第一章 バクダンのバはバランスのバ③

「とりあえず、今は街に向かってみようかな? チュートリアルでSPの使い方を教えてくれる可能性もあるわけだし」

 というわけで、馬車から出て、改めて街の方向矢印の向きを確認し──、

 ──ガサガサガサッ!

 なんか、近くの下草が激しく動いているんですけど?

「いや、改めて草のグラフィックを見るとすごいね? 何の違和感もなく草だよ。これ、どれだけリアルに作り込んであるのさ?」

 いや、草だけじゃない。

 森の中は虫とか鳥の鳴き声であふれていて、なんとも言えない騒々しさに耳が痛いし、草いきれの香りなんかもリアルで実際に森の中にいるというのがヤバいぐらいに実感できるほどだ。

 感動!

 ……じゃない! 今はそんなことに感動している場合じゃなかった。

 私はガサガサと動いた草むらに意識を向け、いつでも動けるように身構える。

「キィー!」

「おぉう!?」

 身構えていても、反射的に避けられるかどうかは別問題でしたー。

 草むらからいきなり飛び出してきた額に角が生えたうさぎの突進をもろに食らって、私はその場に尻もちをついてしまう。

「いったぁ~……」

 HPバーが瞬間的に視界の端に現れ、一割ほどがぐぐっと削れる。

 一応、ダメージエフェクトみたいなのが飛び散ったので攻撃を受けたのはわかったんだけど、エフェクトがなければ本気で動物に襲われたみたいなリアルな怖さがあった。

「リアルすぎるってのも考えものだね。ちょっと怖いし……」

 私に突撃してきたつのうさぎは後ろ足で砂をくような動作をして、やってやったぜ感を出してくる。むむっ、うさぎのくせに生意気な!

「あ! 【鑑定】ぐらいは最初に取っておくんだった! 相手の名前もわからないじゃん!」

 とりあえず、仮名はつのうさぎとしておこう。

 つのうさぎは、後ろ足で地面を三回いた後で、またもや私に突進。尻もちをついている私に回避する術はなく、またも直撃をらってHPバーがググッと減ってしまう。

「わわっ、タイム! タイム!」

 私は叫ぶけど、もちろんつのうさぎは聞いてくれない。

 とにかく、立たないと駄目だ!

 ふんぬっと気合を入れて立ち上がったところで、つのうさぎがまたも突進してくる。

「ギャー!」

 突進の衝撃で、またも転びそうになるのをなんとか踏ん張る。

 ひーんっ! モンスターが強すぎて嫌なんですけども~! というか、私、タンクビルドのくせに盾持ってないし! 色々と装備が間違ってる気がする!

「げ! またぁ!?」

 つのうさぎが後ろ足で砂をいている。

 それを見て、慌てて剣を構える私。もちろん、剣の振り方なんか知らないけど、一直線につのうさぎが突っ込んでくるのはわかっているんだから、相手の通り道に剣を置くだけでずんばらりんとなるはずだ!

「キィー! キィー! キィー!」

 あ、何かつのうさぎが赤く光った! まさか、戦闘系のスキル!?

「ひええっ!?」

 怖すぎて、思わずしゃがみ込んだ瞬間に、持っていた剣にやたらと重い衝撃がかかる。

 何? 何が起こっているの?

 というか、何か視界の端にダメージエフェクトが飛び散っているのが見えるんですけど!

 見上げると、ささげるように持っていた剣の刃につのうさぎが引っかかっている! さ、作戦成功?

「あ、あっち行けぇ!」

 剣を振って、つのうさぎを地面にたたけると派手なダメージエフェクトが飛び散る。

 ちゃ、チャンス……?

 起き上がるも、片足をって私から距離をとろうとするつのうさぎ。そんなつのうさぎの姿にちょっとだけ同情しながらも、私は無慈悲に剣を振り下ろす。

「たぁーっ!」

 そして、飛び散るポリゴンエフェクト。

 私の視界の端に戦闘結果が表示され、私はようやくあんのため息を漏らす。

「やっ──……」


 ▼経験値33を獲得。

 ▼ほうしようせき8を獲得。

 ▼【バランス】が発動しました。

  取得物のバランスを調整します。

 ▼ほうしようせき25を追加獲得。


「た──……えっ?」

 あれ? 今、なんか変な表示が追加されていたような?


◆◇◆


【バランス】

 全てにおいて、バランスがとられる。


「バランスがどうとか書いてあった気がしたから、改めて確認してみたけど……。これって、そういうこと?」

 自分のユニークスキルの性能をまじまじとにらみつける私。

 私はてっきりバランスというのは、身体能力的なバランス感覚の強化だと思っていたんだけど、改めて見てみると『全てにおいて』という文言が頭についている。

 私はそれをどんな場面でも力が発揮できるのだろうと勝手に解釈していたんだけど、どうやら違ったみたい。

 というか、戦闘のリザルトに関してバランスをとってくるとは思わなかったよ。

「つまり、アレでしょ? 経験値33に対して、ほうしようせき8だとバランスが悪いから、ほうしようせきがトータルで33になるように、追加でほうしようせき25を獲得したと……。いや、それバランスとれてる? 逆に壊れてない?」

 他の人のユニークスキルがどういうものかは知らないけど、このユニークスキルは絶対におかしい。どう考えてもぶっ壊れている気がする。

 だって、お金を稼いだらバランスをとるために今度は大量に経験値が入ってくるんだよ?

