第二章 鍛えろ! 魔力トレーニング!③

 新しい人生で初めてできた友人がおむつかと思うと不安で仕方がないが、終わり良ければ全て良しとも言うし、前世では出来なかった友達づくりも現世ではがんっていきたい。

 そんなこんなでいからのがれるために始めたはいせつトレーニングはすっかり自分の中にみ付いていて、今もまさに終えたところだ。

「イツキ。今日もりよく出せてえらいね~!」

「まちょ! まちょー!」

「そう。たくさん出さないと、おなかいたいいたいなるからね」

 母親からめられるとうれしくなって、思わず俺は手をたたく。

 トレーニングを始めてから数日ほどったのだけど、体外に出すようにしたら目に見えて母親が安心しだした。えいの列を見れば、安心する理由は痛いほど分かる。

 だからというわけではないが、はいせつトレーニングにも熱が入る。やっぱり母親にはできるだけ安心していてしいと思うのだ。

 いつしゆんだけりよくうつわもどして、外にはいしゆつすれば俺はしいところだけを得ながらいのきようからのがれられる。いの仕組み的に俺がそれで死ぬことはないのだ。

 やってることと、ちゆうの姿はあれだけど、これでも俺の人生初めての親孝行だと思ってます。

 というか、母親が安心しているところを見ると、不思議と俺も安心する。その気持ちを思い返してみれば前世でも子どものときはそんな気持ちをいだいていたような気がするのだ。俺は一体いつからそんな気持ちを忘れてたんだろうか。

 俺が母親にされるがままになっていると、父親が部屋に入ってきた。

カエデ。今年の『七五三』が終わったぞ」

「……そう、ですか」

 そのたんこつに母親の表情がくもる。

 なんで七五三で……?

 いや、思い返せば母親は『どうか無事に、三歳をむかえられますように』と言っていた。

 ということは、七五三で何かあるんだろうか?

「心配するな。イツキは強い子だ。きっと、何事もなく三歳をむかえてくれるはずだ」

「本当に、無事に育ってくれれば良いのですが……」

 そういう母親のことじりはどんどんと小さくなっていく。

 き、気になるなぁ……。

 ふつになることが決まっているなら、死なないために強くなる。

 そう目標を立てたのは良いけど、ふつになる前に死んでしまっては元も子もない。だから気になるのだ。三歳までに何が俺におそいかかってくるのかが。

 父親も母親も明言しないから、俺の中で不安がだんだんとつのっていく。

 けど、俺はもういつまでもているだけの赤ちゃんじゃない。分からないことは聞いてしまえば良いのだ。

「ちゃんちゃ?」

 三歳、と言いたかったのだが、やっぱり歯がそろってない口だとく言葉が発せない。

 発せなかったのだが、父親がすごい勢いで食いついてきた。

カエデ! いまイツキがパパと言わなかったか!?」

 最近気がついたのだが、父親は親バカである。

 そんな父親にしようしながら、母親が続けた。

ちがいますよ。この子は三歳と言ったんです」

「もう言葉が分かるのか! かしこいな!」

「もちろん分かりますよ。絵本をたくさん読んでるんですから」

「そうか。やっぱりイツキは天才だな!」

 父親はそう言うと、そっと俺をきかかえた。

いか、イツキ。三歳までな、お前は何度もいにおそわれるだろう」

「む……」

「だが、三歳を過ぎたら身体からだが必要以上のりよく身体からだに取り込まなくなる。そうすればお前はもういにおそわれなくて済むのだ!」

 ……何?

