第一章 バクダンのバはバランスのバ①

「ん? あれ? 妹のあいちゃんからメッセージだ。なになに……」

 やまもとりん、アラサー、喪女、趣味はゲーム、漫画、アニメなどなど。

 そんな私がこれからかかり切りになるであろう新作ゲームが──、

「『LIALife is Adventureの抽選に当たったけど、どう? 羨ましいでしょう?』……いや、久し振りのメッセージがそれかい。というか、私も当選してるし。むしろ、廃プレイする準備を完璧に整えて、これからゲームを起動しようとする感じだし。『こっちも当たっていますが何か?』と返しておこっと。あ、ついでに『お幸せに~』とか追加しとこうかな? 最近彼氏できたみたいだし~? いや、それはこっちにダメージがあるからやめておこう……」

 そう、『Life is Adventure』……通称、LIAである。

 現実と全く変わらない五感が仮想現実ヴアーチヤル空間で再現できるようになって約五年──。その五年後に満を持して発売されようとしている本格派VRMMORPGこそがLIAなのだ。

 もちろん、この五年の間にVRMMORPGは沢山発売されている。

 だが、どれもこれもが新世代のVR機器の能力をフルにかしきれていないというか、五感に完璧に訴えかけてくるような画期的なシステムにまで達していなかったのだ。

 この問題に関しては開発費や開発規模、開発会社の技術力不足などが嘆かれていたが、今回のLIAに関しては違う。

 ゲームレビューを行った雑誌記者全員が満点をつけて絶賛し、あまつさえ「新世界をLIAは体験できる!」と最大の賛辞を送ったほどなのだ。

 開発元の株式会社ユグドラシルも、「LIAはひとつの別世界をコンセプトに、五感で世界を感じられるのはもちろん、自由度に関しても既存のRPGの枠を超える新時代のゲームです」とコメントしたのだからたまらない。

 当然のようにLIAはゲーマーを中心にいやおうなく期待感を高め、そんな熱にあてられたのか、一般の人たちも「それだけ言うならやってみようか」と、大きな社会現象となって、LIAをプレイしようという機運が高まっていったのである。

 お陰様で初回出荷本数十万本の購入は抽選制となり、私はめでたく十万人の当選者の一人として選ばれた、ということである。

 もちろん、LIAをプレイするための(LIAのためだけじゃないけど)新型VR機器マシンは購入済み。こういうことには全力を尽くすタイプというか、趣味が休日にゲームをプレイすることのオタク女ですから、ぬかりなしって感じだ。

 ちなみに、最新のVR機器はディスプレイ一体型である内蔵バッテリー付きのヘッドギアの形をしていて、これを頭にかぶることで脳内に流れる電流を読み取ったり、操作したりすることで、ゲーム内で感覚的に操作できるようになるんだそうだ(技術についてはあまり詳しくない)。

 更に言えば、先の電波新法の制定により日本国内での無線環境が飛躍的に改善し、従来のネットワークの不安定さや遅延などの問題は完全に解消されている状況だ。

 つまり、日本全国のどこだろうと、全員が同じ環境でプレイできるし、勝手にネットワークから切断されたりすることもないというわけである。

 うん。技術の革新って素晴らしいね。

「さて、それでは早速、お楽しみのLIAを起動するかな~。ぽちっとな!」

 VR機器の電源を入れ、ホーム画面から早速LIAの起動を選択する。なお、ソフト自体は当選者のみに配布されるユーザーコードとパスを使って、事前ダウンロード済みである。

「これは……宇宙かな?」

 LIAを起動した私の目の前には真っ黒で広大な空間が広がっていた。

 三百六十度見渡す限りの星空の中に一人の少女が浮かんでいるのが見える。

 うん、私だ。

 相変わらず、としとかけ離れた見た目をしている。こんなのどう見ても、十七、八の小娘じゃん。そして、目を見張るほどの美少女っぷりも健在。まぁ、そのおかげで引き籠もりになって、社会復帰しづらくなって、引き籠もりでもできるイラストレーターという職業に就いたんですけどね。ま、天職だからいんだけどさぁ。

 というか、美少女って要領良くないとキツイんですわ。もしくは、鋼メンタル持ちじゃないとね。

 男子は馬鹿みたいに下半身に従って告白してくるし、それを素っ気なくフッていると、今度は女子に何様のつもりだよと総スカンくらうし。

 私、何もしてないのに完全無視あんどイジメの対象だからね。人とのコミュニケーション能力も高くなかったからばんかいできなかったし、「もう面倒くせぇ!」って登校拒否してたくらいだし。

 まぁ、今はセンシティブな内容の絵をネットに平気でアップしてニヤニヤするぐらいの鋼メンタルにはなってるけど……いや、あの時はつらかったわー。

 というわけで、私の暗黒時代そのままの姿が宙に浮いている。

 成長? してないね! そういう体質っぽいからね! でも、一部は成長していて、更に男をせる感じになってるんじゃない? もう、何? 完全に女の敵じゃん。同性の友達が欲しいんだけども? 一応、あんまり着心地の良さそうじゃない布地の服の上下を着ているんだけど胸の辺りがパツパツだね! 見ているこっちが恥ずかしいよ!

