錆喰いビスコ5 大海獣北海道、食陸す
3 ①
赤黒く脈打つ、巨大な洞穴であった。
皮膚を透かして太い血管のようなものが幾筋も走り、どくんどくんと脈打つたびに周囲を明るく照らすため、
その光景を不思議たらしめる、その最たるものが……
空中をふよふよと無数に漂う、奇妙な白い球状のものであった。
「見て!! これは、血球だよ、ビスコ!!」
大小さまざまなその「ふよふよ」のひとつをつかみとって、ミロは大興奮でそれを見つめ、抱き着き、
「
「パンダ大先生におかれましては、研究熱心で結構なことだがよぉ」
一方のビスコは、とにかく見慣れない不思議な景色に終始
「さっさとコトを済ませて、早く出ようぜ、こんなとこ。いつ何が出るかわかったもんじゃねえ! 第一ちゃんとあるんだろうな、その、
「生命の神秘の真っただ中にいるのに、
ミロはなんだか間延びしたような事を言って、何やら得意げに、
「……し、しんぞう。はい。せぼね……けん……けん? けんぞう」
「腎臓ね。体内の内部組織とかから判断するにこの
ミロはかじりつくように解剖図を
「ここが、食道のライン。今僕らが歩いてるところだけど、これはどこかで必ず呼吸器系につながってて、そこから脳幹と接続するはずなんだ。ほとんどの生物兵器は脳幹に神経制御ピンを刺して動かすから、それを引っこ抜いてやれば、
「……ほんとかぁ~~っ!? だってこれ、お前の推測の図なんだろ!?」
「パンダ先生を信じなさいって。あっっ! また血球っっ!!」
手頃な高さに血球を見つけ、ぼふん! と飛びつくミロを見て、ビスコは時折見せるこのミロの天然っぷりに
ふと、その時……
ビスコの視線が、はるか前方から走ってくる、小さな人影を捉えた。目を細めてそれを追っていると、何やら人影の後ろから、無数の白いものがうじゃうじゃと湧いてくるのが見える。
白いうじゃうじゃどもは、明らかに攻撃か排除の意志を持って、人影に襲い掛かっているようであった。
「ミロ……ミロ、おいっ!」
「んあ?」
「人がいるぞ! ありゃ、まだガキだ……何かに襲われてる!!」
「! 人が……こんなところに、どうして!?」
「俺が知るかよッ! とにかく助ける!」
ビスコとミロは顔を見合わせると、それぞれが空中の血球を「ぼんっ!」と蹴って加速をつけ、駆けてくる前方の人影目掛けて跳び急いだ。
「きゃああっ!」
哀れ人影は、地面に生えていた
「きゃああああ────っっ!!」
ずばんっっ!!
白いものの牙がその少女にかかる寸前、カッ飛んできたビスコの矢がその脳天を捉え、はるか向こうへその白いものを
壁に縫い
「ああ、あ……?」
状況を理解しかねる少女の声に、
「ボサっとするな! 立て、走れッッ!」
ビスコの
「ビスコ! あのシロクマ、次々湧いてくる!」
「まずいぞ、後ろからも来る……挟み撃ちにされる!」
キノコの
「やりすごそう、ビスコ! ケムリダケはどう!?」
「ケムリじゃだめだ! あいつら
ビスコは矢筒から
ぼうんっっ!!
「きゃあああっっ!?」
キノコの発芽の勢いで跳ね跳んでくる少女を、ビスコの
「よーし、もう大丈……のわああっっ!?」
「嫌あっ、死にたくない、死にたくないっっ! 放してぇっ!」
「落ち着け! ヨイドレダケの強いのを咲かせた。息を止めてろ、下手に吸うと、しばらく二日酔いが止まらなくなる!」
「そんなっ……ひいっっ!?」
ビスコに抗議しようとする少女の眼前に、三体の白熊が立ちはだかり、二人に影を落とす。もはや追いつめられ、観念して固く目を
「ひわっっ!?」
(しっ。そいつを良く見てみろ)
ビスコの
(胞子で酔いが回ったんだ。連中が酔っぱらってるうちに、こっからずらかるぞ)
(…………あ、あ……)
(ぼっとするな。歩けるな!?)
(…………!!)
少女は言われるがままにこくこくと
(こいつらは、白毛抗体だね、ビスコ)
(はくもうこうたい?)
(体内に異物が入ってきたときに、それを排除するものだよ。
ビスコの
ばたんっっ!
と、突然少女が食道の床に倒れ込んでしまった。
(!? なんだ、どうしたんだ、おいッ!)
(顔が真っ赤だ。ヨイドレダケの胞子を、ちょっと吸っちゃったみたい)
(仕方ねえ
(だめ! 体格で劣ってるから! 無茶しないで。僕が背負います)
(けぇっ!)
少女の倒れた音で、数匹の白熊がこちらを振り向く。ミロはすばやく少女を抱きかかえて相棒と視線を交わすと、そのまま二人して音を立てずに食道の中を走り抜けていった。
ざああああ……
流れ落ちる清流が、