2 セフレ -FWB-②

「はあ……」

「セフレがいたら、恋人を作っちゃ駄目なの? 友達なだけなのに? 男友達なのに? 昭和の価値観ですか?」

「ええ……、でも友達とセフレは違うし……」

「じゃあ日本全国に百万人近くいる、セフレがいる女性は恋人を作っちゃ駄目ってことですか! セフレ差別ですか!」

 ルインは大きな声で、堂々と言った。百万人という数字はどこから出てきたんだろうと俺は思った。

 ルインの主張は、たぶん冷静に考えたら色々とツッコミどころがあるのだろうと俺は思った。だが、すぐには反論は思いつかなかったし、恋愛に関する議論で、経験豊富なルインに自分が勝てるはずがないことはわかり切っていたので、一旦その土俵には上がらないことにした。

 代わりに言った。

「わかったわかった。セフレのことは置いておこう」

「置いたね? 今、置いたね?」

「はい、置いた、置いたよ」仕方なく、早口で答えた。

「置いたね。そして捨てたね?」

「捨ててはいない」さり気なく捨てさせるな。「セフレはいてもいいとして──」

 ん? いいのか?

 あんまりいていいものではないのでは? と思ったが、一旦話を進めた。

「告白だよ、告白。なんで俺に告白するの?」

「ワタのことが好きだから、っていう理由じゃダメ?」

「えー……だってそれ、絶対にうそじゃん」

うそだらけだよ、この病んだ現代社会は」

「主語を大きくしてごまかそうとするなよ」

うそってそんなに悪いことですか? 駄目なんですか?」

「道徳の教科書か?」

「まあ…………その辺はさ、ノリと勢いでなんとかならない?」

「ならないよ。全く腹落ちしないよ」

「いいじゃん」ルインは居直るように言った。「私たち恋人だよ? 付き合ったらきっと楽しいよ? デート行こうよ。ディズニーランドとか行こうよ。一緒に下校しようよ。キスくらいならさせてあげるよ」

 キス、という言葉を聞いて、自分の脳がぐらっとするような感覚があった。セフレとはセックスしているくせに、俺とはキスだけかい、という気持ちも若干あったが、実際に照れてしまったのだから仕方がなかった。

 それと同時に、自分がキスごときで照れるような人間であることを、絶対にルインには悟られたくないと思ったので、ぼんのうをはねのけるように、あえて大きな声で言った。

「話をらすな。何回も聞いてるけど、告白の理由はなんだよ」

「じゃーそろそろ真面目に話そうか」とルインは重い腰を上げたように言った。「なぜ私が、好きでもないワタに付き合おうと言ったのか」

「お……おう」ついに、好きでもないって認められてしまった。さっきまで直接的には言ってなかったのに。

「昨日私とキスをしていた人、あおさきとうっていう一つ年上の先輩なんだけど」

「はあ」

「どんな人だったか覚えてる?」とルインは聞いた。

 昨日、ルインのキスを見た時、俺は男の方をなるべく見ないようにしていた。どうしても嫉妬心をてられるだろうと思ったからだ。

 だから今となってはどんなやつだったのかは思い出せない。正直なところ、金髪だったことしか覚えていなかった。

「あまり」と俺は言った。

「元はと言えばこの人が、私がワタに告白した発端なんだよね」

「ふうん」そこがつながってくるのか。

「繰り返しになるけど、私が青崎先輩を好きな気持ちっていうのは、本当にないんだよね」とルインはさっきよりも真面目な声色で言った。「青崎先輩って、本当に中身のない人だから。話も面白くないし、会話も合わないし、鳥くらいの記憶力しか持ってないから。ただ体格がよくて、イケメンで、聞き分けがいい。本当に、セフレになるためだけに生まれてきたような男なんだよね。チンコが本体で、それ以外の部分はサブっていう感じかな」

「めちゃくちゃなことを言うな」

「まあ、事実だから」ルインは淡々と言った。い悪いはともかく、動かしがたい事実なのだという調子で。「私と青崎先輩の付き合いって長いんだよね。もう一年以上セフレ関係を続けていて……そうそう、私ってセフレのいる女の子の中では真面目な方なんだよね。同時に二人以上のセフレは持たないし、セフレを好きになることもないから」

