錆喰いビスコ6 奇跡のファイナルカット
4 ②
「
「やっぱりてめえかァッ、コラァッ」
『オレは撮影の緊張で寝不足だが、役者は気合十分。重畳。シーン2の解説をする』
ダカラビアのゴンドラの中で、
『古来アクション映画にはカーアクションが必須とされている。ダイ・ハードしかり、ミッション・インポッシブルしかり、何を見てもカーチェイスが出てくるんだ。何が面白いのかわからんがとにかく必要なシーンなんだろう……しかしここで困ったことがある。この現代日本にはあんなカーチェイスができる公道がないし、かっこいい車もない、その上お前ら二人は無免許の未成年ときている』
「……なにが言いたいんだ……!?」
『そこでオレは思いついた。カーチェイスの代わりに、大海原でのドッグ・ファイトだ!』
『空飛ぶ
「会うたびべらべらとォッ、うるせえんだ、てめえは──ッッ!」
ビスコが
「無駄だと言っている。全てが力押しではまかり通らんぞ、亭主殿!」
「お前がそれを言うなぁッ」
『ぃよォォ──いッッ』
『ァアクションッッ』
「ビスコ、
「やられっぱなしだ、反撃しなきゃ……でも、どこを撃てばいいの!? 雲の生物兵器なんて、聞いたことないよ!」
「ゴーグルの生体反応を見るに、こいつはテヅルモヅルの化け物らしい」
「テヅルモヅル!? あの、うにょうにょした、触手がいっぱいあるやつ?」
「うん。どういう理屈で、空に浮いてるか知らんが……」
テヅルモヅルやイソギンチャクなど、生物的思考がシンプルな海中生物は、生命力も高く、兵器や工業製品の素体としては重用される傾向にある。
とはいえ、それが浮力をもって雲を
「でも、とにかく中に本体はあるってことだぜ。ゴーグル越しなら、矢は当てられる!」
アクタガワの態勢が整ったのを見計らって、ビスコは三本に束ねた矢を積乱雲の一角目掛けて、ばぎゅんっ! と撃ち込んだ。次の攻撃に向けて電力をため込んでいた浮雲5号の触手にそれらは等間隔で突き立ち、ぼぐぅんっ! と咲いた赤ヒラタケが雲の中から顔を出した。
「やったあ、ヒット!」
狙いを
『ブラーヴォ!! 見たか
「くそッ。やりにくい!」
アクタガワをぐるぐると回るダカラビアを気にしながら、ビスコは深く息を吸い、己の中に眠る
「あの野郎をそうそう喜ばせてたまるか。撮れ高を減らしてやる!」
「決めるんだね、ビスコ!」
「あの黒い雲んとこが中心だ。行けるか!?」
「任せてっ!」
白色の雲の中、
『あれっ。まずいぞ……もう倒しちゃうんじゃないの? 困った。大枚はたいて用意したのに、ここはそこそこ苦戦してもらわないと、この後のシーンと
「監督。私が阻止しましょう」
『バカ言うなお前! ADが映り込む映画があるか!』
「ビスコ、ここなら!」
「ようしッ」
こぉぉぉ、と深い呼吸とともに、ビスコの引き絞る矢がプロミネンスのように赤く輝く。
「
ばぎゅうんッッ!!
空を引き裂く赤い
「仕留めたッ!」
「……いや、ビスコ、まだだっ!」
びしゃん! と走った紫電の
「障壁展開っっ!!」
「ああっ!! アクタガワ!!」
コントロールを失ったアクタガワは黒煙を上げ、きりもみうって空を落ちていく。
「どういうことだ!?
「アクタガワ、しっかりして!! ……ごめん、ちょっと熱いよ!」
ミロは落ちていくアクタガワの上でアンプルサックを
眼前に迫る海面、そこに今まさにアクタガワが墜落する、その寸前に……
ずわり!
と、寸前で意識を取り戻したアクタガワが上方を向き、ごおおおっ、とブースターを全開にして飛び上がった。少年二人は必死で手綱に
「三人でサメの餌になるとこだ。ミロ、何かしたのか?」
「ビシャモンアンプルで気付けをしたんだ。アクタガワと稲妻は、やっぱり相性が悪い……! 次あれに当たったら、やられちゃうよ!」
「手ごたえはあったはずだぜ。俺の矢が、
言葉を交わす二人の眼前で、積乱雲の中から、何か肉片のようなものが
「……そうか。ビスコの矢が甘かったんじゃない。あのテヅルモヅルは、胞子に
「な、何ぃぃ……?」
「我慢比べじゃ、向こうの方が上手だ。なんとかして、あの稲妻を封じないと……」
「うおぉっ、前、ミロ、前!」
顎に手を添え、考える人のモードになったミロに代わって、ビスコが手綱を取って襲い来る稲妻を上下左右にかわす。空中に慣れないビスコが吐き気をもよおしてきたあたりで、ミロが
「あの雲を晴らせばいいんだ! 雲がなきゃ、稲妻は撃てない!」
「雲を、晴らす!? お前はアマテラスか! そんな
「できるっっ! 学校で習った!!」