第一章 バクダンのバはバランスのバ②

 できました!

 すっごいこだわった結果、肩とか脇とかふとももとかを見せつけちゃっている白銀の女騎士ができあがりました! ナニコレ、どう見てもディラハンじゃない!

 というか、ディラハンを種族に選んだら、馬車とかんおけのデザインまでできるようになったんだけど? え? 付属品なの? どういう設定?

 なので、そちらも思い切り格好良くしてみました!

 ちょっとした宇宙船みたいな馬車に、どこの宝箱だよっていうぐらいごうけんらんかんおけをデザインしましたよ! で、ようやくアバターの容姿を決定!

 決定してから気付いたけど、私自身の容姿をいじってなかった……。髪をよろいに合わせて銀髪にしたぐらいで、素の私の顔のまんまになってるんだけど? デザインに凝りすぎたせいで疲れてたんだよ……。

 キャンセルしようと思ったら、『キャンセルした場合はアバタークリエイトを一からやり直すことになりますがよろしいですか?』という文字が出てきた。

「マジかぁ……」

 三時間の努力の結晶を無に帰せと? いや、無理だって。

「まぁ、顔はかぶととかかぶれば誤魔化せるはず……」

 とにかくやり直しは嫌なので、そのまま進める。

 で、アバターの後はユニークスキル決め。

 ユニークスキルはランダムで決められるんだけど、気に入らなかったら何度でも引き直しできるらしい。事前に作られていた攻略サイトでは、アバターに凝るよりも、こちらのユニークスキルガチャに時間を突っ込むのが正解だとか書かれていたっけ。

 なにせ、ユニークなスキルだ。つまり、LIAの世界にひとつだけのスキルとなる。

 要するに、これもいユニークスキルは早いもの勝ちということになるのだろう。

 というわけで、私よりも早くアバターを仕上げた人たちは、いユニークスキルを求めて絶賛引き直しの真っ最中に違いない。下手をすれば、もうユニークスキルを決定して、ゲームを開始している人たちもいるのかも。

 うーん、ここは急いだ方がいのだろうか?

 私が悩む目の前で、スキルの名前が入れ替わり立ち替わり変化している。どうやらランダムで変わっているらしく、目押しはできなそうだ。

「まぁ、気に入るまで引き直しができるんだから、大して考えずにぽちっと」

 止まれ、と意識した瞬間にランダムで移り変わっていたスキル表示が止まる。

 そこに書かれていたのは……。


 ▼ユニークスキル:【バランス】

 これに決定しますか? ▼はい / いいえ


 バランス……?

「え、どういうスキル? 普通、スキルって剣術とか、魔法とか、そういうのじゃないの?」

 疑問に思っていたら、答えが返ってきた。


【バランス】

 全てにおいて、バランスがとられる。


 全てって書いてあるってことは、行動の全てに補正がかかるってことかな? 攻撃動作とか回避動作に補正がかかって有利に動けるとか、バランス感覚が良くなるとか、そういうこと?

 ディラハンなんて種族を選んじゃったものだから、近接戦闘がちょっと不安だったんだよね。

 しかも、全てにおいてって書いてあるのは、どの場面でもスキルが発動するってことだ。

 だから、適用範囲が広いとみた。

「まぁ、運動神経はい方じゃないし、これでいっか」

 とりあえず、『はい』を押して決定。

 ユニークじゃないコモンスキルっていうのもあるし、足りない分はそういうので補っていけばいでしょ。

 とにかく、今はデザインに使った三時間をさっさと進めて巻き返したい気分。

 というわけで、ゲームスタートだ。


◆◇◆


 ゲーキョ! ゲーキョ!

 はい、開始早々、森の中スタートなわけですが……。

「あれ? 人族じゃないと、始まりの町的な場所からスタートじゃないの?」

 どうやら人外は始まりの町的な場所からスタートじゃなくて、どこぞの森の中からスタートするみたい。これは種族的差別なのでは?

 とりあえず、チュートリアルとかないのかなーって考えていたら、視界の端にヒントマークが出てきた。えーと、『チュートリアルは街中で受けることができます。まずは、近くの魔物族の街を目指しましょう』かぁ……。

 そして、視界に現れる白い矢印。これに向かって進めってことかな?

 あ、またヒントが出てる。

 えーと、何々? 『道中ではモンスターが出てくることもあります。ステータスが初期状態の方は、スペシャルポイントを割り振って、能力を強化しておきましょう』……?

 いや、チュートリアル前に戦闘の可能性があるのはおかしくない? その戦闘のイロハを知るためにチュートリアルに向かうんだよね?

 とりあえず、ヒントに従って、自分の能力を確認するためにステータス画面を開いてみよう。

 なになに? ステータスと念じるだけで、簡単にステータスウインドウが開くと……おっ、開いた。


【名前】ヤマモト

【種族】ディラハン(妖精) 【性別】♀ 【年齢】0歳

【LV】1 【SP】30

【HP】170/170 【MP】120/120

【物攻】22(+12) 【魔攻】8

【物防】25(+15) 【魔防】25(+13)

【体力】17 【びんしよう】5 【直感】4

【精神】12 【運命】7

【ユニークスキル】バランス

【種族スキル】馬車召喚

【コモンスキル】なし


「おぉ、硬い、強い! そして、ノロい!」

 物理攻撃力や防御力なんかは立派な(デザイン頑張った)よろいや剣を装備しているから強いのはわかる。後は、魔法系も割と使えるのは、妖精種族だからかな?

