錆喰いビスコ6 奇跡のファイナルカット
3 ①
「ウヒョホ──ッ。なんちゅう高さじゃ! 建てモンがアリンコみてえじゃ」
「壮観でしょう? おれたちのサービスの中でも、この峡谷は一番人気なんです。……お客さん、あんま身を乗り出さないで。老体にはこたえる寒さです」
「余計な世話じゃい、客をジジイ扱いしおってよ」
微細な宝石を含んだ特殊な地質により、陽光を反射してぴかぴかと輝くことから、日本でも指折りの美しい景色を楽しめる自然遺産である。
とはいえ、陸路での
そこに目をつけたのが、暇を持て余した
「ははあ。こりゃァ
「そう言ってもらえれば何より! でもお客さん、本番はこれからで……」
「もう辛抱ならん。ワシャ飛び降りるぞ」
「ええっ!?」
のそりとエスカルゴのドアから飛び降りようとする老人を、慌ててスタッフが止める。
「ちょっ、お客さんっ、ちょっと待って! まだ、パラシュートを着けてないよ!」
「なんじゃ、命綱か? そんなモン、着けてても死ぬときゃ死ぬワイ」
「だ、誰か、この
「んぎゅおお~~っっ。放しゃらんかい~~っっ」
老人は三人がかりで降下用のスーツ、パラシュートバッグを装着させられ、不満そうに「ちぇ~っ。身軽に飛びたかったのによ」などと
「やれやれ! 元気のいい
「ええぞい!」
「よーし! じゃあいくぞ、3、」
「ちぇいっ」
ぶわっ! と空の風に豊かな
「2……ええっっ!? な、なんて客だ!」
一瞬
「
「やかましいのォ。楽しんどるんじゃ、邪魔するない!」
「そんなこと言ったって……」
『エスカルゴよりダイブリーダーへ。ヒラサキ隊員、緊急事態だ』
「わかってます! おれだって必死で……」
『じじいの方じゃない! レーダーに兵器反応あり。前方の積乱雲の中に、何か巨大な……うわァッ、なんだあれはっ』
ただごとでないエスカルゴからの通信に、思わず振り返るヒラサキ隊員。
その目の前で……
がしゅんっ! と青紫色の稲妻が
ばぐおんっ、と
「う、うわぁっ……そんな!」ヒラサキ隊員のゴーグルに機体の破片が当たり、びしりと亀裂を走らせる。「え、エスカルゴがやられた!? こんなこと今まで……」
「わ……わああ──っ」
思わず両腕で顔を覆い、なすすべもなく固まる、その後ろから……
ぱしゅん、ぱしゅんっ!
二連の弓矢が空の空気を裂いて飛び、ヒラサキ隊員の耳元をかすめて翼の残骸に突き立つ。直後、ぼぐん、ぼぐんっっ! と
「……無事? ……あれは、キノコ!?」
「ウヒョホホホ! サプライズ込みとは、なかなか気が
「じ、
ぼぐん、ぼぐん、ぼぐんっ!
まるで二人を狙うように降ってきたエスカルゴの破片は、老人の弓とキノコによってその全てを砕かれてしまう。空模様が落ち着いたあたりで、老人はこともなげに弓を
「さ、空の旅の続きを楽しむとしようかい」
「すげえよ、
「うっさいわい! ぷらいべーとを持ち出すな。それよりぱらしゅーとの使い方がわからん。金払っとるんじゃ、ちゃんとお客をなびげーとせんか」
「わ、わかった!」
九死に一生を得たところのヒラサキ隊員は、老人に言われるがまま、降下予定ポイントまでお客様を案内してゆくのであった。
風もなく、満天に星ばかりが輝く、峡谷の夜。
高台に張ったテントの中で、鍋を煮る
ぽこぽこと煮立つ黄土色の汁を
「んぐ。んぐ。プヒャァ」
と、
その
「スカイダイビングとやら、悪くなかったワイ。ウヒョホホ、ガフネの
ジャビは鍋で煮える得体の知れない汁(本人いわく、
「……スカイダイビング……は、達成と。ありゃァ? もう残り少なくなってきたワイ。ちょっと飛ばしすぎたかの……何か足したほうがいいじゃろかなァ」
ジャビはノートにチェックを入れて、そこに記した何らかのリストを
「ンムウ」と
「む!」
テントの外でがしゃっ、と物音が立ち、峡谷の岩場から崩れた岩が谷を転がっていった。周囲には
「飯の時間に何じゃい、礼儀知らずな」
ジャビはぶつぶつと不平を垂れながら弓を持ち出し、テントの外に出る。そして瞬時に気を静水のように保ち、発せられる殺気……意志の波紋をとらえる体勢を整えた。
〈
しかし……
(……何じゃい。何もおらんがな? 人騒がせな)
『た、助けてぇ~~っっ』
「ひょほ?」
肩透かしを食ってテントに戻ろうとしたジャビの背後から、ノイズ交じりの情けない声が呼び掛けてきた。
『も、もうもたねえっ。お、落ちる、落ちるぅっ』
「何じゃ何じゃい。人助けに縁のある日じゃのォ」
ジャビがひょこひょこと崖まで歩き下を
「なんじゃこら??」
『い、居た!
「機械の
『そ、そう? んへへ……じゃなくてっ、こいつは地上型ドローン! 遠隔操作に決まってんでしょ。あんたに会いに来たのっ、お願い、引き上げて!』
「じじいに会いに? 孝行なことじゃワイ。余計な世話じゃが」