錆喰いビスコ8 神子煌誕!うなれ斉天大菌姫
1 ②
「……いけない、アクタガワ、ビスコを!」
ミロはすばやく頭を切り替え、相棒の所在を探すため、広がってゆくキャプチャ・ウェーブの中に飛び込んだ。アクタガワはうまく地面に脚を引っ掛けながらかろうじて地表につかまり、族長のゲルのあったところへ
「ビスコ───ッッ!! どこ!? 返事して!」
「ここだあ~~~ッッ」
「ビスコ! 大変だよ、チャイカが……!」
ミロは手綱にしがみつきながら、草むらのビスコの声を見下ろして、
「……なにしてんの?」
「見てのとおりだ」
「あのねえ、遊んでる場合じゃないよ!」
「バカ! 好きでこうなってる訳じゃね──ッッ」
ビスコは。
「どんどん吸い上げる力が増してくる。ひとまずこの光から抜けねえと!」
「うん! お願い、アクタガワ!」
アクタガワは右の
『──新生命発見!』
『未捕獲生物【テツガザミ】 オス個体 ト 確認。』
『推定生命力──』
『──50億8800万ライフラ。
『優先 レスキュー スル。』
「おい、まずいぞ、狙われてる!」
キャプチャ・ウェーブの第二波照射がアクタガワを捉えた。地面に引っ掛けていた脚がとうとう耐え切れず、岩盤ごとめくれあがって宙へ浮いてしまう。
「くそッ、捕まった!」
「奥の手しかない。ビスコ、ちゃんと
「ええっ! またアレか!? くそ、気が乗らねえ──」
「ジェットアクタガワ、スタンバイ! 3、2、1、」
アクタガワの
「点火っ!」
ごうっっ!!
ミロの号令に合わせて、アクタガワに装着された背部バーニアが火を噴いた。本州から北海道に渡ってくるための装備だが、肝要なところで命を救うことになった。
白煙の尾を引いてカッ飛ぶアクタガワは、きりもみ飛行でキャプチャ・ウェーブを振り切り、
空中に滞空し、汗を拭う二人は、しかし……
「ビスコ……!!」
「おい、まじかこりゃ。北海道が……!」
アクタガワごと振り返って、
「「北海道が。丸ごと、吸い上げられてる!!」」
言葉通りの、
かつて九州を
浮遊体も無論規格外の巨大さではあるが、相手は大陸である、そのサイズ差は比べるべくもない。しかし、それにもかかわらず──
渦を巻いた浮遊体の船底は、さながら柔らかい餅でも
相手の大きさなど関係ないらしい。更には、北海道がまったく暴れず、おだやかにその身を吸われるに任せていることも、不可解さに拍車をかける。
「どうしちまったんだ!?
「どういう技術か見当もつかない。でも」ミロはわずかながらも落ち着きを取り戻し、相棒へ呼び掛けた。「今、あれは北海道を吸うのに手いっぱいのはずだよ。完全に吸い上げられる前に、上から強襲をかけよう!」
「わかった!」
ぶおっ! とバーニアを噴き上げ舞い上がるアクタガワ。雲を抜けて上昇していくと、その浮遊体は船底から船腹、やがて甲板を太陽の元へさらけ出す。
「なんだ、こりゃ……!?」
「これは……!」
ミロが眼前の光景を表すべく、己の学歴の中から適切語を引っ張り出す。
「箱舟だ。これはノアの箱舟だよ、ビスコ!」
「はこぶねぇ?」
「神話に出てくる船。ビスコ、神話なら詳しいんじゃないの?」
「アメノトリフネのことか!? こんな化け物のはずが……おい、前ッ!」
ビスコの声に、ミロが慌てて手綱を取る。眼前の巨大な船は、甲板に備えられた対空砲のようなものを一斉にアクタガワへ向け、
ぽん、ぽん、ぽんっ。
と、なんだか間抜けな音の砲弾を一斉に発射してきた。拍子抜けする二人の一方、発射された『大きな泡』のような砲弾は、ゆるりゆるりとアクタガワへ向かってくる。
「なんか間抜けな武器を出してきたぞ」ビスコはずらりと弓を引き抜き、その『泡』へ狙いを定める。「弾は俺が落とす。アクタガワを船に寄せろ!」
「りょうかいっ!」
スピードを上げるアクタガワの上から、ばしゅんっ! とビスコの矢が
ちゅるん。
「……あえっ!?」
そのまま『泡』の中へ吸い込まれて、
ぽん、と中で小さなシメジを咲かせた。撃たれた砲弾はまるでスノードームのようにシメジをキャプチャし、役目を終えたかのように船へ戻ってゆく。
「撃ち抜けねえのはともかく……おかしい、俺のキノコがこんなに大人しいはずが!」
矢をヒラタケに変えて撃つ。
ちゅるん、ぽん。
エリンギの矢も同様、ちゅるん、ぽん。
ビスコの周囲は、すぐさま空中キノコ博物館のような
「なんなんだこの弾は!? おちょくってんのか!?」
「ま、まずいよビスコ。囲まれた!」
はじめは間抜けに緩慢に見えた『泡』の砲弾も、撃ち抜けずにいるうち数が増え、今ではアクタガワの周囲を包囲するまでになっている。
「この泡、生物を捕まえるためのものなんだ! 触ったら僕らも……」
「なんとか突っ切れ! もうすぐ甲板だ!」
「やってみるっ!」
ごうっっ! とジェットを噴かしたアクタガワ目掛け、泡が一斉に襲い掛かる。アクタガワはくるくると
ちゅるん!
「ああっ、脚が!」
とうとう末脚を泡に引っ掛けられ、大きくバランスを崩してしまう。
アクタガワはそのまま空中で制御ままならず、箱舟の甲板に
「くそッ、このッ」
「アクタガワ! 大丈夫!?」
末脚にこびりついた泡を振り払い、ようやく一息ついた二人は、周囲の様子を見渡してごくりと固唾を
箱舟は、一見、神話に
そしてその、最たるものが……
「ビスコ……こ、これ、何だろう?」
「生き物が詰まってるぜ……眠ってるのか……?」
甲板全体に隆々と立ち並ぶ、円筒形のシリンダであった。
その大きさは様々……しかし共通しているのは、いずれもに『生命体』が格納されていること。哺乳類、
その在り様は安らかで、何か目覚めの時を待ち、眠っているような……
そういう
「おい、気味が悪いぜ。この船はなんなんだ!?」
「……ノアの箱舟は……」
ミロが、冷や汗を拭いながら
「あらゆる生命のつがいを集めて、世界の滅びから逃がした……そういう神話なんだ。だからあるいは、この船も……」
『イエス』
突然、
『ザ・シップ・オブ・ザ・ライフ──』
「「ッ!?」」
朗々と声が響いた。少年たちはしゅばりと
『──バイ・ザ・ライフ、フォー・ザ・ライフ。少年たちよ、ようこそ我が箱舟へ』
「姿を見せやがれ。てめえ、どこのどいつだッ!」
『それは全く当職の
何やら間延びした
敵意があるのかないのか。かえって、キノコ守り二人は緊張を強める。
『すぐ甲板へお迎えに上がる。その間、そこに保全されたコレクションを楽しんでくれ……箱舟! ネクタイが気に入らん。別のものを』
「コレクションだって!?」
『興味があるかね。ちょうど
ミロはつい、
(……か、海外の動物!?)