 その代わり、びんしようや直感が鈍いから、素早い動きや攻撃をかわすといった動きは苦手な感じ。うん。純粋重騎士ですね、わかります。

 HPもMPもそれなりにあるから、割と戦闘でもゴリ押しでどうにかなるかな?

 しかし、種族スキルとかいう見たことも聞いたこともないものがあるんだけど?

 何だろうね、コレ?


【種族スキル】

 種族固有で使えるスキル。ドラゴンであればブレスなど。

 その種族が保有している固有のスキル。


 なるほど?

 つまり、私の場合はディラハンだから、馬車が召喚できると。

 ん? 馬車を召喚して、それに乗って移動すれば、速度遅い問題も全て解決するのでは?

 いや、そんなにくはいかないかな?

 とりあえず、【馬車召喚】のスキルの詳細が見たいと願うと、次の表示が出てきた。


【馬車召喚】

 消費MP:100

 馬車を召喚し、標的に死を宣告する。

※スキル実行後、二十四時間以内に標的を定めて、死を宣告してください。その標的を【馬車召喚】後、二十四時間以内に倒すことができれば、【馬車召喚】のスキルが終了し、馬車と 内部のかんおけ(簡易セーブポイント)が消滅します。標的を倒せなかった場合には、【馬車召喚】から二十四時間経過後に、HPに百パーセントのダメージを受けます。


「何というピーキーなスキル……」

 一度使ったが最後、誰かに死の宣告をして、相手を倒さないと私が死んじゃうらしい。

 なんて使い勝手が悪いスキルだ……と思っていたけど、

「よく考えたら、死の宣告に制限はないわけだから、別にフィールドのモンスター相手に死の宣告をして、倒せばオッケーだよね?」

 つまり、死の宣告をして相手を倒さない限り、二十四時間乗り回せる乗り物が手に入ったとも考えられるわけだ。

 いやー、すごいね、ディラハン! めちゃ便利!

 しかも、馬車の中にあるかんおけは簡易セーブポイントらしい。至れり尽くせりでしょ。

 いや、待てよ……。

 かんおけが簡易セーブポイントなら、もしかして馬車の中はセーフティエリアになってるんじゃない?

「ちょっと試してみよう。【馬車召喚】!」

 私が、そう叫ぶと同時にデンドロ○ウムみたいなデカい馬車が現れる。

 うん。森の中を走ることとか全く想定していないデザインだ。

 いいんだもん! デカくて格好いいデザインにしたかっただけなんだもん!

 森の木々をりながら現れた馬車の内部に乗り込むと、これまた簡素というか、随分とすっきりとしたデザインになっている。

 うん。モチーフとしては、近未来型の宇宙船内部をイメージしているから、滑らかな曲線と金属の融合が随所に見られるデザインになってるよ。

 あと、馬車にはあるまじきコンソール画面のようなものも付けた。

 ちなみに、このコンソール画面は元々馬車に付属していた首なし馬さんだ。

 それを、姿形を散々改良して、コンソール画面に変更して、馬車を自走式にデザインし直したのが今の姿である。むしろ、よろいのデザインよりも、馬車の大改造に時間を使った形だ。その分、馬車操作は楽できるけど。


 ▼セーフティエリアに入りました。


「おぉう、予想通り。馬車の中はセーフティエリアかぁ」

 セーフティエリアとは、その内部にいる限り、一切の攻撃行為が無効になる空間で、そこではモンスターも仕掛けてこないし、PKプレイヤーキルもできないという一種の無敵ゾーンのことである。

「ここでなら、いきなり戦闘になることもないし、安全だし、今の内にスペシャルポイントでも割り振っちゃおうかな?」

 スペシャルポイントとは、ステータス画面に表示されたSPというやつで、このポイントを使用することでステータスを上げたり、新たなスキルを覚えたりすることが可能なポイントのこと──と、攻略掲示板に書いてあった。

 しかし、このスペシャルポイント……略してSPは入手手段が限られているので、気軽に使えるものではないらしい。

 基本は、レベルアップ時にもらえたり、新たな発見や称号を取得したり、上級職に転職クラスチエンジする際にもらえるものらしいので、かつに割り振って取り返しがつかなくなる可能性もあるみたい。

 だから、ここはちょっと慎重に様子をみた方がいいかもね。

刊行シリーズ

デスゲームに巻き込まれた山本さん、気ままにゲームバランスを崩壊させる3の書影
デスゲームに巻き込まれた山本さん、気ままにゲームバランスを崩壊させる2の書影
デスゲームに巻き込まれた山本さん、気ままにゲームバランスを崩壊させるの書影