第一章 医者はどこだ!③
「……あのう、
呼びかける
「……治すって、俺は医者じゃねーよ」
そもそも人形は生き物ではない。漢字を当てるなら、〝直す〟が正しい。
「そ、そんなぁ! そこをなんとか、お願いするでござるよ!」
何度頼まれようと、関わるつもりはない。
「治療にかかる費用は当然お支払いいたしますから! 謝礼もするでござる!」
「もっと有効な金の使い方があるだろ。プライズってことは、これゲーセンで
「それではダメなのでござるよ! 拙者はこの
新品を拒む
「とにかく、これは持ち帰ってくれ。昼飯の邪魔だ。スマホでセクシー女優の写真集をおかずにしながら焼きうどんパンを食うのが俺のライフワークなんだよ」
「それ、おかずの意味間違ってねーか
「
「思い出すのでござる
(……ああ、もう、やめてくれよ)
大声を出すなと思った。同級生達に、過去の熱情を知られてしまうのが怖かった。
近距離で叫ばれ、耳がキーンとする。痛い。耳が痛い。両手で塞いで、遮音しなければ。
「……いいから、早く片付けてくれよ。フィギュアなんて、もう俺に持ってくるな」
耳だけでなく、心にも蓋をする。いまの自分はただのエロス大魔神。利他的な行動などするわけがない。
そう思って、腕を机の上に乗せた、そのとき。
「──あれぇ?
街でばったり知り合いと出会ったような驚き声が聞こえた。
反射的に顔を向けると、教室の後方出入口から一人の女子生徒がこちらに駆けてきていた。
「え、やば! なんでこんなところに
「せ、拙者が持って参ったのでござる」
「おー、
肘の先で
「
「さすが
「でも、壊れちゃってるから……
少女の視線が
「ちょっと、いきなり走り出さないでよ、かぐや」「誰だし、
遅れて入室してきたクラスメイトの女子達がかぐやの
「そういや《姫》を忘れてたな」「姫なら軽そうだし、俺らでもワンチャンあるかも……」
またしても
秋の名月のような輝く金色に染められた巻き髪は、竹製の髪飾りと共に、見る者を
陽気なテンションで男女問わず打ち解けることができ、既に新クラスの中心人物。
早速女子のグループを形成し、食堂でランチタイムを共にしてきたのだろう。
そんな彼女を、一部の男子はこっそり姫と呼ぶ。由来はもちろん、かぐや姫。
「おおー、フリルの造形細かーい。ポーズも決まってる。あ、顔の表情もいい、かわいー」
かぐやはネイルが
「……かぐやって、そういうものが好きなの? その、オタク的な……」
「だってあたし、オタクだし。オタクに優しいギャルじゃなくて、オタクなギャルだし」
「……
「なにー、引いた? せっかく仲良くなったけど、エンガチョする?」
少女達は慌てて首を横に振るが、かぐやを見つめる目は気まずそうなままだ。
「うーん、総じて良き出来かな。──じゃあ最後に、肝心なところを……」
破損したパーツまで味わい尽くしたかぐやは、人形をぐるりと天地逆転させた。
「ちょっ、かぐや!?」
人の形を
その角度から
「なーる、
「や、やめなって、はしたないよ!」「そんなとこまで見たら、人形だって
「ノンノン。そんなところまで見てこそ、この子の魅力を完璧に理解できるのだ」
人形の秘めたる場所をガン見していく。
「ふもふも、ごっつぁんでごんす」
「や、やっぱりそういうところまで作ってあるんだ?」
「当たり前じゃん。何もはいてないほうがおかしいし、問題でしょ。むしろここを見たいがために買うまである。立体物だからこその場所だし」
女子達は
衝動のままに速攻でひっくり返す者もいれば、懸命に己を律する者もいるかもしれない。
だが、そんな聖人気取りであっても、いずれ必ず、ひっくり返すときがくる。
なぜなら、美少女フィギュアとは、そういうものだから。
その前提があるからこそ、見えない部分まで作り込んであるのだから。
全人類をエロス大魔神と化させる、悪魔のような偶像なのだから。
「パンツ見られるより、手足や頭が取れちゃってるほうがよっぽど
ようやくスカートの中から視線を外したかぐやは、破損パーツを拾い、くっつけと念じるように胴体に押し付ける。ポリ塩化ビニルの塊は、粘土のようにはくっつかない。
「ダメだー、
「……別に俺だって