第二章 鍛えろ! 魔力トレーニング!②

 想像もしたくないのだが、どうにもいにおそわれるたびに俺のりよくうつわは大きくなっている。それが分かるのだ。

 いにたいこうするためにいになる。いつしゆんじゆんしているように思えるが、それはちがう。

 筋トレのようなものなのだ。あふれるりよくに合わせて身体からだが強制的に成長する。だから痛い。

 思えば筋肉痛とか、成長痛とか、人の身体からだが成長するときには痛みがついて回ってる。いとはうつわの成長痛なのだ。だから、意図的にいを起こせばうつわは大きくなる。

 じゃあ、どうやれば意図的に引き起こせるかというと、これは簡単なことで全身にあるりよくを下腹部にあるりよくうつわもどせば良い。そうすればうつわの限界をえて、いが起きる。

 けど、死にたくないからといって自分から死にに行くのはほんまつてんとうだ。

 ……どうしよう?

 これはんだかも……と思いながら、しばらくもつきんで遊んでいたところ、ふとおなかがぎゅるぎゅるとゆるむのを感じた。赤ちゃんの身体からだは自分の精神で思うようにできないこともあり、俺はその場ですることを済ませる。

「イツキ。こっち来て。んねして」

「う!」

 においに気がついた母親にさそわれるがまま、俺は母親がいたタオルの上に横になる。そして、おむつを取りえられているタイミングで……ふと、思った。

 このタイミングで全身のりよくうつわもどしたらどうなるんだろう?

 今の状態でうつわりよくもどせばいが起きるのはちがいない。そして、俺のおなかの中にはまだ出せていないモノもある。思えば最初にいにおそわれたときは、アレに合わせてりよくを外に出した。それでいになってもすぐにのがれることができた。

 だとすれば……だとするんじゃないのか? 物はためしだ。……やってみよう。

 というわけで俺は全身のりよくうつわもどした。

 次のしゆんかん、腹の底から熱があふれる。泣き出してしまいそうな痛みと熱がおそってくる寸前に、俺は完全に出し切った。

「もう! おむつえる前だったから良かったけど……」

 母親にお小言を言われてしまった。まぁちょっと良くないことをしたな、とは思う。反省。

 ただ、それはそれとして問題はこんな浅い、いと呼べもしないような物でりよくうつわが大きくなっているかどうかだ。

 俺は意識を身体からだの中に向けてみて、総量を実際にはかってみる。目をつぶって、うつわの中に残っているりよくの熱を感じるのだ。はたから見れば、ただおむつをえられてる赤ちゃんだけど、気持ちだけはしゆぎようそうである。

 何回か呼吸をはさんで、それでも実際に腹の中の熱を感じ取ってみて、確信した。

 うつわが、大きくなっている。

 ちがいない。本当にごくわずか……きっと総量の一パーセントに満たないレベルだけど確実に大きくなっているのだ。

 痛みにえる時間は無く、死のきようおびえることもなくうつわの拡張に成功した。

 次のしゆんかん、俺のテンションは一気に上がった。

 やった! やったぞッ!

 これで上がるなという方が無理あるだろ。だって痛くないんだぞ!? 痛くないのに、いからのがれられるんだ!

 増えてる量はとてもわずかだけど、痛くないからセーフだ。

 このトレーニングを……そうだな。仮にはいせつトレーニングとでも呼ぼう。

 これを続ければ早々にいからのがれられる。だから後はこれを続けるだけだ。どうせ赤ちゃんのひまつぶしなんてろくなものがないのだ。これでつぶせるならむしろ一石二鳥って感じもする。

