第一章 医者はどこだ!④
「
「新しいのを買えって、さっき
「……フィギュアが安くないの、知ってるくせに。
「それはプライズ品でござる」
「えっ、ゲーセンで
感心した様子で、かぐやは再度人形を見やった。
「それなら
「無論、その気持ちも少なからずあるのでござるが……」
「
「気にするなと言ってもずっと謝り続けてくるのでござる。きっと、罪悪感でいっぱいなのでござる。拙者と、それ以上に
けれど、間近で話をされれば、嫌でも聞こえてきてしまう。
「去年マジカルムーンを一緒に見て以来、妹は
「だから、このフィギュアでないとダメなのでござる。完全に元に戻らなくとも、傷痕が残ろうとも、妹にとって
「な、泣かせる話じゃねーか、
目頭を押さえたかぐやが、
女子生徒達の瞳も若干潤みを増し、
「ですから
同情は、した。けれど、旧友が深く頭を下げる様を見ても、まだ
「……そんなの、俺じゃなくたって……」
「あんたしかいないんだよ、
目を背けて逃げ出そうとする少年の首根っこを、かぐやの鋭い声が
「
「そうだぞ
「普段下品なことばっかり考えてんだから、たまには人の役にたちなさいよ、エロ
ついにはクラスメイトの男女達からも次々とけしかけられていき。
「このまま治らなかったら、
「…………わかったよ。直せば……治せば、いいんだろ」
肺の空気を全て吐き出し、
「か、かたじけのうござる
「ただし、治療費は一千万円だ。びた一文まけないからな」
「へあっ!? いっせんまんえん!?」
「……あ、悪い、言い間違った。千円な、千円」
日常生活で通常使用する桁数を思い出し、すぐに訂正する。
「あっはっはー、闇医者気取りかよ」
ケラケラと笑う少女におちょくられ、誰のせいだよ、と心の中で強く抗議した。
「つか、金取るん? そういうの、タダでやってあげれば格好つくのになー」「所詮はエロ
無責任に
「治すのだって材料費がかかるんだから、お金取るのは当然っしょ。あの
美談に仕立て上げようとする声に、返す言葉は何もなかった。
(……ただ、修復するだけだ。俺が一から作るわけじゃない)
決して昔に戻るわけではないのだと己に言い聞かせ、
用件を果たした
「
「うぐっ! ……無念なことに、今回も落選だったでござる」
「そっかー。じゃあ、またあたしが残念賞でヒロインのイラスト描いてあげっから」
その申し出に、
「
声援を受け、決意を新たにした作家志望者は、床を踏み鳴らしながら去っていった。
「かぐや、絵とか描けるん?」
「プロのイラストレーター志望ですけど、何か?」と横ピースを決めながら宣するかぐや。
「えっ、すごーい! オリンピックのロゴとかデザインしちゃうヤツでしょ?」
「……や、違う。ゲームのイラストとか、ラノベの挿絵とか描くヤツ!」
一般人のイラストレーターに対する認識に、オタク少女はショックを受けたように首を振った。
肩を落としながら、とぼとぼと自分の席へと歩いていく。
彼女の定位置は
「ん……? ──きゃああああああぁぁぁぁああぁああああぁぁぁ!!」
絹を裂くような悲鳴があがった。何事かと顔を向けた
「ちょ──!?」突如、上半身に衝撃を感じた。
飛びのくように自席を離れたかぐやが、そのまま
「お、おい! かぐやお前、離れろって!」
「いやあ! 虫!
かぐやは少しでも虫から離れようと
密着すればするほど、弾力性のある何かを胸で感じてしまい。
震える金色の髪から香る
「
「お前がそこにいたら無理だろうが!」
「いーやー! 早くなんとかしてよー!」
助けを求めて周囲を見回す。が、その先に救いの手はなかった。女子達は当然のこと、男子連中までもがかぐやの机から距離を置き、椅子を
(……これも、俺がやるしかないのか)
覚悟を決め、
「──随分と物騒な言い方だね」
そのとき聞こえてきた声は、静やかなれど、明瞭と耳の奥まで届く不思議なものだった。
教室のざわめきがぴたりと
彼女が通過した道には、
「
かぐやの机に近づいた