錆喰いビスコ6 奇跡のファイナルカット
3 ②
ジャビは岩に
「あっ。しもうた」
何かにぶつかって、がしゃあん! と音を立てる。ジャビがテントに入れば、鍋を頭から
「あ~あ~。なんちゅうことするんじゃ。ワシの晩飯を」
『因果応報だ、ジジイ!』鍋を跳ね飛ばして、チロルドローンが叫んだ。『あの子にしてこの親ありだよまったく。機械はちゃんと、デリケートに扱って!』
「ほいで、用事はなんじゃい」
「……いや、やめじゃやめじゃ。何を言われようと、聞く気はないぞい」
『あんたの息子が、大変なことになってんだよ!!』
チロルドローンは頭部の球形ディスプレイにチロル本人の顔を写し、ノイズ交じりの声で
『嫁を人質に取られてる上に、スポアコの収容所を爆破するって脅されて……
「…………。」
『でも裏を返せば、
「そこでワシに、
『そう! あんた以外いない、欠点は見つけにくいことだけ……。でも、こうして
「やだ」
『…………はぁっ!?』
「い や だ と言うたんじゃィ」
『な、何よ、これ……?』
ドローンのカメラ部分には、なんとも個性的な字で、
【
なるお題目が書かれている。
『終活ノート……へびかわ、あけみ?』
「ジャビは
『呼ぶかボケ!!』
「あと一ヶ月
あまりにこともなげに言うので、チロルはその言葉を聞き逃しかけた。
『あんたねぇっ! 二人が危ないのに、死ぬことぐらいで……えっ、し、死ぬ!?』
「『東京』では散々無理したからの。実際もうとっくに寿命は来とる。今はお手製のビシャモンダケアンプルで、無理やり寿命を延ばしとるのよ」
『そ、そんな……』
「でも、それもぼちぼち飽きて、終わりにしようと思うてな。もうビスコも育てきったし、やることやって、ぐっすり
ジャビに「ほれ」と促され、チロルドローンはおそるおそるページをめくる。
そこには……
【あけみちゃん 終活リスト】
✓戒名をもらう
✓ひとりで
✓未亡人といちゃいちゃする
✓ガフネの顔に落書きする
✓かりあげクン全巻読破
……
『…………。』
「何じゃ、まだまだあるぞ。次のページも見んかい」
『いや、もういいよ。わかった……』
チロルドローンはどこか鎮痛な声で言い、ノートをジャビに返すと、少しの間言葉を迷い、探るように言葉を絞り出した。
『……今のあんたに声かけたなんて知ったら、
「…………。」
言葉に詰まるチロルを前に、ジャビはどこか愉快そうに続きを待っている。
『……でも、だったらせめて一目だけでも、
ジャビは少し間を置いて「ふう」と煙を上に吹き、楽しそうに答えた。
「お前さん、本当にチロルか?」
『……? この期に及んで疑ってんの!?』
「ウヒョホホ、ならええワイ。お前さんにしちゃ、随分情のあること言いよると思ってよ」
『……! う、うるせーよっ、くたばりかけのくせにっっ!』
ジャビの屈託のない笑いからは、この世への未練も何も
『……んじゃ、帰る。……よい終活を、とでも言ったらいいの?』
「気ぃ使うない、らしくねえ。ビスコによ、『バカ』と伝えといてくれ」
『わかった。それじゃ……』
球状になり、コロコロとテントを出ていくチロルドローンを見送って、ジャビはパイプを深く吸い、「コォー」と煙を空に吐き出した。
そして……
「ふぅ~ム。ビスコ、か」
何か思いついたように子供っぽい笑みを浮かべ、
✓スカイダイビング
の横に、何やら新しい項目を書き加えていった。