を追いながら、ある意味では当然の疑問をミロに向かって投げかける。


「食道、ってお前……!? なんでわざわざ、きよだいかいじゆうの中にまれに行くんだよ! 上から落ちてきたんだから、上へ戻ってシシを追うのがスジじゃないのか!?」

「それだと後手に回るよ、ビスコ。将を射んとすればまず馬から、って言うでしょ」

「? 言わん。キノコ守りは将から撃つ」

「とにかく!」ミロは出鼻をくじかれつつも、気を取り直して言う。「シシを倒すより先に、まずほつかいどうの動きを止めようってこと。そうすればシシ達のもくも当てが外れて、僕らが付け入る隙ができるかもしれない」

「そうは言ってもお前! こんな、得体の知れない内臓の中を……!」

「得体の知れない、とおつしやいましたね」ミロはビスコの手を引きながら振り返り、さも愉快そうにくすくすと笑った。「大丈夫。きみの相棒は、ただのキノコ守りじゃない……いみはまの誇る、パンダ大先生なんだから! 動物の身体からだのことは、まかせときなって!」

「お、おおっ」ビスコはそこで、久々に相棒が医者であったことを思い出し、男の子の純粋なをきらきらと輝かせた。「すごいなミロ! だいかいじゆうの内臓も、診たことあるのか!?」

「ないけど? ま、生き物には違いないんだから、大体いっしょでしょ」

「そこは適当なのかお前この野郎───ッッ!」


 少年二人はそんなことを言い合いながら、ほつかいどうの巨大な口中をくぐけ……広大なその体内へ、知恵と勇気を武器に飛び込んでゆくのだった。



刊行シリーズ

錆喰いビスコ10 約束の書影
錆喰いビスコ9 我の星、梵の星の書影
錆喰いビスコ8 神子煌誕!うなれ斉天大菌姫の書影
錆喰いビスコ7 瞬火剣・猫の爪の書影
錆喰いビスコ6 奇跡のファイナルカットの書影
錆喰いビスコ5 大海獣北海道、食陸すの書影
錆喰いビスコ4 業花の帝冠、花束の剣の書影
錆喰いビスコ3 都市生命体「東京」の書影
錆喰いビスコ2 血迫!超仙力ケルシンハの書影
錆喰いビスコの書影