錆喰いビスコ9 我の星、梵の星

3 ③

 今度は下半身が中空で組み上がり、痛烈な回し蹴りをその背中にたたき込んだのであった。少女たちは何度も岩肌を跳ね飛んでつちぼこりを上げる。


「ミロ!!」

「ううっ……」

「ばかな。そんな、ばかな、」


 まみれの身体からだいずり、同じく傷だらけのブルーを抱き締めて、レッドがもんにうめく。まだ意志は死んでいないものの、歯をいしばった顔には隠し切れないきようがくがにじんでいる。


「あたしは確かに、おまえを、殺したはず……!!」

「死んだとも。」


 一方のさびがみラストは、生成した上半身と下半身をくっつけながら、悠然とレッドの方へ歩いてくる。コキコキと腰を回して具合を確かめながら、表情は氷のようだ。


「鍛え抜かれた見事な技。を殺すに足る一撃だった。しかし一度や二度殺されたとて、にとって大したことはない。」

「な……なん、だって……!!」

は、さびがみった魂の数だけ、産まれてくることができる。」


 絶望的なひとことである。

 圧倒的な実力を持っているとはいえ、死ねばおしまいの人間であるレッド。一方のさびがみラストは、一度の死をかすり傷ほどにしか感じないのだ。


「さあ、何を倒れている? 続きをしようではないか。」

「……な、何だと……!!」

はおまえのように強いものが好きだ。実力をもってさだめにあらがい、気高く生き切ろうとする高潔な戦士の魂──」


 ラストは言いながら、


「──それが、」


 と続け、美貌に徐々にぎやくの笑みをにじませてゆく。


のまえで見る影もなくへし折れ、ついには恥も外聞もなく、足元にすがりつく。その愉悦たるや! 魂が気高ければ気高いだけ、それを踏みにじる快楽は増してゆく。」

「こ、この、野郎……!!」


 まさに、生命へのぼうとく……。

 少年なのは見た目だけ。さびがみラストの本性は、誇りある魂をおとしめることを喜びとする、外道のサディストであるのだ。


「そうやって、全ての戦士の魂を、はずかしめてきたのかよ!!」

「他人ごとのようだな。じきおまえも、泣いて、ゆるしを乞うようになるのだぞ。」

「誰が……!!」


 レッドは言って、ラストの背後からつちぼこりを立てて走ってくるアクタガワの姿に、思わずを見開いた。少女たちの危機を救うべく、ひび割れた甲羅のまま猛然とラストへ突き進んでくるのだ。


「アクタガワ!!」

「どうにもいまいち、当事者意識が欠けておるようだな、レッド。」


 ラストは腕組みしたまま、振り向きもしない。


「これではつまらん。どうすれば、死に物狂いでかかってくる? ……そうだ、」


 そこで気が付いたようにラストは振り向き、躍りかかってくるアクタガワの巨体をしげしげと眺める。


「〈兄弟分が死ぬ〉というのは、どうか?」


 その、さびがみの瞳の奥で歯車が回れば、両腕の手首に備わった必殺のぐるまけんが、高速で回転しだす。そこから発せられるすさまじいエネルギーに、レッドが思わず叫んだ。


「!! やめろ、アクタガワ、来ちゃだめだッッ!!」


 制止の声、しかしビスコをまもろうとするアクタガワの突進が止まることはない。その必殺のおおばさみの一撃を、ラスト目掛けて振り下ろす!

 ばぎんっっ!!


「──ああっっ!?」


 吹き飛んだのは……

 アクタガワのはさみのほうである! ラストはほんのわずかに腕をかざしただけで、質量で圧倒的に勝るアクタガワの腕を千切り飛ばしたのだ。


「よく見ろ、レッド。おまえが弱いから、こうなるのだ。」

「やめろ─────ッッ!!」

「死ね。」


 大きく身体からだを反らしたアクタガワの無敵の甲殻を、

 ずがんっっ!

 ラストの拳が貫くのが見えた。きずなを結んだアクタガワのそのさいを眼前にして、レッドは魂が震わすような悲鳴を上げる。


「うわあああ──っっ!! アクタガワ──────ッッ!!」




刊行シリーズ

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