錆喰いビスコ6 奇跡のファイナルカット
2 ①
『
ちっ、ちっ、ちっ、ぽーん。
『ぽーん』のタイミングでひゅるりと吹き抜けた寒風に、緑色の守衛イミーくんは思わずぶるぶると
「遅っせえなあいつ……どこまで買いに行ったんだよ??」
「せっかくの金曜に、予告なしの残業命令か……なにが友愛の都だ、滅んじまえこんな街」
「せんぱ~~い。買ってきましたあ~~っ」
「おっっ」
手をばたばたと振って駆けてくるのは、後輩の黄色イミーである。
「遅かったな。金足りたか?」
「さ──せん、行きつけ閉まってて。もうガン閉まりで。でも任してください、ギッタギタに
(ギッタギタに……?)
「あ~腹減ったな。先輩もでしょ? ほらそこで食いましょ」
守衛イミーは後輩に促されるまま、兵器工場の搬入門にもたれて腰掛け、ほかほかと温かい湯気を立てる紙袋を二人の間に置いた。後輩の表現の仕方はともかく、確かになんともうまそうな香りが緑の鼻をとろかすように立ち昇ってくる。
「はい先輩、コーヒー」
「おう。飯は何を買ってきたんだ?」
「見てくださいコレ。カバおむすび、カバの刺身、カバ尻尾煮込み、かばあげくん……」
「……お前これカバ肉ばっかりじゃねえか! 胃がもたれるわ!!」
「年寄りくさいこと言ってえ。まあ食ってみてくださいよ、今、
「ほんとかあ~~?」
守衛イミーはなんだか言いくるめられるようにしてカバおむすびを受け取り、まじまじと眺める。合成米に巻かれたカバ肉はなるほど安カバ特有の臭みもなく、いかにも美味そうだ。
「ほんじゃ」
「「いっただっきま~~~……」」
ごがんっっ!!
二人が飯を頰張ろうとしたタイミングで、寄り掛かっていた兵器工場の門に
「あ~~~! おむすび~~!!」
「バカ、早く立て! うわわわ、搬入門が……!!」
ごがん、ごがん、ごがんっっ!!
立て続けに響く
そしてその
ごがしゃぁあんっっ!!
「「う、う、ウワ──────ッッ!?」」
怪力で殴り飛ばされた鋼鉄の扉が中空をスッ飛び、悲鳴を上げて
「あ、あっぶねえ~~っ、死ぬかと……」
「せっ、せせせせ先輩っ、前、前っっ!!」
後輩に言われるがままに、守衛イミーが前を向くと……
そこには、非常灯の明かりにオレンジ色の甲殻を光らせる、巨大な
ばっ、がん!!
【第三兵器工場】と太文字で書かれた壁を、
そして、その背に。
「何を
この暗闇においてなお、ぎらぎらと輝くエメラルドの眼光は……
「ありゃ……ひ、
守衛イミーの悲鳴通り、全国手配の大悪党の代名詞である。
「ようし、
「ひいいええ───っっ!!」
大地を揺らして突き進んでくる
「お食事中、ごめんなさ──い!!」
通り過ぎてゆく、その
「せ、先輩……」
土まみれのイミーくんが、
「なんだ」
「これ、労災下りますよね?」
「たくましい
妙に気の抜けた会話を交わしながら、二人は遠く夜を走り抜ける
「待ち伏せがあるかと思えば、拍子抜けだぜ。矢の一発も撃たないで済んだ」
『ウウ──』と鳴り響く緊急警報に、大型の監視灯がいくつも照らし回る夜の
「うん。やっぱりおかしいよ……あんな露骨な誘い込み方をしておいて、
「
ビスコがそこまで口にした矢先、
『カッ!』と白色のハイビームがアクタガワ目掛け照らされ、
『グ──ッド、ジョブだ、
その白光を照射する巨大な飛行物体が、低い
『ばっちり撮れたぜ。
「言ってるうちにお出ましか!」ビスコは言いながらハイビームに目を細め、わずかに困惑したように言う。「しかし、何だありゃ!? 空飛ぶヒトデみてえな……」
「
オニクロヒトデを巨大化培養、改造したこの浮遊生物は、その外部機構にそれぞれカメラ、照明、音響装置などの撮影機材を備えており、極めて良好な空中制御性も相まって、いかなる瞬間も撮り逃さないようにチューンナップされている。
『静寂を破って、
ヒトデの腹部から下がる鉄のゴンドラの中で、拡声器越しに
『新時代のヒーロー、
「てめえ、何が狙いだ、
アクタガワを疾駆させながら、左前方を飛行するダカラビアに向かい、ビスコが雷鳴のような声を放つ。
「毎度のこと、ねちねち回りくどいんだよッ! さっさと仕掛けてきやがれッ!!」
『あかぼしー。オレの会見、聞いてなかったのかァ? ……おい、ちゃんと脇しめて撮れ』
横でカメラを構えるカメライミーくんの頭を一発
『オレは、この地球で最高の映画を作りたいだけさ……お前を主役にしてな』
「映画、だぁ!?」
『
本当に
『あの時、お前の矢がオレのどてっ腹を貫いて、この世から消し飛ばした瞬間に……』
うっとりと声を
『こいつしかいない。オレのヒーローはこいつだけだ、って、確信したんだ。そして決意した、かならずお前を主役に最高の一本を撮るってな。そこからは大変だった……制作準備のために、生き返って、監獄に潜って、花つけたガキにペコペコして……』
「ビスコ! また僕らを
「
ビスコは頭の痛くなりそうな
「一度死んだ癖によく回る舌だぜ。
『おっ!
「シィッ!!」