第1章 深窓の令嬢の夜の顔⑤
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その日の夜。
僕は先日と同じ時間に、同じコンビニに行ってみた。
さりげなくイートインコーナーの全面ガラスの前を通ってみると、そこに
僕はガラス越しに片手を上げて応える。
「ま、まさかまたきてくれるとは思いませんでした」
店の中に入ってイートインに回れば、
「何となくいる気がしたんだ」
いなければいなかったでコーヒーでも飲んで帰るつもりだった。
「わたしもです。昼間目が合ったからでしょうか。ここで待っていたら
どこか
「ちょっと素敵ですね」
「なのかな」
僕にはよくわからない感覚だ。
「あ、そうだ。ちょうどいいです」
「どうした? 何か話か?」
「はい。えっと……」
「実は今度、自分の好きな服で街に出かけようと思ってるんです」
やがて口を開き、そう告げた。
「いいんじゃないか。それは正しいことだと思う」
要するにギャル系ファッションで出かけようという話なのだろう。周囲の勝手なイメージに振り回されず、自分の好きな
「ありがとうございます……!」
僕の肯定に、
「そ、それでですね……
「うん?」
だが、続く彼女の言葉に僕は首を
「なぜ僕が? 一緒に行ってくれそうな友達ならいっぱいいるだろう?」
「クラスの子たちには、わたしがこういう服が好きなのを知られたくないんです」
人のためか自分のためかはわからないが、まだどこかイメージを崩したくない気持ちがあるのかもしれない。これが
「じゃあ、ひとりで行けばいい」
「そ、それもダメです」
「前に一度やろうとしたことがあるのですが、たくさん男の人が声をかけてきて、怖くなってすぐに帰ったんです」
「なるほど。それは難儀だな」
僕は
それで今度は僕をつれていこうというわけだ。
「ひとついい案がある」
「はい、何でしょうか?」
僕の提案に期待してか、
「セレナをつれていけ」
「せれな?」
どうやら誰のことかわからなかったようだ。
「
「ああ、
僕がフルネームを言えば、彼女はようやくその正体に思い至る。
「そう。セレナなら僕の価値観に近いから適任だ」
好きなファッションについては知られてしまうが、範囲はセレナひとりにとどめられる。しかも、彼女は人の趣味をとやかく言うような女の子ではない。加えて男避けとしても十分に機能する。
「あ、あの、つかぬことをお聞きしますが……」
「
「そうだけど? セレナも僕のことをチカと呼んでる」
理由は言わずもがな。僕が孤立してしまって、好き好んで接してくれるのが
たぶん彼女が誰よりもわかっていることだろう。
と、そこでなぜか
「どうだろう?」
「いやです。
今までの自信がなさそうにひとつひとつ確認するような口振りから一転、
僕は軽く
「いや、僕よりセレナのほうが──」
「だいたい」
と、
「好きな服を着ればいいと言ったのは
「その理屈は正しいとは思えないんだがな……」
僕は思わず腕を組んで、天を仰ぐ。
好きな服を着ればいいと言った以上、いざ
僕はしばし考えてから、
「わかった。つき合うよ」
「ほ、ほんとですか!?」
途端、
「それこそ言ったことの責任だ。アフターサービスくらいするさ」
そう答えて
「じゃあ、僕はこれで」
僕は立ち上がった。
「あ、はい、また」