 真面目な方、ねえ。

「ルインが好きにならなくても、青崎先輩が好きだって言ってきたらどうするの?」と俺は聞いた。

「うーん」ルインは意外と長く悩んでから、「」と言った。

「困るんだ」困った後に、どうするんだろう。

「ともかく私は、青崎先輩に、付き合いが長いだけの恩義? のようなものを感じてるんだよね。って名の通りにね。付き合いたいって言われたら困るけど、力になって欲しいって言われたら力になるし、彼がバイトをしてる名画座の掃除の手伝いもしたことがあるよ。まあこれは私が、青崎先輩の退勤を待っている時間がもつたいなくて、勝手に中に入って手伝ったんだけど」

「ふうん」自然とあいづちを打ったが、なぜだかざらりとした感情が胸の中に広がった。

「繰り返しになるけど、私が青崎先輩を好きな気持ちっていうのは、本当にないんだよね」とルインはさっきよりも真面目な声色で言った。「青崎先輩って、本当に中身のない人だから。話も面白くないし、会話も合わないし、鳥くらいの記憶力しか持ってないから。ただ体格がよくて、イケメンで、聞き分けがいい。本当に、セフレになるためだけに生まれてきたような男なんだよね。チンコが本体で、それ以外の部分はサブっていう感じかな」

「めちゃくちゃなことを言うな」

「まあ、事実だから」ルインは淡々と言った。い悪いはともかく、動かしがたい事実なのだという調子で。「私と青崎先輩の付き合いって長いんだよね。もう一年以上セフレ関係を続けていて……そうそう、私ってセフレのいる女の子の中では真面目な方なんだよね。同時に二人以上のセフレは持たないし、セフレを好きになることもないから」

 真面目な方、ねえ。

「ルインが好きにならなくても、青崎先輩が好きだって言ってきたらどうするの?」と俺は聞いた。

「うーん」ルインは意外と長く悩んでから、「」と言った。

 「困るんだ」困った後に、どうするんだろう。

「ともかく私は、青崎先輩に、付き合いが長いだけの恩義? のようなものを感じてるんだよね。って名の通りにね。付き合いたいって言われたら困るけど、力になって欲しいって言われたら力になるし、彼がバイトをしてる名画座の掃除の手伝いもしたことがあるよ。まあこれは私が、青崎先輩の退勤を待っている時間がもつたいなくて、勝手に中に入って手伝ったんだけど」

「ふうん」自然とあいづちを打ったが、なぜだかざらりとした感情が胸の中に広がった。

「で、青崎先輩には彼女がいるんだけど──」

「セフレがいるのに彼女もいるんだ」と俺は言った。

「私も彼氏がいる時期に、青崎先輩とセフレになったからね」と、ルインはなんでもないことのように言った。「それで彼女に、私との関係がバレそうになってるらしいんだよね」

「やっぱりバレたらまずいの?」

「そりゃまずいでしょ」とルインは言った。あ、そこは常識的なのかと俺は思った。「恋人がいるのに他の人と関係を持っているのは、一般的には二股であり、うわとされるよね」

「そりゃそうか」と俺は言った。「ちなみに、なんでバレそうになったの」

 ルインはやや渋い顔で言った。「私と青崎先輩が二人でカラオケから出てきたところに、運悪く彼女と鉢合わせたんだよね」

「ふむ」

「絵に描いたような修羅場でしょ?」ルインはちょっとだけ面白そうに俺に笑いかけた。

「確かに、修羅場だね」

「でも私ってほら、前向きだから、『まだばんかいできる』って思って。『あ、彼女さんですかー。私はただの友達ですよー』みたいな感じで」

「うん」

「でも青崎先輩はチンコに脳みそがついてるから、明らかに挙動不審みたいな感じになっちゃって」

刊行シリーズ

宮澤くんのあまりにも愚かな恋の書影
宮澤くんのとびっきり愚かな恋の書影