錆喰いビスコ9 我の星、梵の星
1
(…………。)
風が吹き付ければ、レッドの炎の髪がばさばさと躍り、夜に美しくなびいた。
『かっ』と見開かれた両目には
その、隆々たる筋骨。
人呼んで『
地球最後のキノコ守りであった。たくましく組まれた両の腕の中に、脅すように張り出したその胸が、レッドが『女戦士』であることを最後に付け加えていた。
(今日が、あたしの。)
(
(
レッドの本名である。己の名をひとつ
その腕、いや、レッドの全身には、まるで
勝て、ビスコ。
勝て──
(勝つさ。)
レッドは己の中に
(あと少しの辛抱だ。あたしの中の、幾千人の英霊たち。)
今やレッドの中には、それら魂の
負けるわけにはゆかぬ。
自分のため。英霊たちの無念のため。そして……
「ビスコ!」
澄んだ声が、背後からレッドに呼びかけた。
そして、その
「探したよ。一人で動いたら、危ないってば!」
「ミロ!」
レッドとは魂の
「逃げたと思ったか、あたしが?」
「まさか。でも、思いつめてたから。一人で行ったかもとは思うじゃん」
「行くわけない。あたしは約束は守る!」
すねたように頰を膨らませるブルー、レッドはその隣に飛び乗って肩を組み、強引に相棒の頭を胸にかき抱く。
「怒るなよお。あたしとおまえ、死ぬときは一緒さ。だろ?」
「むう~~っ……」
アクタガワは少女二人のやりとりに、
「──だめだよ、死んだら。シュガーのために、生きて帰らなきゃ」
「そうだ、ミロ。シュガーはどうした?」
「カプセルベッドの中で、ぐっすり寝てる。チロルが
「で、そのチロルは?」
「あっ……」
「お~~い、バカパンダ!!」
理知的な声が
アクタガワの足元にへたりこみながら、くらげ髪の少年が恨みがましく言う。
「あほか。ぼくが結界を張っている間に、置いていくな!」
「ご、ごめん! ビスコが心配で……」
「乗れ、チロル!」
笑ってレッドが差し出す腕を、汗だくのチロル少年は黒縁眼鏡越しに
やがて眼鏡を直し、「ふん!」と鼻を鳴らして助けを借りると、引っ張り上げられた
「いいか
〈
チロルが発するその名前こそ、キノコ守りの宿敵。人類の魂を奴隷とし、滅びの静寂の中に君臨する、歯車の神である。
レッドたち三人と一匹、この場に残った最後のキノコ守りたちの使命は、この
「お前の
「…………。」
ブルーがわずかにうつむき、
「……パウーの命を無駄にはしない。あたしが負けるもんか」
「ビスコ……」
「行こう」
レッドは短く言いながら、決意の弓をその手に構える。
「あたしの中には、死んでいった皆の力が宿ってる。だからあたしを信じろ、ミロ。みんなで生きて帰って、かならずシュガーを抱き締める!」
ぎらりと輝く
「……うん!」
ブルーが強く
眼下に広がる滅びの世界を見ながら、レッドは炎の髪をなびかせる。
『
『骨折り 身を焦がしても』
『
(わかってる!)
(勝つ。)
(絶対に、勝つ!)
(あたしのために死んでいった、みんなの魂のために!!)