第1章 深窓の令嬢の夜の顔④
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それから数日、何ごともなく時間は過ぎていき──、
ある日の昼休み。
このクラスでは時々珍しい光景を見ることができる。それは女子のグループの中にひとりだけ男子が交じって、楽しそうに盛り上がっているシーンである。
今も教室の一角ではそれが展開されていた。
輪の真ん中に置いてあるのはいくつかのファッション雑誌。それが話題の中心のようだ。
そこに学食に行っていた男子のグループが帰ってきた。
「お、なんの話なんの話?」
「俺らも交ぜてよ」
だが、少し遅れてそこから抜け出す影がひとつ。……
彼は不満がありありと表れた顔で僕を見つけると、こちらに寄ってきた。
「よっ」
片手を上げて、挨拶代わりの発音。
「あいつらさ、オレが女子と話していると、すぐに入ってくるんだよね。チカ、どうにかしてくんない?」
「僕に言ってどうする」
チカ──
「あいつら、普段クッソ下品な話ばっかりして、ぜんぜん面白くないんだよな」
「その言い方も品がないと思うけどね」
ただ、
連中はいわゆるリア充グループだ。ただし、人として品があるとは思えなかった。女子のいないところで男子らしい品のない話をしているのを何度も聞いているし、
「あいつら一回、ひとりずつ闇討ちしてやろうか」
僕は
彼は見た目に似合わず好戦的だ。格闘技の有段者だと聞いたこともある。むしろ名は体を表すで、名前の通り男らしいのだ。ファッション関係の知識が豊富なのは純粋に趣味であり、決して女子に近づく口実などではない。そして、僕が
「で、チカは今日もひとり寂しく読書?」
「まぁね」
まぎれもない事実だった。僕は昼休みの
「気楽でいい」
というのは半分本当で、半分
僕が一年のときのクラス担任である
最初は物好きなと思っていたが、僕が今の状況を気楽だと言っていられるのもこのふたりがいるからなのだろう。本気で孤立していたら精神的に参っていたかもしれない。
「最近何か面白いことあった?」
「こんな学校生活を送ってる僕に何を求めてるんだ」
正直、この環境自体が面白いと言えば面白いのだが、たぶんこの答えでは彼の期待には応えられないだろう。
気まぐれに僕は教室内を見回した。
女子のグループのひとつが目にとまる。
その中心で
視線を感じたのか、
「あれ? 今、
不意に横から声。
見上げると、いつの間にか横にひとりの女子生徒が立っていた。長い黒髪をポニーテールにした、背の高い女の子だ。名を
「そうか? 気づかなかった」
「おかしいな? そんなふうに見えたんだけどな」
彼女の顔には何やら納得しかねる感じの複雑な表情が浮かんでいた。
確かに
「
「いや、オレも気づかなかったよ」
セレナが男のような口調で聞くが、
「ま、そういうこともあるさ」
僕はそう言ってこの話を流してしまうことにした。