 で、そんな私が目を開けると、こっちにすぃーっと寄ってきて私の目の前で止まる。


 ▼アバターの見た目を決めてください。


 そして、ずらりと整列する変更要素のアイコン群。

 うーん。決定できる項目多すぎじゃない? あ、一応、下にヒントとして思考スキャンで感覚的に見た目は変えられますと書いてあるね。

 つまり、髪の色に視線を集中させると……あー、髪の色の項目が選択されて、パレットが出てきたね。へー、一色を指定ってわけじゃなくて、グラデーションとか複数色、ピンポイントでの色変更も自由自在かぁ。流石さすが、自由度がはんないとか言っちゃうだけあるね。

 とりあえず、絵師としては細部にまでこだわりたい所存。

 そんなわけで色々と探していたら、種族選択なんて項目があった。これで、ベースの姿を変えられるみたいだ。人間、エルフ、ドワーフなんかは基本で、ゴブリンとか、ドラゴンなんかもあったりするんだけど……いや、ドラゴンとか選んで大丈夫なの? いきなりの四脚生活もあれだけど、周りに仲間いなそうだし、人間に討伐されそうになる未来しか見えないんですけど?

「あ、魔物族とかもある」

 これ、あせって始めた人は絶対見逃しちゃうやつだよね? しかも、このLIAはやり直しのリセットができない仕様だ。ワンユーザー、ワンアカウントのみって制限があるって説明書に書いてあったからね。これ、見逃しちゃった人は残念だけど種族変更は諦めてって感じなのかな?

 しかし、私は何を選んだらいのかなって、考えている目の前でドラゴンの選択肢がすっと消えた。

「これ、特殊な種族は人数制限あったりする?」

 もし、そうだとしたら早いもの勝ちだ。のんびりと容姿を決めている場合じゃないのかもしれない。いや、でも、あせって変な種族にしちゃうと、その後のゲーム進行が大変になっちゃうよね? ここは慎重に、でも急いで……。

「うん。人族だけはやめておこう。中学時代の二の舞いになりたくないし」

 人族のアバターは容姿をあんまり変えられないみたいなんだよね。人の域を出るなってことなのかな? とにかく、男に寄ってこられてゲームどころじゃない事態にだけはなりたくない。

 とはいえ、魔物族もなかなかに個性的な見た目の連中が多い。やっぱり、人間っぽい見た目のやつがいいのかな? 尻尾でバランスとって歩くとか難しそうだし。

「吸血鬼とか? うーん、弱点がわかりやすいのはちょっと……」

 有名すぎて、弱点丸わかりの種族もNGだね。対人戦で対策されて終わる未来しか見えない。

 色々と探していたら、ちょっといものを発見してしまった。

「ディラハンねぇ……」

 首なし騎士として有名なデュラハンのLIAバージョンなんだけど、アンデッドじゃなくて妖精扱いみたい。

 というか、なんでデュラハンじゃなくて、ディラハン? とは思うけど、まぁ、ゲームによって呼称が変わったりするのはよくある話だしね。どう見てもスライムなのに、ゲルとかって名前だったりすることもあるし。

 だから、このゲームではディラハンって呼称なんだろうなぁって納得することにしとこう。そこツッコんでも仕方ないし。

 まぁ、もしかしたら、デュラハンって聞くとアンデッドのイメージが強いから、それとは別で妖精ですよ~って運営が言いたかったのかもしれないね。

 というか、ディラハンは首なし騎士というくくりのせいか、最初から立派なよろいと武器を持ってる。これって、しよぱなの金欠時に装備の買い替えが必要ないのでは?

 とりあえず、種族をディラハンにしてみて、見た目を確認。

 そうしたら、私の生首を小脇に抱える首なし女騎士ができあがった。

「怖っ!」

 というか、視線の位置大丈夫? 酔わない?

 そう考えていたら、視線がアバターのものに変化して急に下がった。

 うーん。違和感はあるけど慣れるかな?

 というか、頭の位置を元に戻せば問題ないか。

 えいっと頭を首にドッキングさせたら、普通に強そうな騎士状態になっちゃったよ。

 うん。いい感じ。よし、種族はディラハンにしよう。

 で、よろいのデザインはちょっと細部にこだわってカッコわいくしようかな? 今は何かズングリムックリの肉壁タンクみたいなデザインだからね。もっとシャープで格好いいけど、女性らしさも出したエロ格好いい感じにしてみよう。流石さすがにビキニアーマーはないけど、ある程度の肌露出はありかな?

 そんな感じでデザインをいじくりまわすこと三時間──。

刊行シリーズ

デスゲームに巻き込まれた山本さん、気ままにゲームバランスを崩壊させる3の書影
デスゲームに巻き込まれた山本さん、気ままにゲームバランスを崩壊させる2の書影
デスゲームに巻き込まれた山本さん、気ままにゲームバランスを崩壊させるの書影