 戦わずして、商取り引きしてるだけでレベルが上がるとか意味わかんないし。

 こんなの絶対対象じゃない、まったくも~。

「はぁ、ユニークスキルのことは後で考えよう。とりあえず、モンスター相手でも苦戦した現状を反省しつつ進もう……」

 ステータスを確認してみたら、既にHPが108になっていた。タンク的なステータスビルドのくせに、モンスター相手にHPの四割を削られるとは情けなし。

「というか、実際に戦ってみてわかったけど、リアルに動物に襲われるのって普通に怖い」

 さっきはうさぎだったからまだ良かったけど、デカいとかかまきりだったら、正直剣を放り出して逃げる自信がある。それだけリアルで怖かった。

 なので、私は考えた。

「直接戦わなければいいのでは?」

 目の前にはセーフティエリアを兼任する大きな馬車がある。

 そして、セーフティエリアにはなんぴとも侵入できないし、破壊もできないはず。

 つまり、この馬車は無敵なのだ。

「なるほど。ひらめいた」

 私は馬車の屋根に上ることにした。


◆◇◆


「キィー! ──ギャッ!?」

 勇猛果敢につのうさぎが草むらから飛び出してきたかと思ったら、馬車にかれて吹き飛ばされていく。流石さすがは無敵ゾーン。馬車の屋根の上に乗っている私はなんともないぜ!

 そして、馬車にかれるとそれなりにダメージが入るのか、一発でうのていになったらしいつのうさぎ。そんなつのうさぎに馬車の屋根から、んしょ、んしょと降りてきた私が剣を振り下ろしてトドメをさす。

「ぐっばい!」

 そして、飛び散るポリゴンの光。

 うん。今、私はもしかしたら地上最強の生物になっているのかもしれない。

「馬車無敵作戦は今のところ順調だね。って、あ、レベルが上がっ──」


 ▼ヤマモトはレベルが1上がりました。


 ▼【バランス】が発動しました。

  ステータスのバランスを調整します。

 ▼物攻が9上がりました。

 ▼魔攻が11上がりました。

 ▼物防が9上がりました。

 ▼魔防が7上がりました。

 ▼びんしようが14上がりました。

 ▼直感が15上がりました。

 ▼精神が7上がりました。

 ▼運命が12上がりました。


「んんん?」

 今、何かおかしなシステムメッセージが流れたような……。

 私はなんとなく不安になって、心の中でステータスオープンと念じてみる。


【名前】ヤマモト

【種族】ディラハン(妖精) 【性別】♀ 【年齢】0歳

【LV】2 【SP】32

【HP】141/190 【MP】190/190

【物攻】31(+12) 【魔攻】19

【物防】34(+15) 【魔防】32(+13)

【体力】19 【びんしよう】19 【直感】19

【精神】19 【運命】19

【ユニークスキル】バランス

【種族スキル】馬車召喚

【コモンスキル】なし


「ステータスが全部19にまで上がってる!」

 まさか、ステータスのパラメーターまでバランスをとって上がるとは……。

 多分、レベルアップで体力の値が17→19にアップしたと思うんだけど、それに【バランス】さんが反応して、全てのパラメーターのバランスをとって、全パラメーターが19に上がった感じ?

「そこは平均値をとって……いや、それだと【アベレージ】になっちゃうのか……いやいや、やっぱりおかしいでしょ!?」

 LIAでは、レベルアップごとにステータスのパラメーターがランダムで2上がる仕様なんだよ? けど、私の場合は【バランス】さんが発動して、レベルアップの度に全パラメーターが2上昇するわけだ。ステータスのパラメーターは全部で九つあるから、私は1レベル上がるごとに普通の人の九倍の速度で成長することになるってことで……うん。

「どう考えてもこのユニークスキルはおかしい……」

 これは完全に修正入りますわ~、対象ですわ~、とか考えながら馬車の屋根へと戻る。

 どのみち、修正が入るであろうスキルに対して、今からやきもきするのも仕方ないので、とりあえずは気にしない方向でいこう。その方が気持ち的にも楽だしね。

「とりあえず、今日は街に着いてからログアウトしようっと」

 既に森の中を彷徨さまよはじめて三十分ぐらいはっている。

 うん。私の馬車が大きすぎて、矢印の方向にぐ進めないのがいけないんだけど、それでも流石さすがにこの陰鬱な景色には飽き飽きとしてきたところだ。

 リアルと一緒だからこそ、飽きるのも早いというのは如何いかがなものか。

 というか、そろそろ中世ヨーロッパ風の街並みが見たいんだけどなぁ。

 というわけで、馬車をドリドリと走らせていたら──、

「ぎゃーす!?」

「えぇっ!?」

 ──まさか、人をくとは思ってもみなかったよ。

刊行シリーズ

デスゲームに巻き込まれた山本さん、気ままにゲームバランスを崩壊させる3の書影
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