今度は下半身が中空で組み上がり、痛烈な回し蹴りをその背中に叩き込んだのであった。少女たちは何度も岩肌を跳ね飛んで土埃を上げる。
「ミロ!!」
「ううっ……」
「ばかな。そんな、ばかな、」
血塗れの身体で這いずり、同じく傷だらけのブルーを抱き締めて、レッドが苦悶にうめく。まだ意志は死んでいないものの、歯を喰いしばった顔には隠し切れない驚愕がにじんでいる。
「あたしは確かに、おまえを、殺したはず……!!」
「死んだとも。」
一方の錆神ラストは、生成した上半身と下半身をくっつけながら、悠然とレッドの方へ歩いてくる。コキコキと腰を回して具合を確かめながら、表情は氷のようだ。
「鍛え抜かれた見事な技。倭を殺すに足る一撃だった。しかし一度や二度殺されたとて、倭にとって大したことはない。」
「な……なん、だって……!!」
「倭は、錆神。喰った魂の数だけ、産まれてくることができる。」
絶望的なひとことである。
圧倒的な実力を持っているとはいえ、死ねばお終いの人間であるレッド。一方の錆神ラストは、一度の死をかすり傷ほどにしか感じないのだ。
「さあ、何を倒れている? 続きをしようではないか。」
「……な、何だと……!!」
「倭はおまえのように強いものが好きだ。実力をもってさだめに抗い、気高く生き切ろうとする高潔な戦士の魂──」
ラストは言いながら、
「──それが、」
と続け、美貌に徐々に嗜虐の笑みをにじませてゆく。
「倭のまえで見る影もなくへし折れ、ついには恥も外聞もなく、足元にすがりつく。その愉悦たるや! 魂が気高ければ気高いだけ、それを踏みにじる快楽は増してゆく。」
「こ、この、野郎……!!」
まさに、生命への冒瀆……。
少年なのは見た目だけ。錆神ラストの本性は、誇りある魂を貶めることを喜びとする、外道のサディストであるのだ。
「そうやって、全ての戦士の魂を、辱めてきたのかよ!!」
「他人ごとのようだな。じきおまえも、泣いて、倭に赦しを乞うようになるのだぞ。」
「誰が……!!」
レッドは言って、ラストの背後から土埃を立てて走ってくるアクタガワの姿に、思わず眼を見開いた。少女たちの危機を救うべく、ひび割れた甲羅のまま猛然とラストへ突き進んでくるのだ。
「アクタガワ!!」
「どうにもいまいち、当事者意識が欠けておるようだな、レッド。」
ラストは腕組みしたまま、振り向きもしない。
「これではつまらん。どうすれば、死に物狂いでかかってくる? ……そうだ、」
そこで気が付いたようにラストは振り向き、躍りかかってくるアクタガワの巨体をしげしげと眺める。
「〈兄弟分が死ぬ〉というのは、どうか?」
その、錆神の瞳の奥で歯車が回れば、両腕の手首に備わった必殺の歯車圏が、高速で回転しだす。そこから発せられる凄まじいエネルギーに、レッドが思わず叫んだ。
「!! やめろ、アクタガワ、来ちゃだめだッッ!!」
制止の声、しかしビスコを護ろうとするアクタガワの突進が止まることはない。その必殺の大鋏の一撃を、ラスト目掛けて振り下ろす!
ばぎんっっ!!
「──ああっっ!?」
吹き飛んだのは……
アクタガワの鋏のほうである! ラストはほんのわずかに腕をかざしただけで、質量で圧倒的に勝るアクタガワの腕を千切り飛ばしたのだ。
「よく見ろ、レッド。おまえが弱いから、こうなるのだ。」
「やめろ─────ッッ!!」
「死ね。」
大きく身体を反らしたアクタガワの無敵の甲殻を、
ずがんっっ!
ラストの拳が貫くのが見えた。絆を結んだアクタガワのその最期を眼前にして、レッドは魂が震わすような悲鳴を上げる。
「うわあああ──っっ!! アクタガワ──────ッッ!!」