 思わずまゆをひそめてしまう。

「わはは。イツキにはまだ難しかったかな?」

 そう言って父親が高らかに笑うのだが、俺が気になったのはそこじゃない。

 三歳になればいにおそわれなくなる。確かにそれは良いことだ。今みたいにずっとりよく量に気を配っておく必要がなくなるんだから。だが、だからと言って手放しに喜べるようなものでもない。

 いが起きなくなるってことはうつわを大きくすることが出来ないということじゃないのか。

「イツキが三歳になれば七五三か。りよく量の測定もあるな」

「そうですね。本当に、無事に育ってほしいです」

 何だか俺の知っている七五三と意味がちがう気がするが、そんなことはどうだって良い。うつわを大きくするトレーニングを行えるのがあと二年しかないというのが問題なのだ。

 何しろほうの使用回数はりよく量にぞんする。

 る前に父親から聞いた話によると、ふつの死亡率の第一位はモンスターからの不意打ちで、二番目はりよく切れ。だからうつわを大きくしておくことはひつである。

 そうだというのにいになるのが三歳までとなるとトレーニング期限は残り二年。これを問題と言わずしてなんと呼ぶ。

 ……いのひんを増やした方が良いかもしれない。

 せっかく生まれ直したのだ。『あの時、ちゃんとやっておけば』なんてこうかいをしたくない。

 そんなことを考えながら父親にっこされていると、ふと父親が首をかしげた。

「なぁ、カエデ。イツキのりよく総量……増えてないか?」

「えっ?」

 とつぜん、呼びかけられた母親がきょとんとした表情をかべる。

 うつわに入るりよくの総量が増えているということは、たった数回だけどトレーニングの成果が出ているということになる。俺はやり方をちがえていないことをさとって、思わず笑った。

 もっとだ。もっともっと大きくする。りよく切れなんて起こさないように。

 トレーニングを続ける決意を固めている横で、母親が明らかにあきれた様子で父親に告げた。

「何を言ってるんですか。りよく総量は生まれたときから決まってるものでしょう?」

「それは、そうなのだが……」

 父親は歯切れの悪いことを言いつつ、表情をにごらせる。

 へー。りよく総量って生まれたときから変わらないんだ。

 ……ん? じゃあ何で俺のうつわは大きくなってるんだ?

 自分でも量は増えたと思っているし、父親も増えたと感じている。

 だから、それ自体はちがいではないはずだ。

「気のせい、か? いやしかし、前にいたときは今よりも少なかったと思うが……」

「〝〟と戦いすぎなのではないですか? きっとおつかれなんですよ」

「……ふむ」

 なつとくのいっていない様子の父親はうなずきながら俺を『たかいたかい』する。

 それがくすぐったくて笑ってしまいながらも、俺はふとある可能性に思い当たった。

 もしかして、うつわが成長するのは三歳までなんじゃないのか。

 つまり、三歳までは身体からだが適正な分のりよくを取り込めないため、キャパオーバーしいを起こす。いが起きるからうつわが成長する。でも、三歳になるにつれ身体からだうつわに合わせたりよく量の取り込みが出来るようになってくる。そしていが起きなくなる。いが起きないからうつわの成長は止まる。

 そして、りよく総量をはかるのは七五三のとき。完全に成長が終わったときだ。

 だからうつわを広げられる──つまりりよく総量が増やせることが知られてないんじゃないのか。

 いや、そもそも『増やせる』という考えがちがいなのかも知れない。

 俺だってりよくあやつれることを知らなかったら、自分でいを起こしてうつわを大きくするなんてことは思いつかなかった。同じことをの芽生えていないつうの赤ちゃんができるとは思えない。

 だから正しくは三歳までになんじゃないのか?

 それは、もしかしたら俺の考えすぎなのかもしれない。

 ただ、事実として俺のりよく総量は増えている。

 それだけ分かれば十分だ。後はこれを続けていくだけ。

 だから俺は、気合いを入れるためにうでいつぱいのばした。

「おーっ!」

「いまパパって言ったぞ!?」

 言ってねぇよ

刊行シリーズ

凡人転生の努力無双3 ~赤ちゃんの頃から努力してたらいつのまにか日本の未来を背負ってました~の書影
凡人転生の努力無双2 ~赤ちゃんの頃から努力してたらいつのまにか日本の未来を背負ってました~の書影
凡人転生の努力無双 ~赤ちゃんの頃から努力してたらいつのまにか日本の未来を背負ってました~の書影