「……え? りよくを」

 だが、俺がそんなことを考えていたのもつかの間。

 母親はおむつをえる手を止めると、顔色を変えて立ち上がった。

そういちろうさん!」

 立ち上がると、父親の名前を呼びながら走って部屋から出ていってしまった。

 ちょっと、あの、俺のこの格好はどうすれば……。

 いくら赤ちゃんとはいえ下半身丸出しはずかしすぎるのだが、幸いなことに母親はすぐに父親を連れてもどってきた。

「イツキがりよくはいしゆつする方法を覚えた?」

「そうなんです。けど、私のかんちがいかもしれなくて……」

 部屋にやってきた父親は、あろうことかえる前のおむつにそっと手をかざした。くさそう。

 というか手をかざしたくらいで何が分かるんだろう……と思ったが、父親はやけにしんけんな顔をしてから、

「確かにはいしゆつされてるな。これならしばらくいは起きないだろう」

「や、やっぱり外に出てるんですね。良かった……」

 父親の言葉に安心したのか深く息をき出す母親。

「しかし、生まれてまだ一年だろう? こんなに早くりよくを外に出す方法を覚えるなど聞いたことがない。……強い子だな」

「たまたま外に出せたということですか?」

「うむ……。たまたまかも知れないが……しかし、もしかするかも知れんな」

「もしかするとは……?」

 心配そうに聞く母親に、父親はずいぶんともったいぶって答えた。

「もしかするとイツキは天才かもしれないということだ!」

 父親は一気にやわらかい表情へと顔を変えると、俺のほっぺをつんつんしてきた。

「もう、心臓に悪いことを言わないでください……」

 そんな父親とは打って変わって、母親が父親のじようだんにため息をつく。

 あの、それはそれとして俺のおむつ早くえてほしい……。

「まっ! まぁー!」

 この口だとママと言えないので、しやべれる言葉だけで母親におむつをえてほしいとねだる。だが、先に反応したのは父親で、

「む? もしかしてイツキがパパと言ったか!?」

 呼んだのは母親です。

 しかし、俺がツッコむ間もなく、母親が気がついた。

「ごめんね。イツキ。いまえるからね」

 そしてしゃがみ込むと、ばやくおむつを取り出しながら父親に対して口だけ動かす。

「あなた。この子はおむつをえてしがっているんですよ」

「……む。おむつか」

 ちょっとがっかりした様子の父親。

「どうです? あなたがえてみますか?」

「……いのか? 泣かないか?」

「今は男の人も育児に参加する時代ですから」

 母親がにこやかにそう説明する。そういえば前世で男のせんぱいが育休を取ろうとして上司に小言を言われていたことを思い出した。ふつに育休なんてがいねんあるんだろうか。無さそうだな。

「む。そうか。じゃあ、やってみよう」

「えぇ。まずはおむつを外しておしりくんです。やさしくしてあげてくださいね」

「……うむ」

 視線だけで人を殺せそうな男がおむつを前にかくとうしている様子がおもしろくて、俺は思わず笑った。笑ったら父親の寄ったまゆがちょっとだけゆるんだ。

「良かった。泣かないな」

「泣きませんよ。お父さんですから」

 その言葉を聞きながら、俺の兄か姉か分からないけれど……父親はその子のおむつをえなかったんだろうかと、そんなことを考えた。


 少しだけいを起こすトレーニングは兆候が見えたら欠かさずにやることにした。

 タイミングは母親がおむつをえる直前。理由はそこが一番不快感が少なく済むからだ。大人になったので忘れていたが、おむつの中にアレがあるのは不快で不快で仕方ない。そして、赤ちゃんの身体からだは一定以上不快ゲージがまると泣いてしまう仕組みらしい。

 だからねむたいのもダメ。おむつの中にソレがあり続けるのもダメ。おなかいた状態でずっと放置されるのもダメ。ダメなことだらけだ。とはいっても、一歳にもなればそれらをある程度はまんできるようにはなってきてるけど。

 だからおむつをえるタイミングを待たなくて済むようにトイレのタイミングではいせつトレーニングをしようと思ったのだが、なんと一歳ではトイレトレーニングをしないのだ。

 それまではこのおむつと仲良くしなければいけない。

刊行シリーズ

凡人転生の努力無双3 ~赤ちゃんの頃から努力してたらいつのまにか日本の未来を背負ってました~の書影
凡人転生の努力無双2 ~赤ちゃんの頃から努力してたらいつのまにか日本の未来を背負ってました~の書影
凡人転生の努力無双 ~赤ちゃんの頃から努力してたらいつのまにか日本の未来を背負ってました~の書影